第33話 日本人四人組
源蔵さんの家に襲撃をかけた日本人の若者六人は、罰として一晩、獣を入れておく檻の中に入れられた後、賃金労働者(カマラーダ)と一緒に働くことになったわけだ。
害獣駆除のために農場までやって来ることになった僕は、カマラーダとして働くことになったんだけど、罰を受けることになった彼らもまた一緒にブラジル人に混じって働くことになったわけ。珈琲豆の収穫の時期なだけあって、毎日、毎日、集めた珈琲豆を天日干しにしなくちゃならなくて、これが結構な重労働だったりするんだよね。
「松蔵さん!やっぱり!俺!賃金労働者として働こうと思います!」
「俺も!」
「僕も!」
「俺ももう、おじさん家族とは一緒にやっていけないですよ!」
珈琲豆を収穫すれば一攫千金になる!なんて話を鵜呑みにしてやってきた日本人たちは、自分の甥を口八丁手八丁で誘いながら戦力としてブラジルまで連れて来ているんだよね。
だけど、珈琲豆を収穫したって想像通りの金額にならないのは初日に十分に理解したし、異国で生活をしていくだけでも大変だっていうのに、甥の面倒まで見なくちゃならないなんて・・
「あの・・おばさん、これって俺の食事ってことですか?」
目の前に置かれたパン一個と水だけの食事を見て、カマラーダとして食事を与えられていた面々は度肝を抜かれることになったらしい。
他の家族は野菜とか肉が入ったスープとか、少なくとも食事らしいものを食べているというのに、自分だけパンとコップ一杯の水だけ。
彼らが源蔵さんの家を襲撃なんかせず、カマラーダとしても働いていなかったら、日本語も通じない異国に来ちゃっているし、他に行く宛なんかも無いわけだから涙を飲んで我慢しちゃったとは思う。だけど、彼らは出だしからブラジル人と一緒に働いているし、カマラーダとして食事を食べているし、先駆者である珠子ちゃんの話なんかも聞いちゃっていたものだからね。
「いや、こんな状況で、こんな食事で、無賃状態であなた達と生活をするなんて無理ですよ!」
「無理!」
「本当に無理!」
「「「「無理―!」」」」
と言って、おじさんの家を飛び出して来ちゃったらしいんだよね。
珠子ちゃんから、空き家は使っても意外に怒られないという話を聞いた四人組の若者は、僕の家から一番近い場所にある家を自分たちの家として、翌日には、カマラーダとして働きに来ちゃったんだよね。
責任者のジョアンは『え?どういうこと?』みたいな顔で僕を見たんだけど、いや、僕もポルトガル語、まだ喋れないし、なんて説明したら良いの?とも思ったんだけど・・
「「「「けーろとらばりゃあき(ここで働きたいです!)」」」」
と、四人がなん度も言い出したもんだから、ジョアンはちょっと考え込んだ後、じゃあいいよみたいな感じでトンボ(棒の先に板がついている豆を撹拌するのに使う道具)を四人に渡したんだよね。
そもそも、カマラーダの中には当日になって仕事をサボりやがったみたいな人間が結構いたりするもので、特に今の時期は真面目に働く日本人は重宝されることになったんだ。
一応、日雇い労働者みたいなものだから賃金は出るし(渡航費云々をパトロンが負担とかで、ブラジル人よりかは安い値段となるのだが)食事も出るしで、四人組としてはおじさんたちと珈琲畑で働くよりかは、こっちの方が全然マシ!という状態になったらしい。
そのうち、珈琲豆の収穫時期が終わると、四人組は厠掃除を始めることにしたんだよね。日本人労働者が厠文化を広めることにはなったんだけど、貯まった糞便は堆肥とするために敷地外まで運び出さなければならないんだよね。
日本人がそれをやっていたんだけど、そもそものところ自分たちの仕事が忙しいから、まめに運ぶなんてことが出来ないわけで、ちょっと困った状態になっていたんだよ。厠掃除は重労働なので、支配人もお金を払っていたんだけど、それほど高い値段でもないし、不人気極まりない仕事だったんだ。
この厠掃除を四人組はあえて手を挙げてやり始めたってわけ。みんながまだ寝静まっている朝方に厠を回って糞尿を回収し、しかも綺麗に掃除をして朝を迎えるってわけ。
これを毎日してくれるから、厠がとっても清潔になって支配人も大喜び。四人は引き続き、賃金労働者として働いて良いってことになったし、厠掃除をする四人には特別手当も出されるようになったんだ。
「「「オブリガーダ!ジェンチ!(みなさんありがとう!)」」」
