第41話 借り

「モヒートいいですか?」

「あ、はい、少々おまちください…………モヒート?」


 雄大は俺の注文にこちらに視線を向ける。

 適当に頼んだ注文が気になったようだ。


「…………お前、小日向か?」

「久しぶりだな」

「生きてたのかよ……」

「なんだよ、死んだほうがよかったのか?」

「別にそういう……てか、無能が随分と偉そうな口を聞くなぁ?」


 雄大は眉間にシワを寄せて凄む。

 こいつこんなに沸点低かったっけ?

 茶髪にピアス。勉学ではなくバイトに精を出していたチャラ男系の男だ。

 

「俺は客だぞ? いいのかそんな口聞いて」

「勘違いすんなよ。俺は好きで働いてんだ、別にいつでも止めてもいい。っていうか女を引っ掛けるのに良さそうでやってるだけなんだよ。ちょっとこっちこいてめぇ」


 顎をくいっとして裏口へ促す。

 裏口を出るとそこは、人気がなく薄暗い路地裏になっていた。


「んで、何しにきやがったんだ? その調子だと俺がこのバーで働いてんの知ってたな?」

「俺が奈落に追放されてどんな思いをしたか分かるか?」


 話しながら奈落のダンジョンで感じた絶望を思い出す。

 雄大はたばこに火をつけて、美味しそうにそれを吸う。

 

「質問に質問を返してんじゃねえよ。答えはな…………知ったことかだ」


 そこで吸った煙を一気に吐き出す。

 

「無能のクズがどうなろうと俺が知るわけねえだろ? それとも何か? ご、ごめん小日向君、俺止められなくて……とかって答えて欲しかったか?」


 そっちがそのつもりなら逆に好都合だ。

 幸いにもここは人通りも人気もない場所だった。

 

「まあ、追放されたのは結果、感謝してもいいくらいだけどな。おかげで強くなれたよ」

「はあ? 無能が調子こいてると……うぎゃぁ!」


 俺は雄大に力を極力制限してローキックを入れる。


「てめぇ! 後悔させてやるぞぉ!!」


 雄大のスキルは軽業師だった。

 両手に短剣を持ち、俺に斬りつけてくる。

 いずれの攻撃もスローモーションのようだった。

 安々と躱し、もう一発ローキックを入れる。


「ぐぁっ! くそぉ、またまぐれ当たりかよ!!」


 無能というスキルで色眼鏡で見ている雄大には、これでもまだ実力差が分からないようだった。


「なんかお前らそろそろ戦争に投入されるらしいな? お前はいかなくていいのか、ヴァレンティン王国との国境付近に」

「…………なんで知ってやがる? まだクラスの誰かと繋がってるのか?」

「いや、情報屋から教えてもらった」

「…………まあいい、まぐれ当たりが調子に乗るんじゃねえぞ! 俺たちが前と同じと思うなよ?」

「知ってるよ。大迫おおさこ寄道よりみちにも聞いたからな」

「はあ!? なんであいつらとお前が…………もしかしてあいつらが戻ってこないのって……」

「俺が始末した」

「ぎゃああああああああああ!!」


 もう少し力を入れてローキックを入れると骨が砕けた感触があった。

 足が変な方向へ曲がって、雄大は倒れ込む。


「なんで無能のお前がそんなに強く……」


 苦痛から目に涙を溜めながら雄大が問いかける。


「だから奈落のダンジョンで強くなれたって言っただろ。その調子だともしかして、お前も黒崎とも繋がってるのか?」

「ああ、黒崎の一派だから俺は王都に残ってる。一派って言っても大迫おおさこ寄道よりみちはもういねえから俺一人だけどな」

「なんで黒崎だけ残るんだ?」

「戦争には風間と美月が入れば十分勝てるっていう目算らしい。万が一の為に最高戦力の黒崎は手元に残しておくんだってよ」

「そうか、じゃあ黒崎に近々借りを返しにいくって伝えてくれよ」

「…………正気かお前? 俺も変わったが黒崎もこっちに来て随分変わった。お前殺されるぞ?」

「やられねえよ、俺の方が強い。首を洗って待ってろと伝えろ。あいつは俺が殺してやる!」

「…………そのまま伝えるからな。後で後悔すんなよ無能。うぐっ!」


 雄大の顔面に拳を入れる。 


「まだ立場が分かってないのか、お前」

「無能のまぐれ当たりだろ! 勝った気になってんじゃねぇよぉお!!」


 雄大は鼻血を垂らして、泣きながら言う。


「ここではあんまり派手にやりたくないんだけどな……」


 その日、王都では大きな地響きが発生し、その付近に大きなクレーターが発見されて騒ぎとなったのは後日のことであった。

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