【ヘルナイン】 第三代目 帝 爻炎剣帝成閻魔 菜奈条那自の異世界転生

倉村 観

第1話  天海突破

【地獄】それは「死んだ人の行き着く場所」と言われている。死者が生前に犯した罪を裁くために、地獄で働く獄卒たちは罪人たちにさまざまな責め苦を与えているという。



血の池と、その湖畔には針の山がそびえ立ち、山の頂上は炎で燃え上がっているという。


さらに恐ろしいのは山から吹き出す熱風であり、この風を浴び続けるとその者は焼け爛れた肌になってしまうとされ恐れられている。


 至るところから溶岩と豪華が吹き荒れ、その熱気と圧力に人が絶えられない。


常に獄卒たちが罪人を追い続けているため、死者たちは獄卒に捕まることを何よりも恐れているという。


また、この地獄には【版獣】様々な獣が住み着いている。


 黒き番犬 【ブラックドッグ】, 獅子の頭と体に蛇の尻尾を持つ怪物 【キメラ】,豚の頭とコウモリの羽を持つ怪物 【ウグルナ】, 獅子の胴に鷲の頭と翼、そして蠍の尻尾を持つ怪物 【マンティコア】という地獄の門番たちが地獄を徘徊している。また、この地獄には巨大な岩が点在しているが、これを「牛頭」といい、まるで人の顔のように見えるという。


さらにこの地獄は多数の針を持つ山で囲まれており、針の山には「大針の山」という巨大な山がある。この針の山は、罪人がたどり着く最初の山とされ、ここから登った道は「大焦熱の道」と呼ばれている。この道には火山の噴火口があり、常に溶岩が噴き出しており、このマグマにも触れればたちまち焼け爛れてしまうと恐れられている。

また、針の山には巨大な真紅の蓮が咲き乱れているという。


地獄は罪人たちを永遠に閉じ込める牢獄となっており、この地獄を抜け出した者は誰もいないという。

さらに「大焦熱の道」には無数の小部屋があるが、この中では罪人たちが獄卒たちに責め立てられている。


そんな地獄にも、支配者という概念は存在する。


【閻主】サタン 地獄の中でも圧倒的な能力を持つ彼女は、個人が振るう暴力によりその地獄を恐怖で支配した。


地獄の主であったサタンは、とある理由で地獄の王座を追われた。


ほんの500日前に地獄に現れた、たった一人の人間の子共。 名を【菜奈条那自(ナナジョウ ナイン)】という人間の子供がサタンに、一騎打ちを挑んだのだ。


 地獄最強の存在であるサタンは、凄まじい剛力と王たるものの業火を振るったが、那自の纏う【膿骨の鎧】と生前から持つ異能【天候を掌握】する力によって、白漆の稲妻の前に伏した。


 サタンは、打倒され地獄の支配主の座を失った。


しかしサタンは敗れる直前に自らの地獄の支配者たる証【閻魔の王冠】を隠した。


 絶対的な支配者の意思によって統一されていた地獄は、空っぽの玉座と王冠だけが残り、亡者はただ平等に、責め苦を受けるだけの世界と成り果てていた。


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「はぁはぁはぁはぁ」


一人の少年が、地獄の、一番低い場所【大焦熱の道】崖底から、遥か無限ともいえる天井から垂れる糸を登っていた。


 少年の名は菜奈条那自(ナナジョウ ナイン)。見た目は7歳ほどの美少年で、赤毛に碧眼、その頭には地獄の王【閻魔】の証である真赤に輝く【閻魔の王冠】を被っており、腰には一冊の「本」のような物を持っていた。


「はぁはぁはぁまだ…5000メートルくらいだろ? 私も地獄の火によって衰えてしまった。まぁ…ただの運動不足だろうが。」


那自は、もう数十分も登り続け、今や崖の頂上まであと一息というところまで来ていた。


「エヌグの爺さんが言ってたな…どうしてもこの糸を登り切るのが辛くなったら…「生きかえったら食べたい物を思い浮かべろって」……。」

那自はそう言うと、ニヤリと笑う。

「まず寿司だろ? 東京の店は高いからな。

後は焼肉!!」

那自がそう言うと、さっきまでとは違い、元気よくまた糸を登っていった。

「しかし……この地獄を支配したんだから、糸じゃなくエレベーターとかにできないもんかね? まぁ……あるわけないか……。

もうちょいだ!!」

そう言うと、那自はまた糸を登っていった。

「あ〜あ〜……全く……まだ半分ってとこか。」


那自胸に下げられたペンダントのフタを片手で開いた。 


 ペンダントの中にはへし折れた東京タワーを背景にした今の腑抜けたニヤけ面とは違い、仏頂面の那自自身と、肩を組む、黒いコートの男たちの笑顔が写っている写真だった。


「フン…とっとと蘇って、奴らの鼻を明かしてやるか…。元気にしてるか見に行ってやる」

那自はそう呟くと、また糸を登っていった。


「はぁはぁ……着いた。」

那自は遂に糸のてっぺんまで登り切った。


行き止まりのような天井があり、中心には子どもの人体が光源として、目を焼くほどに光り輝いていた。


そして糸はその人体からからたれていた。那自は天井の光源に手を伸ばして呟いた。

「ボクの死体か…今やこの地獄の支配者とは言え…随分と神々しく光ってるじゃないか……。率直にこれがこの生と死を繋ぐ境界か…

地獄と現世は地続きさせている仮の門で、即ちオレはこの光に入れば…

生き返る訳だ。」

那自はニヤリと笑った。そして目を瞑り、光の中に身体を浸していった。

そして那自は光の中に消えていく……。


すると底から地獄全てを包み込むほどの光が発せられ、那自はいつの間にやら姿を消していた。


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以上に暗く青色の葉が生い茂る森の中に一つだけポツンと墓が立っていた。


 するとその墓の下からズボッと音を立てて一つの手が生えてきた。そしてその手は墓石を力強く掴み、次の瞬間には美少年の全身が土の中から現れた。

「ふぃ〜生き返ったぜ〜…」


那自は辺りを見回すと、やがて驚いたような顔をして、自らが入っていた。墓に視線を移した。


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