第4章:離れていく彼女

第12話:付き合ってるんですか?

 年が明け、写真部の新体制が始まり間もなく2か月。後期の考査が終わって初の部活。


「兄さん、おはようございます…ってひどく疲れてますね…?」


万真は昨日、美玖に誘われ遊びに行ったものの、疲れが出てきているようだ。だから、翔太が顔色を伺ってくる。


「そ、そうか?」


「はい。何があったんですか?」


(うーん……御園さんとのこと言うと、誤解される可能性高いから正直に話せないなぁ。)


どう答えるべきか、悩むこと数十秒。


「うんとなー、有弥以外にゼミで仲良くしてる奴がいて、その人と遊びに行ったんだ。だが、どうやらその人のペースについていけなくてさぁ。」


正体は出さずに答えれた。


「そうだったんですねー…。それはそれはぁ…ご苦労様でした…。」


「これから春休みだろ? またどっかで一緒に遊ぼうなんて言われてさー。どうしようね、俺?」


 部室に着く。到着の数分後、那奈と仁奈がやってくる。


「「おはようございます!」」


相変わらず元気な挨拶だ。時間になり、万真は始まりの号令をかける。


「よし、今日は――」


万真が喋っている途中で、部室のドアが勢いよく開く。


「……何だ?」


ドアを開けた人物が、スタスタと写真部の部室内に入ってくる。部外者だ。


 何事かという空気が部室内に立ち込める中、その人物が口を開く。


「……部活中乱入してすみません。私は新聞部の部長を務めております、河西かさい伶花れいかです。大学祭の際は大変お世話になりました。」


伶花が深々と礼をしたのもつかの間、万真を睨みつけてくる。


「……俺に何か用、ですか?」


たじろぐ万真を前に、


「野木万真さん。貴方のことは美玖から聞いています。美玖とは1・2年の時同じゼミで仲良くなって、そのまま友達みたいな関係でいますが――これまで何回も、そしてこないだも昨日も、一緒に出かけたって聞きましたけど、美玖と付き合ってるんですか?」


(――付き合ってる? 俺が? 御園さんと?)


どうしてそうなる? と首を傾げながらも万真は首を横に振る。


「……違います。御園さんとはそんな関係じゃないです。友達がいなさそうながあったというか――だったら俺がと思って、同じゼミの仲間の1人として、仲良くしているだけです。」


「……はぁ。あの子ったら、私を友達として認識してないのかしら。」


 このやり取りを静かに聞いていた翔太たち後輩が黙っていないだろう。


「兄さん、だったんですか!? さっきお疲れの様子だったのは、それでだったんですか…? いやでも、姉さん一筋だったはずの兄さんが、ついに…?」


「だーかーらー、違うってば翔太。那奈と仁奈も、そんな顔するなって。」


 翔太に次ぎ那奈と仁奈が睨んでくる中、万真は更なる証言を食らうことになる。


「……私、見てしまいました。夏休みのある日、美玖が万真さんに告白して、その、キス…していた、ところを…。」


(――は?)


万真の頭が混乱する。誰もいなかったはずの告白現場をこっそり見ていた人がいたとは。


「万真先輩っ! 本当のことを教えてください! そうじゃないと那奈、帰れませんっ…!」


「仁奈も知りたいです! お願いしますっ!」


今度は那奈と仁奈に問い詰められる万真。


(参ったなぁ……はっきり違うって言わんと、この空気終わらねぇ。)


逃げられないと悟った万真は、その場ではっきり告げる。


「さっきも言ったけど、俺は……御園美玖さんとはただのゼミ仲間です。それ以上でもありません。御園さんが俺に告白してきたのは事実です。だからって別にどうこうっていう関係でもありません。河西さん、ここまで言っても納得できませんか?」


「……分かりました。だったら、白黒つけましょう。」


 伶花が万真に提案があるようだ。


「つい先日、街の中に新しく水族館ができたんです。なので、万真さんにご協力願いたいのですが、美玖と一緒にそこでデートしてくれませんか? その様子を見て、私は訪問レポートを書こうかと考えてます。」


(俺、利用されてる…?)


と思いながらも万真は、


「分かりました。そちらの都合に合わせるんで、それでお願いします。」


白黒つけるためにも、提案に乗るしかない。


「よかったー。美玖には私から連絡します。それでは失礼しました。日程決まり次第また顔出します。」


伶花は颯爽と去っていった。


 部室内の空気は元に戻らない。だが。


「……兄さん。それでよかったんですか? お相手の方を最悪傷つける可能性も――」


「そうならないように気をつける。私情が入ってすまなかった。お前らは全然気にするな。さあ気を取り直して、部活やるぞー。」


翔太の心配を受け入れつつも、万真は部長の顔に戻っていく――

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