第33話 洞窟探索(6)
転移魔法でブチさんの家の前に出ると、ブチさんとタマさんが毛を逆立てて驚いていた。
「ウニャァ! いきなりアキトが現れた!」
「ごめん、移動魔法で洞窟から戻って来たんだ」
「移動魔法? また便利なものを使うニャンね」
ものぐさのタマさんは羨ましそうに俺を見ている。
「まあね。ほら、ケーブマッシュルームがたくさん採れたよ。タマさんにも分けてあげようと思ってきたんだ」
カゴに入った大量のキノコを見てタマさんはぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「でかした、アキト。お前はできる子だと思っていたニャン」
「いやあ、それほどでも。それに俺だけじゃなくてオリヴィアさんがいてくれたおかげだよ」
「うんうん、オリヴィアもできる子ニャン。これだけあればウマウマのキノコ炒めが大量に食べられるニャ。ブチがベーコンを分けてくれるから一緒に食べるニャ。今夜はパーティーニャ!」
ブチさんの方をみると苦笑しながらもうなずいている。ベーコンは分けてくれるようだ。
「それにしても残念ニャ」
「なにが?」
「ケーブマッシュルームには最高の食べ方があるのだけど、それができないのが残念ニャンね」
「そんなのがあるんだ。なにか特別な調味料を使うとか?」
「そうじゃないニャ。ケーブマッシュルームは大ムカデと一緒に炒めると最高のアジになるニャンね」
「え……」
「でも、大ムカデはなかなか見つけられないから滅多に食べられニャいニャ。タマも最後に食べたのは五年以上前ニャ。死ぬ前にもう一度食べたいニャンねぇ」
「そ、そんなに美味しいの?」
「大ムカデは主にケーブマッシュルームを食べているから、相性が抜群ニャンよ。はぁ、思い出しただけでよだれが出るニャン……」
タマさんはのどをゴロゴロいわせてうっとりしている。
「あの、大ムカデならわたくしが仕留めたので洞窟に転がっていますわよ……」
「ニャンだと! ど、どうして持って帰ってこニャかったニャン!?」
「いやあ、大きかったし、なんだか気持ち悪くて……」
「バカ、バカ、バカ! アキトのバカああああっ! シャーッ!」
シャーッってすごまれてもなぁ……。あんなものを担ぐ気にはなれないもん……。
「アキト、場所はどこニャ?」
「ふぇ?」
「大ムカデが転がっている場所ニャ!」
「2番の招き猫から少し奥に入ったところ。通路が広くなって部屋みたいになっているところだよ」
「あそこか! よし、すぐにタマたちを移動魔法で連れて行くニャ」
「ごめん、それは無理だ」
「ニャンで!?」
タマさんとブチさん、二匹そろって泣きそうな顔はやめてほしい。そんなに美味いのか?
「俺の移動魔法は特定の場所にしか行けないんだよ」
ベースキャンプの祝福を使った場所だけだ。
「クッ、ニャらば仕方がニャい。ブチ、合図の拍子木を打ってみんなを呼び集めるニャ!」
「わかったニャ!」
ブチさんは集落の真ん中の方へ走っていった。
「どうするの?」
「もちろん大ムカデを取りに行くニャ。ムカデの大きさは?」
「二メートルくらい」
「それなら、全員で分けてもお釣りがくるニャ」
ものぐさのタマさんがここまで頑張るというからには、マーベル大ムカデはそうとう美味しいのだろう。
「なんだか悪いことをしましたね。わたくしたちがムカデを持って帰ってきていれば、こんな苦労はなかったでしょうが」
「いいニャ、いいニャ。少し運動した方が夕飯を美味しく食べられるニャ。大ムカデはタマたちが回収するから、アキトたちは休んでいるニャ」
ミニャンたちは徒党を組んで、ニャーニャー言いながら洞窟へ行ってしまった。
ありがたいことに、大ムカデの解体はミニャンたちがしてくれた。料理もタマさんが腕を振るってくれたのだ。
なんと、タマさんはミニャン族の中でも一、二を争う料理上手だそうだ。コロコロした体型から食べることが好きなのはわかるけど、技術もきちんと磨いているらしい。
エプロンをつけたその姿は恰幅のいい一流シェフに見える。
「お待たせしたニャ。マーベル大ムカデとケーブマッシュルームのソテー、チャイブとニンニク風味だニャ」
料理されたムカデは小さく切り分けられ、海老やシャコのようにプリプリだった。色も薄い紅色をしている。
「これがあの大ムカデ……」
「元の形状は消えていますわね……」
食べるのを躊躇しているとタマさんが俺たちを急かした。
「料理というのは完成とともに劣化が始まるニャ。すぐに食べるニャ。大丈夫、毒はないし、とっても美味しいニャ。食べないならタマが食べるニャ!」
「わかったよ……」
俺とオリヴィアさんは同時にフォークを取り上げて大ムカデの切り身に突き刺した。そして恐る恐る口へと入れる。
「うっ、美味い!」
「とっても美味しゅうございますわ!」
見た目からは想像もできない味だった。ケーブマッシュルームもすごく美味しかったけど、大ムカデの味にはかなわない。
「ニャハッハッ、美味いニャろ? さあ、英雄たち、これを飲むニャ」
ブチさんがとっておきの白ワインを勧めてくれた。
「まあ、ワインですか。わたくし大好きなのですよ」
オリヴィアさんもムカデに対して忌避感は完全になくなったようで、美味しそうに食べている。辛口の白ワインとの相性もいい。こうして俺たちはミニャンたちと楽しく夕飯を食べた。
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