3分の1民主主義

統一地方選挙前半戦が終わり、日本各地で悲喜こもごもの人間ドラマが展開され、専門家による緻密な分析も進行中のようである。報道各社の見出しを斜め読みした印象では、かつては大阪ローカルだった「地域政党」が、全国各地で予想以上の健闘をして注目を集める一方で、いわゆる「老舗(しにせ)政党」の元気がないようである。神奈川県知事選挙に至っては、事実上与野党相乗りで自信を持って品質保証をつけた(?)現職が選挙期間の最中に「恥ずかしい過去」の醜聞を暴かれて、形の上では信任投票に「圧勝」したはずなのに、意気消沈してまるで敗戦の将のような記者会見だったそうだ。


北海道から九州まで全国の事例を見渡してみて感じるのは、多弱野党の相変わらずの退潮ぶりに加えて、「組織頼み」の政治の限界が見えてきたということである。与党の府議団・市議団の幹事長が2019年に続き揃って落選したり、政党組織の意向に「反旗」を翻した「無謀な」候補者が当選してみたり。その一方で、一昨年の国政選挙で(当選は出来なかったものの)当時25歳の新人ながら7万票近くを得て「野党の星」だったはずの方が、選挙直前に突然与党入りして「裏切り者」扱いされながら、今回の地方選挙では与党公認の先輩候補に競り勝ってみたり。乱暴な言い方をするならば「何でもあり」の「下剋上(または世代交代) 時代」になってきたようである。


既存政党の枠組みで、いわゆる「永田町目線」で眺めると混沌としているように見える状況ではあるが、「しがらみ」という別の座標軸を設定するならば極めてすっきりと理解される。右も左も、与党も野党も(ゆ党も?)関係なく、「しがらみ」を抱えた方々が思わぬ苦戦を強いられ、「若さ=実績のなさ」のデメリットよりも「しがらみのなさ=可能性」のメリットを重視する有権者が増えつつあるように見えるからだ。


専門家の間でも、昨今は「政党内のガバナンス・民主主義的手続き」や「誰のための政治をするのか」といった観点から既存政党のあり方が改めて問い直されているようである。「組織」というかつての優良資産が「しがらみ」という不良債権に変質し始めているようにも見える今日の状況は、先行き不透明なVUCA時代を生きる(創る)若い世代にとってはチャンスに溢れているともいえよう。


にもかかわらず、県内主要選挙区の投票率を見ると、40%に満たないところが大半であることに驚かされる。3年余りにわたるコロナ禍の後の久しぶりの花見・行楽を優先した人が多かったことは想像に難くないが、有権者の3分の1程度の「政治のプロ」や「プロ市民」の皆さんだけが盛り上がって、残り3分の2の皆さんは「しらけた雰囲気」でいるとすれば民主主義の危機である。


先日の野球WBCの熱戦の後で、「勝者はベースボールだ」という気の利いたコメントがあったように記憶しているが、今回の選挙については「敗者は民主主義だ」と言っても過言ではないような気がする。立候補者が少なすぎて「選挙」にすらならなかった例も多いということから判断すると、制度疲労を起こしつつある現行の選挙システムそのものを抜本的に見直すべき時なのかも知れない。不都合な事実は、制度を見直すことができるのは「3分の1民主主義」で「形式的には正当に」選ばれた方々であり、彼らこそ現行制度の最大の受益者である、ということだ。


このような負のスパイラルを断ち切って、日本を再び上昇気流にのせることができるか否かは、ひとえに若い世代の行動にかかっている。意中の候補がいなければ「白票=全員不信任?」を投じればよいだけの話だ。投票率が90%近くある中で「白票」が過半数を超えるような(マンガ的な?)状況は、おそらく既存政党の皆さんにとって最大の脅威(=悪夢)になるはずだし、自己変革の起爆剤にもなりうるだろう。


クラーク博士風にいうならば、「若者よ、大志を抱け。投票に行こう」


2023.4.10

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