子狐のウエディング

志喰寝

プロローグ

 僕らは夕焼けに染まった美しい砂浜の上にいる。波の音が僕らを盛り上げる。君の髪の毛が浜風に吹かれてなびく。オレンジに染まった君の横顔がとても綺麗だ。

 

 僕は想像する。君と結婚して、幸せな家庭を築いている僕らの姿を……



 これは、今から約1000年後の話。海面上昇によって人が住める島は3つのみといわれている。


 そんな世界に突然、ウェザーズと呼ばれる超能力者が現れた。ウェザーズは超能力をいつでも使える訳ではなく、特定の天気の時にしか使えない。例えば、晴れの日に手から炎を出せるようになったり、雨の日に透明人間になれたりするのだ。


 時が経ち、ウェザーズの存在が知れ渡ると超能力を使う彼らの姿は世界中の人々の憧れの的となっていった。


 しかし、良いことばかりではなかった。能力を使いたい欲が出てきたが故に、天気を人工で操り能力を使用する悪用者達が現れた。その悪用者達を『ダークウェザーズ』という。


 ウェザーズの中からこのような悪用者が多く現れた事実を受け、ウェザーズ側は半ば責任を受ける形で対抗組織『ウェザーヒーローズ』が結成された。


 そして、人が住める3つの島というのはドーナッツ島と呼ばれる本島と、観光地のスノーアイランド、そしてダークウェザーズが住み着いたダーク島である。これは、そんな小さな3つの島の中で起こった大きな奇跡のお話である。



 「行ってきます!」

 

 世界一静かな町『サイレントタウン』で、デイドリーム・ココは叫んだ。大きな荷物を背中に背負うデイドリームは満面の笑みで手を振っている。それとは正反対に、町民達は泣いている。

 

 幼馴染のレオ・ウォーカーが言う。

「何かあったら言うんだぞ!相談乗るからな」

 

 すると、デイドリームは「別に1人でも大丈夫だし……」と返した。デイドリームは1人で生きていこうと思っているようだ。デイドリームは幼い頃から周りに愛される人気者だ。デイドリームの横にはいつも人がいた。一人ぼっちではなかった。だから、支えてくれる人がいない世界で1人で生きるのがどれだけ大変かをデイドリームはまだ気づいていない。


 すると、「とうとう旅立ちじゃのう……。頑張っておいでな」と町長が涙をこらえて言った。


 サイレントタウンからウェザーヒーロー志望者が出たのは3年ぶりで、4人が受験する。


 そのうちの1人である、デイドリームが試験前日を迎え、そのまま一人暮らしをするので町民は涙している。


 町民は、デイドリームにもう会えないかもしれないという不安か、一人暮らしをするまでに成長した嬉しさか、どちらかで泣いているのだろう。


 デイドリームは手を振りながら後ろ向きで歩き、やがて前を向いて走り出した。


 鳥のさえずりをかき消すように、デイドリームの軽快な足音がこだまする。


 これからのサイレントタウンは今までよりずっとずっと静かになるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る