とある人物の独白

黒井隼人

とある王女の独白



あぁ…やっぱりこうなってしまったわね…。


こうならないためにお父様を必死に止めていたのだけど、それがむしろ拍車をかけてしまうことになってしまうなんて、皮肉な事ね。


ええ、わかっています。これは私達王族の罪。罪は償わなければなりません。


でも、あなたは違う。あなたは我儘な王家に振り回された哀れな一人の騎士だった。


王族に不当に扱われ、解雇され、追い出された。そんな騎士だった。


そんな立場でいればあなたは巻き込まれなかった。逃げ出すことができた。


なのに、なぜ戻ってきたの?なぜ、私の前に立つの?なぜ、そんな泣きそうな表情を浮かべているの?


あなたは何も悪くない。悪いのはすべて国王であるお父様。そしてそのお父様の横暴を許し、従っていた貴族や王家。


ふふ、あなたのその表情見ると思い出すわね。あなたと出会った時の事。


孤児としてボロボロになり、追い詰められ、泣いていたあなた。


そんなあなたを見つけ、道楽で拾った私。


周囲の人たちに反対されたわ。そんな小汚い孤児など捨ておいてくださいって。


でも、私はあなたの目に惹かれたの。ボロボロの姿で泣いていてもそれでも光を喪っていないあなたの目に。


騎士の下働きとして雇われたあなたは、必死に生きていたわね。


雑用、特訓、孤児だからと見下され、蔑まれていようと、あなたの目から光が消えることはなかった。


そんなあなたが成長し、少しずつ、周りから認められるようになって私もうれしかったわ。


どんどん強く、たくましくなっていくあなたが誇らしかった。


だから私の騎士を選ぶとき、真っ先にあなたを候補に引き入れたわ。


周りからはまた反対されたけどね。実力は認めるけど平民を引き入れるわけにはいかないって。


まあ、それでもその当時はお父様の恐怖政治によって国民からの不満も高まってきていたから、それを抑えるのにもちょうどいいと強引に勧めたのだけど。


そしてあなたは私の騎士となってくれた。


あなたは私に恩を感じていたわね。でもね、私こそあなたに恩を感じていたのよ。


あなたの目に宿る力強い光。その光に何度力をもらったかしら。


国民からの不満も高まる中、何とかしようとしても無駄に終わり、心がくじけそうになっていたわ。


それでもあなたから力をもらっていた。あなたがいたから私は何度でも立ち上がることができた。


それでも結局ダメだったのだけどね。


反乱は起こり、お父様は捕まった。私も同じ。もうじきここにも反乱軍が来るでしょう。


それとも、あなたがその反乱軍なのかしら?…あら、違うの?それじゃあなぜここに?


…私を助けに?…ありがとう。でも、ダメなのよ。私は逃げるわけにはいかないわ。


なぜって…簡単な事よ。反乱が起こった以上、誰であろうと王族は生きていてはいけないの。


罪のあるなしは関係ないわ。王家という存在そのものが罪になるのだから。


だから私は逃げるわけにはいかないの。逃げたとしてもずっと追われ続けることになるし、その間この国は変わることはできなくなるわ。


この国を変えるためには私も死ななくてはいけないのよ。


せっかく来てくれたのに、ごめんなさいね。…ねえ、最後に一つ辛いことをお願いしてもいいかしら?


あなたの剣で私の命を絶ってくれないかしら?


辛いことを言っていることはわかっているわ。でもね、このまま生きていても結局同じなのよ。反乱軍に捕まり、辱められ、最後には殺される。その結末に変化はないわ。


だったら、最後はあなたの腕の中で逝きたいの。愛するあなたの腕の中で。


横暴?ええ、そうよ。だって私はあの暴君の娘だもの。横暴なのも当たり前よ。


だからお願い…いいえ、これは命令ね。あなたの主としての最期の命令。私を殺しなさい。


え?クビにされたからもう主じゃないって?…それもそうね。でも、まだ王族だから平民であるあなたが王族の命令を無視するわけにはいかないわよね?


ふふ、ごめんなさいね。普段こういうこと言わないから一度言ってみたかったの。


…足音が聞こえてきたわね。時間がないわ。お願いできないかしら?


ごめんね。あなたに辛い思いをさせちゃって。


…ねえ、最後にあなたの目を見せて。


あなたの目は変わらないわね。どれだけ辛く苦しくてもその目から光が消えることはなかった。


そんなあなたの目に私は惹かれていたの。ありがとう愛する私の騎士。


さようなら


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