第20話 そんなわけ……ないそうです

 焦りを隠さないままヤスオは質問だ。


「もしかして未亜みあさんと凪海なみさん。他のチームにも所属してたりしてます?」


 脱力したように肩を落とす女性陣だった。


「もう、やっちゃん。わたしにゲームをやる時間があると思う?」

「未亜と以下同文。オレだって忙しいんだよ。それに知らないチームに参加なんて、また面倒そうだしな」


 未亜と凪海の否定に、思い切り安堵をして見せるヤスオだ。してから自省が生じれば、慌てて言う。


「で、でも他のチームに所属するかどうかは自由ですね。ここだけにしてくれなんて、ゲーム行為を制限するに等しいです。いちゲームプレイヤーとして、それはどうなんだという気がします」

「別にそこまで気を遣う必要ねーよ。好きでここだけにしているんだし」


 凪海らしい言い草だが、ヤスオにとって嬉しい内容には違いない。つい自覚なしの不気味な笑いをしていないか、気になったくらいである。


 そうそう、と未亜も微笑を浮かべた。


「わたしもこのチームだからこそ、スタルシオンをやっている感じだからね。それにさ、このゲームに限らないけれど、女子は面倒が多いんだよ」


 少し惚けた口ぶりながら、問題点を匂わせてくる。なにか大変なことでもあるんですか? とヤスオは即行で尋ねた。


「ある時期になると、やたらオフ会しようって言われるようなるんだよね」

「なるほど、それは嫌ですね」


 同調するヤスオだが、理解は深くまで達していない。

 対人関係を苦手とする性格から会合には参加したくない、とする意味だけで捉えていた。未亜が口にした女子とするワードまで意識が回っていない。

 気づくきっかけは、本日初めて我が家を訪れた客人の嘆息からだ。わかるとばかりに菜々ななが言う。


「どうもオンナ目当てみたいなメンバーがいるみたいで、本当に困ってしまいます」

「わかる、わかる。だからわたしは男性キャラにしたし」


 しみじみ同意している未亜に、やっと理解へ至ったヤスオだ。女性が男性キャラを演じる、所謂ネナベにした心情に、一部の現状を嘆かわしく思う。ただし、である。


「あー、そうだよなー。ホント、オンナは面倒なんだよなー」


 同調の凪海に対しては、疑念しか生まれない。


「えっ、凪海さんにもそんなことあるんですか?」

 と、真剣に尋ねた報いは、「マジでぶっ殺す!」と鉄バットを持つような形相で睨みつけられた。


 すみません、としょげるしかないヤスオに未亜と菜々が愉快そうであった。


 たまたま金目鯛の煮付けがいい感じに仕上がるタイミングでヤスオは助かった。台所へ向かい鍋を持って帰れば、話題は次へ移っていく。

 菜々が改めて食事の礼を述べ、ヤスオの実家を肴に談笑となる。


 そこから流れに乗るように凪海が提案してきた。

 自分たちのチームに菜々を加えようとする話しだった。

 キリッとゲーマーの顔になる菜々とヤスオだ。未亜だけが素直に驚いている。


 どうですかね? と凪海がにやりとして確認してくる。


 箸を持つ手を止めない菜々が問い返す。


「なぜ、私を加えてもいいと判断したのですか。どんなロールかさえ知らないキャラをチームに入れるなど浅慮せんりょに思えます」

「オレたちチームの基本ロールは揃っている。だから、あと一枠を埋めるのはどれでもいいんだよ。もっとも菜々さんの加入次第でチームの特色が決定づけられるけどな」


 アタッカーなら攻撃型へ、ディフェンダーだったら防御型に、支援系だとしたら魔術特化となる。菜々が操作するキャラ次第というわけだ。


「悪くない話しだと思われます。どうですか、鮎川さん」


 ゲームのこととなると積極性を発揮するヤスオだ。凪海の勝手と言える提案を丸々承知して後押しする。チームのため、新たな冒険へ向かうためならば、如実な頑張りを見せられる男だった。


 仕事場では決して目にすることはないヤスオの新たな一面のせいだろうか。菜々は居住まいを正す。


蒼森あおもりさんは、どうお考えですか?」


 意思を表明していない未亜へ賛否を問う。


「わたしとしては、信用できる人が入ってくれると嬉しい。前の話しに戻るけど、プレイヤーが女性だとわかった途端に男を出してくるような人とは一緒にやりたくないし」


 チームYMN=やみんの意見は一致していたようだ。


 わかりました、と菜々が表情を崩した。


「現在、所属しているチームの兼ね合いもありますから、すぐにいつでもというわけにはいきませんが、取り敢えずタイミングが合った際はお願いします」


 話しは前向きでまとまった。

 残りの飯を食ってしまおう、とする朗らかな雰囲気の下で再び箸が活発に動きだす。


「ところで自分は男なんですが」

 と、ヤスオは突如の思いつきを食事の最中ながら口にした。


「ヤスオごときが男を打ち出せれても困るぜ」

「やっちゃんこそ、ぜんぜんわたしたちのこと、女だなんてこれぽっちも疑わなかったくせに」


 珍しくあしらう未亜に、凪海は笑いが止まらないといった感じだ。


「き、気づかないですよ。二人のキャラ、あんなに男らしいじゃありませんか」


 ヤスオなりに反撃したつもりだったが、未亜が簡単に跳ね除けてくる。


「でもわたしたちのセリフって、逆に男っぽくしすぎで不自然だったような気もするな」


 うむむ、と唸るヤスオは納得する方向へ走っていた。中の人を見分けるのは難しいですよ、と菜々のフォローで、そうですよとなった。


 食事もすみ、お茶を出すまでになれば、お開きは近い。


 ヤスオとしては改めて感謝を口にした。


「鮎川さん、今日はチーム参入のため、わざわざ我が家にお越しいただいてありがとうございました」


 ドンッと湯呑み茶碗が勢いよく置かれた音が立った。


「そんなわけ、ないでしょー!」


 テーブルを鳴らした菜々が叫んでいた。

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