第11片

 デイドリームは会議室3へ戻った。そして、デイドリームは会議室が実技試験仕様に変わっていた事に驚いた。天井近くまでそびえる高い崖。その下にある海。ビルや住宅なんかもある。


 これをするために会議室を広くしていたのかとようやく理解した。


 会議室は実技試験仕様で席がなくなっているので、受験者は端の3D空間のような場所に集まっているのが見えた。待機場というらしい。今まで会議室3にいなかった受験者も集まって、とても窮屈そうだ。ということは、夢香もいるのか……


 少し複雑な気持ちになった。


 そこに向かおうとすると、目の前にローズがいた。さっきお礼を言いそびれたローズだ。


「さっきはあり……」


「からかってごめんね。デイくん」

デイドリームのお礼をさえぎるようにローズは謝った。やはり僕の名前は浸透しているらしい。


「いやいや、本部へ連行されなかったのはローズさんのおかげなので」


「からかったのは許してくれるの?」

ローズは聞いた。


「全然気にしてないですよ」

と、デイドリームが言うと微笑んで去っていった。デイドリームはローズを見送ると、待機場へ向かった。



「どうしよう」


 デイドリームは待機場の入り口で立ち止まっていた。どうやって入れば良いのかが分からない。


 「どうしたの?」

後ろからリアムの声が聞こえて、デイドリームはビクッと肩を上げた。デイドリームがリアムを見ると、リアムはニコッと少し不気味に微笑んだ。


 「入り方が分からな……くって」

途中、リアムのオーラに負けながら言い切った。


 「受験票をそこにかざせば入れるよ」

カードリーダーのようなものを指差し言った。


 言われた通り受験票をかざすと、待機場の一部がドアのスペースになった。デイドリームがそこから入ると、リアムは話し始めた。

「それでは最後の試験を始めようか」


 そのリアムの声でざわざわと騒々しい話し声が止んだ。

「実技試験内容は2つ考えてある。まず1つ目は缶蹴かんけりだ」


 会議室がざわめく。缶蹴りならデイドリームも学校でしたことがある。むしろ田舎の広い土地だからこそできるものなのかもしれない。


 リアムが周りをにらむように見渡すと、ざわめきが再び止んだ。


「缶蹴りは缶蹴りでもただの缶蹴りじゃない。今からする缶蹴りはウェザーヒーローの練習でも取り入れているものだ」


 会場が再びざわめく。この人達はリアムの圧を感じていないのだろうか。だとしたら鈍感だなと思った。まあ、デイドリームが敏感なだけかもしれないけど。

 

 リアムは続けた。

「田舎の缶蹴りとの最大の違いは、能力を使用しても良いということだ。能力を使って遠くに蹴ったり隠したりなんでもOKだ。ただし注意点が2つある。当たり前だが死者は出したらいけない。人が死ぬような行為をしたものはたとえ死んでいなくても失格とする。もう1つ、缶を場外に出すことは出来ないようになっている。壁に跳ね返ってしまう。そこは気をつけてくれ」


 リアムがそう言い終わると、缶蹴りに使えそうな能力の持ち主は喜び、それ以外は落ち込んだ。


 そうして実技試験が始まった。

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