第32話 提案……したいのに

 これから真面目な話しをしようとしていた。

 なのに未亜みあ凪海なみが笑いだすだけならともかく、菜々ななまで可笑しさそうだ。

 心外極まるヤスオはいいおっさんにも関わらず唇を尖らす。


「なななにがおかしいんですか。まだ何も言ってませんよ」


 だってぇー、と未亜が始めた。


「両手つきながらなんて……やっちゃん、似合いすぎー」

「これほど畳に土下座が似合う男もいないよな」


 凪海の賞賛とは言えない感心ぶりだ。


 菜々に至っては、である。


「浮気がバレて必死に謝る旦那さんみたいですよ」


 これには他の女性陣が手を叩くような反応を示した。


「うんうん、そうね。ホント、そう」

「菜々さん、良いこと言うなー」


 力一杯する同意の未亜に、凪海には何が良いんですかとする発言である。


 普段なら気圧されてもおかしくないヤスオだが提言したい内容はゲームだ、このチームに関することだ。引っ込むわけにはいかない。

 取り敢えず、両手は畳から離した。土下座でなく、きちんとした正座の体勢を取る。


「おぅおう、どうしたヤスオー。ホントにカノジョでも出来たかー」


 相変わらず凪海から余計な茶々も入る。


「言っておきますが、女性が寝起きする部屋にお邪魔するなんて、ここが初めてなんです。そんな自分が旦那どころか彼氏なんて経験も一生ないでしょう。だから完全に喩えが間違ってます」

「まちがえるも何も、ここヤスオん家だろ。たまたま未亜に貸した部屋にテレビが……あれ? なんで居間のヤツがここにあるんだ」

「それ、わたしが寝込んだ時にやっちゃんが設置してくれたの。横になっている時は見やすいほうがいいだろうって」


 未亜は妙に誇らしげだ。

 これには菜々ばかりでなく凪海も感動している気配を漂わせてくる。  

 褒められるくらいならからかわれていたほうが、まだ居心地いいとする人生を送ってきたヤスオだ。三人の女性が一斉に見せた好感度の上昇には言い訳せずにはいられない。


「そそそれはそのぉ……テレビチューナーも考えたのですが、思い立ったらその場でしたほうがいいと言うか……変にお金を使っては未亜さんに怒られると言うか……」

「そんな照れなくいいですよ、安田さん」


 菜々が社内では見せない類いの笑みを浮かべている。


「ありがと、やっちゃん」


 トドメとなる未亜のお礼がくれば、「あ……いえ……」とヤスオらしく口ごもった。


「しかしなんでここにモニターがあったんだ」


 ふと思いついたような凪海の疑問が、ヤスオを元へ戻させる。


「それはここをゲーム部屋にしていたからですよ」

「急に押しかけちゃったからねー、片づける暇ないよねー」


 ちょっとバツが悪そうな未亜に、いえいえとヤスオが否定の手を振る仕草を取る。


「元々『スタルシオン』をいつでもやれるよう体制は整えておいたのですよ。貸すと言い出したのは自分だし、ただそれが女性だっただけです」


 当事者の未亜だけでなく、部外者の二人も深く納得している態である。


 良かった良かったとしたところで、ヤスオ思いついた。

 まだ肝心な話しをしていない。すっかり忘れたままで終わる気はない。


「みなさまに提案したいことがあったのです。問題提起をさせていただきたいのです」


 そういえばそうだった、とする顔つきを一様にする女性陣であった。


 どうやら先週から伝えたかった話しをようやく出来そうだ。

 ヤスオとしては、とても嬉しい。


 ただ提案した途端、他のチームメイトに揃って反発されてしまった。

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