追加:妻サイド前編

 私は特に拘りが強い方では無いと思い込んでいたのだけど。

 人体機械化に関しては、私は保守派だった。



 私の夫は元々乏精子症で、自分の子供を普通の手段ではまず作れない人で。

 そのことを私は結婚前から知っていた。


 何故かと言うと、20代のときにお見合いパーティーで出会ったときに告白されたからだ。

 何でも……


「お見合いパーティーに出る以上、自分の性能評価は正確にしておく必要がある。

 僕は会社経営しているから、そこは拘るんだ」


 だって。


「僕がお客様に販売する製品は、品質保証がいい加減なものは一つも無い。それと同じ精神性で臨んだだけだよ」


 ……本来お見合いパーティーで恋愛的価値観で相手を選ぶのは間違いだ。

 でも、その誠実さがどうしても気になってしまった。


 この人と結婚したら、自分の子供を持つことが出来ない。

 法律上は精子バンクで他人の精子を貰って来て妊娠する。

 そういう手段はあるが、それはいくらなんでも不義理すぎる。

 夫に自分の子供では無い子供を育てさせる。その構図に何の違いも無いんだから。


 ……私には弟と兄がいた。

 兄はすでに結婚していて、子供もいた。

 そして弟も彼女がいたから多分もう少し子供が増えるはずだ。


 だったら私が子供を持たなければいけない理由は必ずしも無い。


 そこで私は理論武装をし、私は彼に真剣交際を申し込み。

 結婚に至った。


 夫はやっぱり素晴らしい人で。

 私たちは子供を持てない以上、寄付をしようと言ったら、快諾してくれた。


 そして私たちは育児関連の組織にお金を入れた。

 子供を育てないことへの埋め合わせを、ほんの少しでもするために。


 そうこうして、2人で働きながら共に過ごし。


 気が付くと老人になっていた。


 ……養子を取るという手段で子供を持つ。

 そういう手もあったんだけど。


 それに関しては彼が


「自分の本当の子供で無いなら、その子供が何か悪行をやったときに、その悪行についての責任を子供に全部転嫁してしまうかもしれない」


 そう言って。

 その通りだと思ったから、諦めた。


 子供も持たず、私たち2人だけ。

 このまま穏やかに自分たちの人生は終わってしまうのか……


 そう思っていたら、夫が


「僕は人体の機械化を進めて行こうと思う」


 そう言いだして。

 内臓を脳以外全部人工臓器に変え、皮膚も人工皮膚に変えて20代の姿に若返ってしまったのだ。


 ここ10年くらいで、飛躍的に進歩した人工臓器技術。

 別に身体を壊したわけでもないのに、その恩恵にあずかろうという。


 彼は言った。


「天は僕の人生に子供を与えないというオプションを付けたんだ。その引き換えに金を積んで自分の在り方に干渉するのは許されると思う」


 それを受けて私は……

 自分も置き換えをするしかない。


 そう決断をした。


 彼は気にしないと言ったけど、私が気にする。

 明らかに異様だ。見た目20代の男性の隣に居るのが、見た目還暦寸前の老女だなんて。


 その想いで、私は決断をし。


 私は脳と生殖器以外を全て機械に置き換えた。

 夫と違い、生殖器を残したのは最後の拘りだ。

 これを取ってしまうと女を名乗れなくなる気がしたので。


 当然皮膚も変えた。

 これで私も見た目は20代だ。

 彼と一緒に居ても異様じゃない。


 そしてまた、穏やかに人生を送る日々が続いたが。


 ある日、またそれが破られたんだ。


「実は、脳の機械化をしようと思ってる」

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