厠が綺麗になって一番喜んだのがブラジル人女性達じゃないかな。四人組はそう声をかけられては、パンとかお菓子とか、お駄賃的な感じで貰うようになったんだ。
彼らは賃金で石鹸を購入して、毎朝、早朝の厠掃除が終わると丹念に体を洗うんだ。なにしろブラジル人は不清潔な匂いを嫌う。僕もそこは気にして清潔を保っているんだけど、意外なほどに清潔か不清潔かは彼らにとって重要なポイントだったりするんだよね。
そうして日中はカマラーダとして働き、夕方の洗濯はブラジル人女性達と一緒に洗濯を行い、そうして夜は自分たちの家(勝手に占拠していたけれど、最終的に支配人には許可をとっている)に戻って就寝。
そうして早朝から重労働である厠掃除が始まるわけだけれど、
「いや、幾ら臭かろうが、重かろうが、重労働だろうが、石鹸で丹念に洗えば匂いは落ちるし!」
「レディ達から感謝されるし!」
「お礼も言われるし!」
「大変だけど!やり甲斐を感じているんです!」
と、四人は笑顔で言い出した。
その後も山倉通詞が日本人労働者を農場まで連れて来たんだけど、四人の後に続けという感じの若者が現れることはなかった。
家族の枠組みの中にはまり込み、抜け出すことも出来ないまま、我慢に我慢を重ねるのが美徳!みたいな日本人的意識に染まった彼らにとっては、
「よくあんなことが出来るな!信じられない!」
ということになるんだろう。
確かに厠掃除はきついし、臭いし、汚いけれど、誰もやりたがらない仕事であるだけに感謝も大きなものとなる。日本人からあえて離れて、ブラジル人の中でやりくりしているだなんて!
「「「「信じられない!」」」」
と、嫌悪の目を向ける人間が多いのだけれど、そんな彼らと比べて見ても、実は厠掃除に勤しんでいる四人組の方が健康的ではつらつとしながら生きている。
しかもこの四人組の若者達は、みんなが素知らぬふりをして目を背けていることに、両目を見開いて向き合った。
「松蔵さん、ブラジル人って巨乳揃いじゃないですか?」
そう、ブラジル人女性はびっくりするほど巨乳が多い。本当の本当に巨乳が多くて、しかも親しくなると近い距離でニコニコ話しかけてきたりするものだから、目のやり場に困ってしまうことが度々あるのだから困ってしまう。
「洗濯とかでですね、前屈みで洗うじゃ無いですか?」
「いや、谷間がね」
「やばいですよ」
今日も今日とて、カシャッサ(サトウキビの焼酎)片手に僕の家まで遊びに来た四人組は、焚き火を囲んで興奮を隠せない様子で語らっている。
最近、獣の遠吠えが多いから、怖くなると僕の家までやって来るのが常習化しているのだ。
「変態だと思って嫌われたら大変なことになるから気をつけたほうがいいよ?」
僕の忠告に、四人は激しく頷きながら言い出した。
「それはもちろんですよ!」
「直視なんてしませんって!」
なにしろ若い女性になればなるほど、こちらへの警戒心が高くなる。そこで彼女たちのママに、
「あの日本人!変態だわ!」
なんて言われたら、ブラジル人グループから排除されてしまうに違いない。万が一にも支配人に悪く言われて、
「お前は親族がいる家に戻れ!」
なんて言われたら目も当てられない。
「こっそり楽しむ術を学んでいます」
「なあ」
「なあ!」
「僕ら所詮はキェッチーニョ(大人しい人見知り)ですから!」
そうだね、僕らはキェッチーニョだと思われているから、この調子で無害を主張し続けよう!
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ブラジルの女性はお胸が大きい人が多いです。ほぼ全員お胸が大きいのでは?何故なんだ〜?と疑問に思っていたところ、ニワトリに成長剤を投与して育てる関係から、それを食べている人間も(お胸が)成長しているとか、嘘か本当かわからない話なんですけどね。天は平等に大きなお胸を与えていらっしゃる。だからブラジル人は胸じゃなく・・お尻フェチが多いです。お尻をチローっと見て、おおお!みたいなね。多いですとも。
ブラジル移民の生活を交えながらのサスペンスです。ドロドロ、ギタギタが始まっていきますが、当時、日系移民の方々はこーんなに大変だったの?というエピソードも入れていきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!
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