忘れ路地

にし🌻

Episode 0

 俺は長かった三か月を経て、実家への帰路を辿っていた。学校は北海道の海沿い、実家は北海道の中心の札幌市。帰るのが億劫になりそうだ。寮が夏季長期休暇に入るため、寮生である俺は帰される。寮生活二年目、未だにだるいと思ってしまうが仕方ない。ただ、今回は違う。俺には実家に帰りたくない理由がある。それを考えながら実家への距離が近づいていく。俺は高速バスから降り、札幌駅を目指す。バス停が変わってからというもの不便になった。まあ仕方ない。


「なあ、知ってるか?あの噂。」

「何の噂?」

「特定の路地を通過する時のルールってやつ。」

「知らん知らん。」

「その一、その路地を通過する時、深く事を考えてはいけない。その二、路地奥を見つめてはいけない。その三、忘れてはならない。」

「何だよそれ、抽象的すぎだろ。」

「いやでも、SNSでは流行ってんだよ。」

「そんなん噂だけどな。」

「都市伝説?」

「そうそう、『ワスレロジ』って言うらしいぜ。」

「へぇ、それってルール破ったらどーなんの。」

「えっと、確か…。」


俺は実家に帰りたくない理由である『それ』を考えて歩いていた。


『その一、その路地を通る時、深く事を考えてはいけない』


信号機のない路地を渡ろうとふと車が無いか路地の方を見た。


『その二、路地奥を見つめてはいけない』


路地の奥は永遠と続いているようなそんな光が漏れていた。左右確認するはずが左方向を見たまま首が動かない。夏だというのに、今日はここ最近で最も暑い日だというのに何故だか身体はひんやりとして、何処かに意識が持っていかれる。身体は動いているのだろうか、頭が回らない。冷静になれ俺。


『その三、忘れてはならない』


「そうそう思い出した。」

「最後どーなるんだよ。」

「最後、特定の路地でその三つを達成しちゃうとそこではない何処かへ飛ばされて帰ってこれなくなるらしいよ。」

「うーん、ほぼ神隠しのパロディじゃん。」

「まあ、ただの噂だし。時期にほとぼりも冷めるよ。」


俺は気が付くと札幌ではない何処かへ来ていた。町並みはビルもあれば江戸時代にありそうな小屋、田んぼも入り混じっている。元々駅のあった方を見れば、明治時代くらいの煉瓦で造られた駅と機関車。人間も武士や着物を着た人、スーツもいれば制服を着た学生だっている……何だここは。全てが入り混じったこの世界で俺はどうしたらいいのか分からない。

「…持ち物はあるな、お金もある。服も変わっていない。俺の名前も学校も覚えている。」

俺の名前は青山あおやま透莉とおり、北海道の国立双葉工業高等専門学校(通称:双葉ふたば高専こうせん)に通う二年四組一番。

「どーすんだよこれ。」



 私は路地に来ていた。普段は外に出ない、というより出たくない。で。頭は疲れるし、歩くのも億劫だし…でも新作のスイーツが出たと広告を見て今日は行こうと決心したのだ。その帰り道だった。

(…ん、あれは同じクラスの……。)

私はクラスメイトの青山透莉を見つけた。実家は札幌だったのか、それとも夏休みだから出かけで来ているのだろうか。下を向いて歩いている。

(!その路地を通るなら考え事は…。)

私は知っている『忘れ路地』の存在を。あの路地から自力で脱することはとても難しい。でも彼、青山透莉は行ってしまった。彼は最初から歩いていなかったかのように消えてしまった、あの路地に。私は悩んだ、あの路地には二度と行きたくない。私という人は臆病者で薄情な人間の恥だから。きっと彼の助けは務まらないだろう、そう思っていたはずなのに私は気づいたら一歩踏み出していた。

「私は中村なかむら那緑なより、臆病者で薄情な奴……何してんのよ私の馬鹿。何もできないくせに。」



 『忘れ路地』

人が考えているあれこれを喰っては発展していく不思議な都市に繋がる路地。人の考える忘れてはならない悩みや痛みを完全にその都市に吸収されてしまうともう二度と現代に戻って来ることは叶わないと言われている。

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