序盤で死ぬ当て馬モブの俺、インフレ激しい百合エロアニメにて最強を目指す

羽消しゴム

プロローグ

鈍色の雲が根ざす曇天の空。その下に広がる街並みは、とんでもなく発達した文明が顔を出していた。


だがその中央、文明が集中する大都市の一部が荒れ果て、掻き乱されたミキサーの中身のように残骸が散らかっている。見ればその跡地は、巨大な何かが歩いていたような大きな“足跡”が点々と続いていく。


そしてその先には。


『 G U U U O O O ! ! ! 』


───見上げるのにも億劫なほど巨大な怪獣が、耳を劈く咆哮を轟かせた。

空間を揺らし、地を揺るがす強大な咆哮は、驚異的な衝撃波となって未だ無事な都市へと襲い掛かる。未だに逃げ出せずに、悲鳴をあげる人々諸共、衝撃波は消し飛ばさんと唸りをあげる。


万事休す。逃げ遅れた人々はその命を散らし、新たな犠牲者として名を連ねる・・・かに思われた。


「んもぅ!それはダメですよぉ〜?」


気の抜けた女の声。

多くの命が奪われたに違いない都市の中心にて、銀色の髪を腰まで伸ばした一人の女が怪獣の放つ衝撃波を受け止めたかと思うと、逆に跡形もなく消し飛ばしてしまった。


女に怪我はなく、むしろ微笑みを携えたまま鎮座している。口元は弧を描いているが、目元は一切笑っていなかった。


『 G u u u ? 』


自身の体長から見ても羽虫以下の存在が、破壊的な威力の方向を消滅させたことに疑問をうかべる怪獣。

それもそのはず、かの怪獣は黒い漆のような厚い装甲で身体を覆い、刺々しい背中と腕は僅かに発光している。地上からの頭上までの高さは約300m程もあり、並の怪獣なぞ目に入らない圧倒的な体格を誇っている。


故に、ダニの如く小さな女が受け止められるはずがない、そう思っていた。


煩わしい、と威圧的に女を睨む怪獣。


「おい、余所見をするな下郎」


『 G u ?』


だがそこへ、突如響いた威圧的な声色が怪獣の意識を上書きした。先程の女とはまた違う黒髪の女が、手を組んだまま宙に浮いて、遥か高さから怪獣を見下していた。まるで、自身こそが上だと言うように。


その瞬間───『 G A A A A ! ! ? ? 』


怪獣の頭上を恐ろしい重圧が襲う。

立ち上がることは愚か耐えることを許可されていないかのように、怪獣が抵抗する度に重圧が重くなっていく。

声を聞けば聞くほどに、身体を地面に磔にせんばかりの圧力が増していく。


「 ひ ざ ま ず け 」


『 G A A ! ? 』


それでも耐え切ろうと必死に抵抗する怪獣だが、次に黒髪の女が放った声で完全に地に伏した。そのあまりの衝撃に地面が陥没し、地震となって建物を揺らす。


黒髪の女はベッタリと地面に張り付く怪獣を一笑すると、音もなく消えた。


『 G e h a a a a ! ! 』


怒りに震えて暴れる怪獣。だが女が消えたのにも関わらず、依然として圧力は重さを増していく。もはや立ち上がる立ち上がれないの問題ではなく、生命の危機に及びそうなほど怪獣は追い詰められていた。


「あは、そんなに暴れたらダメだよ───じゃないと、僕が殺しちゃうよ?」


そして、その怪獣を地上から見上げるプラチナホワイトパールの髪の女。彼女はどこからともなく中空から刀を取り出すと、腕や足をじたばたと動かす怪獣に向かって鞘から引き抜いた。


『 U G A A A A ッ ! ! ? ? 』


その刹那、怪獣の四肢がぱっくりと切断され、真っ赤な血飛沫が吹き出した。断面は恐ろしいほど精密かつ正確で、怪獣の攻撃手段を一瞬にして無へと帰す。


───彼女らは『祓魔師ヴォイド』。

怪獣や怪人などの敵性生命体をあらゆる手段を用いて祓魔し、国へと反逆する咎人共を静粛する自衛団体。人呼んでヒーローである。


彼女らは与えられた、もしくは後天的に手に入れた【才覚】、【天賦】、【天啓】という特殊能力で人外を滅ぼし、世界を救わなければならない。もし負ければ、怪獣によって体を粉々にされた上で食われるだろうし、怪人ならばR指定が入るほど嬲られた挙句、慰みものにされるだろう。


ここは、“そういう世界だ”。


「なぁ、そう思うだろ?怪獣さんよ」


俺はゆっくりと、間抜け顔を晒して倒れる怪獣の目前まで歩み寄った。抵抗する手段を持たないため、近づく度に噛み付こうとする怪獣をよそに一歩一歩、しかし確実に近づいていく。

やがて怪獣の顔が目と鼻の先にまで接近した時、腰に差していた剣をすらりと抜いた。


鈍色の雲が根ざす天気でも美しく輝く剣の刀身が、哀れな怪獣の姿を映す。俺はその倒れ伏した体に向けて、剣を振り抜いた。


「『一閃』」


その瞬間───怪獣が縦に裂けた。

否、それだけ頭上を見上げれば、曇天の空が真っ二つに割れて太陽が顔を出している。

それを確認してやりすぎたかなぁと少し反省をしつつ、腰に剣をしまって怪獣の死骸へと歩き出した。


悠然と歩く俺の目の前には、急かすように視線を向ける彼女達の姿があった。皆が皆、それぞれ違った感情を俺に向けているのが、ひしひしと伝わってくる。しかも結構重いヤツ。


俺も鈍感では無い・・・多分?

だからこそ、過去の俺を殴ってやらないと気が済まない。今の俺の現状を伝えて、今すぐにでも未来を変えて欲しい。


なぁ、過去の俺よ。


「なんで、百合に挟まってるんだ」




これは俺の───モブのちっぽけな英雄譚だ。

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