第18話 家族でお出かけ


 グレンは包丁のトントンとした音で目を覚ます。目を開けると朝日が差し込み木に止まっていた鳥が鳴いている。


「…もう朝か」


「おはようグレン。もう少しで朝ごはんできるわよ」


下に降りると母が料理をしている。どうやら朝は味噌汁とご飯と魚の塩焼きである。

 クエは母さんの近くで魚を貰えないか、待機中だった。


「悪いんだけど、お父さんを起こしてきてもらえる?」


「分かった。クエも一緒に行こう」


「クェ?」


俺は了承をして、クエと一緒に父さんと母さんの寝室へ向かう。中に入ると気持ち良さそうに寝ている父さんとそのお腹の上でぐっすり寝ているクウがいた。


「父さん、起きろー」


「うーん。あと30分」


これは駄目だな。全く起きる気配がない。仕方ない、今の俺には強力な助っ人がいるのだ。そいつに頼もうではないか。


「クエ。後でお魚あげるから、父さんを起こしてくれるか?」


「!!…クェ!」


クエは大きな返事をすると父さんが寝ているベットに飛び乗り顔をペチペチし始めた。けれど父さんは意に返していない。


 それどころかどこか気持ち良さそうだった。



「うーん。クエ〜。くすぐったいよ」


「クェ! クェ!……クェ」


「スーッ。スーッ。……グム!」


父さんが変な声を上げる。クエはいつまでも起きない父を見て叩くだけでは無駄だと判断したんだろう。父さんの顔面にクエは卵を温めるように座った。


「……ブハーッ!!」


「クェ!」


「よくやったなクエ。後で母さんに言ってお魚貰おうな?」


「クェー!」


相当息苦しかったのだろう。父さんは飛び起きた。起きた時にお腹の上で寝ていたクウはゴロゴロと父さんの足の所まで転がったが、まだ寝てる。


クエはお魚が貰える嬉しさで手をパタパタと広げている。


「おはよう、父さん。もう朝ごはんできるよ」


「うー、分かった。クウも一緒に降りような」


父さんはベッドから体を出して、寝ているクウを抱えながらリビングへと向かう。俺とクエも後に続いて一緒に降りた。


「母さんの料理は美味しいな。グレンも朝はちゃんと食べないと駄目だぞ」


「なら父さんも早く起きないと駄目でしょ」


「ははは! 確かにそれはそうだ!」


そうして父さんは一本取られた、とでも言うかのように笑い飛ばした。そしてグレンとノースターが会話をしてる内にルキナも起きて来た。

 ルキナは昨日とは違い、下着姿ではなく普通のパジャマをきてた。


「おはよう〜」


「ほら、ご飯できてるからルキナも食べなさい」


ルキナが起きて4人でご飯を食べる。クエも俺があげた魚を美味しそうに食べてるし、クウもいつものご飯を食べている。


「そうだ! 家族全員揃ってるし、みんなでどこか出かけよう!」


「あら、良いわね。じゃあ私はお弁当の準備するわ」


父からの突然の提案。そしてそれに同意して弁当を準備する母。怒涛の勢いで今日の予定が決まっていく。


……もう慣れてるから良いけど。


▲▲


「良し! じゃあ出発だ!」


父さんが凄い張り切っている。家族全員が準備を終えて、家を出る。しっかりと鍵をかけたか母は確認して、父の横に並び歩き出す。

 俺はクウを、父さんはクエを抱えて山の中に入って行く。


「懐かしいな〜。昔は家族みんなでこうやって出かけたもんだ」


「そうね〜。釣りをするのは久しぶりだから、私ちゃんとできるかしら?」


「大丈夫だよ。父さんもいるし、俺もある程度なら教えられるから。クウとクエも目一杯泳いで良いぞ」


「クゥ!」


「クェ!」


うむ、2匹ともいい返事である。俺がクウを撫でていると母さんは後ろを振り向いた後、父さんの腕に抱きついて笑顔で言った。


「私はお父さんに教えて貰うから大丈夫よ。グレンはルキナに教えてあげて?」


「それもそうだな。ルキナも釣りとか久しぶりなんじゃないのか?」


「私も、最後にやったのは1年前とかだから、ちょっとだけ不安かな」


「じゃあ俺もある程度ならできるから分からなかったら教えるよ」


「ありがとう! お兄ちゃん」


ルキナはサイドテールにしてる髪の毛を揺らして、笑顔を俺に向けた。うん、我が妹はやはり可愛い。


「ふふ。じゃあお父さんは私にちゃんと教えてね」


母さんは父さんの耳元で優しく、誘惑するような声で言う。すると父さんは少し顔を赤くしながら……


「ま、任せろ!……あの、恥ずかしいので少し離れて貰えると嬉しいです」


「うふふ。いーや」


そして母は、抱きついている腕により力を込める。すると父さんの顔はより赤くなる。 幾ら2人が若い見た目だからと言って親のイチャイチャを見るのはなんだか複雑な気持ちだ。


