第3話 映像


 監視カメラの映像では、玄関から入ってきた被害者がホールでキョロキョロしている。そして座ってスマホをいじくっている女性を見つけて、何か尋ねていた。尋ねられた女性は、ある方向を指差した。どうやらどの受付窓口へ行けばいいのかを尋ねたようだ。


「午後1時13分に運転免許センターに入場しています」明石は捜査員たち全員に言った。「それ以降の映像をチェックしてください」


 被害者の女性は受付を済ませると、さっきの女性のところへ戻って来て、何か話をしていた。それから二人で一緒に歩いて行った。映像を追跡すると、一緒に第1講習室に入っていったことがわかった。


「被害者の女性は1か月前から薄めのメイクに変えたということでしたが、この女性に影響を受けたと思われますね」

 明石はまたちょっと考えてから、村川管理官代行に言った。

「免停食らってるのに車で来たりするやつがいますよね。そういうやつをチェックするために、駐車場にも監視カメラを設置していませんかね? もしそうなら、この女性が乗ってきた車のナンバーから氏名と住所を特定できると思うんですが」


 明石はこの女性が怪しいと睨んだようだが、どうしてだろう?


 運転免許センターの駐車場にも監視カメラを設置しているということだったので、再び捜査員が行って記録映像を持ってきた。


 何台もの監視カメラ映像を追跡して、その女性が車で帰るところが確認できた。そして車のナンバーから、女性の身元が明らかになった。


 その女性の名前は向井日向ひなた、26歳。被害者と同年齢だ。しかも驚いたことに彼女も両親を亡くしていて、資産家の祖父母に育てられたのだが、その祖父母も既に亡く、一人暮らしだった。


「明石、彼女を疑っているのか?」

 僕が問うと、

「この二人はとても似ているからな」

と明石は答えた。確かに似たような境遇ではあるが、それで疑わしいと言われてもなあ。

「だとしたら、動機は何なんだ?」

「それはまだわからないな。まあ、もしわかっていても言える段階ではないけど」


 例によって、可能性がいくつもある段階ではまだ言いたくないか。


「それにしても、あまりにも境遇が似すぎていて、本当に二人は姉妹じゃないのかと思ってしまうな」

と僕が言うと、

「一応、戸籍上の両親は違うけどな」

と明石は戸籍謄本を確認しながら言った。

「もっともこれがドラマなら、実は母違いの姉妹だったとか、こじつけの設定にするんだろうけど」


 それから明石は壁に掛かっている時計を見やると、

「今日中に解決して、犯人逮捕の記者会見を開きたいところだな。そのためには、すぐに突入する必要がある」

「突入って、まるで人質でも取られているかのような言い方だな」

「言葉のあやだ。村川管理官代行、彼女の家に行かせてください」


 村川管理官は驚いていた。

「いや、怪しい点があるなら捜査員を派遣して確認するが」


 明石はため息をついた。

「いいですか、向井日向の家は殺害現場からほど近い。もしどこの飲み屋でも彼女らの目撃情報が出なければ、彼女の家で飲んでいた可能性が高くなります。その上でカラオケにでも行こうと被害者を連れ出したとすれば、これは計画的な殺人ということになります。もしそうなら、僕は彼女に自首させるつもりです。その方が裏付けを取って逮捕状を請求するよりも、手っ取り早く事件の解決になる」


 村川管理官代行は、困り顔になった。

「そうなると私の一存では・・・」

「わかっています。あなたの立場で決められることではないでしょう。捜査一課長、場合によっては県警本部長の判断が必要でしょうね。すぐに確認してください」



 結局上層部のどの段階で判断したのかはわからないが、許可が下りたので、明石と僕は向井日向の家に向かった。明石が相当信頼されているのか、あるいは「事件の早期解決」という甘言に負けたのか・・・。


 彼女の家はさすがに資産家の家らしく、見た目にも想像以上に大きかった。けれども彼女は、この屋敷にたった一人で住んでいるのか。


 僕たちはその屋敷の門扉もんぴの前に立った。門扉の隣の壁にはドアホンがある。だが、明石はまだそれを押さなかった。


 明石のスマホの着信音が鳴り、明石はそれに出た。

「はい、明石です。・・・そうですか、わかりました」

そう言って明石は電話を切ると、

「三上、いよいよ『突入』だ」

どうやら近くで待機している村川管理官代行からのゴーサインだったらしい。


 明石はドアホンのボタンを押した。これはたぶん、こちらの映像が家の中のモニターに映し出されているんだろうな。


「どちら様ですか」

 ありきたりな返答が返ってきた。

「明石と申します」明石は冷静な声で名乗った。「探偵のような仕事をしています。今日はあなたに自首を勧めに参りました」


 おい、ちょっと待て明石! いくら何でもいきなりそれは・・・。


「何のことでしょうか」

一呼吸置いた後、彼女は落ち着いた声で答えた。


「悪い話じゃないと思いますよ」明石も負けじと落ち着いている。「私はあなたが殺人事件の犯人だと考えて、自首を勧めに来てるんです。誤解だというなら、反論してください」


 明石は一歩も引かないつもりだ。その自信はどこから来るんだ?


 門扉の留め金がガチャリと外れた。オートマチックだったのか。

「どうぞお入りください」


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