第5話

 引き継ぎをした翌日、ぼくは朝早く起きた。天気は快晴。今日は朝から天使様と瘴気を集める予定だ。教会堂を軽く清掃していると、天界へのポータルが開く音がした。


「お、おはようございます、天宮さん……ふぁ……」


 若干眠そうな声をだしながら、天使様がポータルからやってきた。昨日と同じく天使様の標準服を着ている。ミディアムロングの金髪は相変わらずボサボサで、目の隈の濃さもあまり変わらないようだ。どうも昨日たまたま寝不足だった、というわけではないらしい。


 天使様の背中には瘴気を入れるのであろう背負いかごが、その手には長いトングがそれぞれ2セット握られている。そういえば、道具の話は昨日は全然していなかった。準備してもらえたようで助かった。さすが、瘴気集めが得意というだけはある。


「おはようございます、天使様。瘴気集めの道具を用意して頂けたようで、ありがとうございます」


「い、いえ、予備も含めて持っていたので大丈夫でした。どうぞ」


 天使様から渡された背負いかごを背中に、軍手とトングを右手に装備した。予備だったようで、それほど使い込まれてないようだ。ただの背負いかごとトングではなく、天界のアイテムのようで、特徴的なエンブレムがついている。


「あ、集め方を説明します。まず、私が見える範囲の瘴気を順番に実体化させます。天宮さんは私の後を追ってトングで実体化された瘴気を拾って背負いかごに入れていってください。私も逆側から集めていきます。また、ルルちゃんにはわずかに残った瘴気を食べるようにお願いしてください」


 流石に免許を持つ天使様なだけあって、説明する時はあまりどもらず喋れている。


「わかりました。集める区域の指示はぼくがします。外には人もまだ居ないようですし、早速始めましょう」


 そうして二人プラスルルちゃんで教会堂の外へ出た。朝日はまだ低く、肌寒い気温だ。もう少し厚着してくればよかったかもしれない。


 ぼくが区域の説明をすると、天使様は早速瘴気の実体化を始めた。は、はやい。ちょこまか動く姿は小動物を思わせる。ちょっとかわいい。あわててぼくも天使様の後を追って実体化された瘴気を拾ってゆく。最後尾はルルちゃんだ。


 瘴気集めは順調に進んだ。


「む……この瘴気は少し大きいですね……天宮さん、ちょっと手伝ってください。私がこちら側からトングで挟むので、天宮さんは逆側からトングで挟んでください。二人で真っ二つに割りましょう」


 汚れた身体で天使様はそう言った。ほんとに瘴気集めで身体をよごしている……いつの間に、どこで……


 1時間ほど瘴気を集め、ぼくらは一息ついた。達成感があるのか、天使様は嬉しそうだ。


「こ、こんなに早くおわりました!や、やっぱり二人で集めると早いですね!」


「そうですね。結構広い区域を清掃できました」


「い、今までは一人で瘴気を集めていたので新鮮でした!すごいです!」


 天使様、天界でぼっちだったのかな……ちょっとかわいそうになった。天使様はるんるん気分で教会堂に戻っていき、ぼくもそれに従った。


「さ、早速シャワーお借りしますね!ふひひ……」



――



 私はシャワーを浴びながら、鼻歌なんかを歌ったりしていました。今日は楽しかった!他の人と一緒に仕事をするなんて久々でした。やはり誰かと一緒って楽しいものですね。天宮さんのおかげです。

 それに昨日はごはんを食べさせてくれました。私みたいな落ちこぼれの駄目天使にも優しくしてくれるなんて優しい人です。免許取りたてでいきなり仕事をすることになってすごく不安でしたが、これならこの先も大丈夫かもしれません。

 このご恩は必ず返さねばなりません。どうしましょう……そうだ、私もちょっとだけお料理ができるので、朝食と夕食を作ってあげるのはどうでしょう。買い物は天宮さんにお任せするしかありませんが、調理なら任せてください!レシピを見ながらならそれほど失敗することはないでしょうし……うん、そうしましょう!



――――



「そ、そんなわけで、わ、わたしが天宮さんの朝食と夕食を用意したいです。ど、どうですか」


 天使様はそんな提案をしてくれた。


「そんな……そこまでして頂くわけにはいきません。そもそも、給料も頂くことになっているので、気にしないでください」


「い、いえ、これは給料とは別の感謝の気持ちです!別腹です!わ、わたし、本当に嬉しかったんです……それに、昼間は暇なので、い、いくらでもお任せください!」


 うーん……天使様に作ってもらうなんて恐れ多いが、どうしよう……さっきからどもっている割にぐいぐい来るんだよな……


「ま、任せきりというわけではなく、買い物は天宮さんにお任せしたいと思います。ふ、二人で分担したほうが絶対楽ですよ!」


 そう言って天使様はにこりと笑った。その笑顔がとても可愛らしく、思わずぼくは頷いてしまった。

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