「ウチの親…相変わらずだな」


「お兄ちゃんがいなくなってもこんな感じだったよ」


「マジ?」


「マジ」


俺がいなくなっても相変わらずだったようだ。まぁ、仲が良いのはいいことだ。

 俺とルキナは暖かい目で2人を見守りながらついて行く。




「さ! 着いたぞー」


父さんの言った通り、俺たちは釣りの出来るスポットについた。ここは前と変わらず綺麗な渓流で、少し奥には小さな滝が流れている。


「懐かしいなぁ」


俺は独り言のように呟く。 ここはだいぶ昔にクウとクエを保護した場所だ。 こいつらを見つけた時はボロボロの状態だったので俺と父さんが急いで保護をした。


回復した後もしばらくこいつらの親を探したのだが見つからなかったので家族として迎えることにしたのだ。


「さて、ルキナ。釣竿の餌つけれるか?」


「ううん。お兄ちゃんやってくれる?」


「しょうがないなぁ。クウとクエもちょっと待っててくれよ?」


「クゥゥ」


「クェェ」


2匹は早く泳ぎたそうに水を見ている。少し可哀想だがもう少しだけ待ってくれ。その間に俺はルキナの釣竿に餌をつけて、自分のにもつける。


ふと横を見ると父さんが、同じように母さんの釣竿に餌をつけていた。


「ありがとう。お父さん」


「これくらいどうってことないさ!」


あっちは相変わらずである。そんなこんなでみんな釣りの準備が出来る。…っとその前に


「クウ。クエ。遊ぶのはいいけどこっち側は危ないから近づかないこと。 こっちにくる時は川から出て歩いてくること。 守れるか?」


「クゥ!」


「クェ!」


「うん。いい返事だ。じゃあ遊んでこい!」


2人は勢いよく水の中に入り泳ぎ出す。ウチの風呂は広いと言ってもそれでも2人には物足りないだろう。

 俺たちは2匹が遠くの所に泳ぎに行ったのを確認してから、釣り糸を垂らす。


「さて、なにが釣れるかなー」


「お兄ちゃんは向こうでも釣りはしてたの?」


「そうだなぁ。まぁ、2ヶ月に一回はしてたかな」


「結構してるんだね」


そんなこんなでのんびりと釣りをしながら会話をする。滝の音に、鳥の鳴き声がよく聞こえる。これが釣りの醍醐味だいごみである。


「あと、私の渡した仮面はちゃんと使ってくれてる?」


「……ウン。使ったよ」


「なんで、そんな微妙な顔するの?」


おっと、どうやら顔に出てしまったらしい。確かにちゃんと使ったし役にも立った。でもな? あの仮面はお兄ちゃんは、どうかと思うよ。


「いや、うん。すごく役に立った。ありがとう。ルキナ」


「ふふふー。あの仮面、すごくかっこよかったでしょ?」


「……ソウダネ」


「だから、なんで微妙な顔するの!?」


どうやら俺はまた微妙な顔をしているらしい。だってしょうがないじゃん。顔に出ちゃうんだから。


「お? ルキナの方、引いてるぞ」


「え? あ、ほんとだ」


ルキナの竿がしなっていた。ルキナは釣竿を持ち直して勢い良く、竿を引っ張った。


「おー、結構でかいな」


「えっへへー!」


妹が嬉しそうにドヤ顔をして釣り上げたのはあゆっぽい見た目の魚である。こいつは今日の晩御飯にでも並べよう。


「ほら見て! こんな大きな魚が釣れたわ!」


「おー。やっぱり母さんは凄いな!」


父さんたちも盛り上がっている。母さんも大きな魚が釣れてはしゃいでいた。父さんも嬉しそうな母さんを見て嬉しそうだった。


「うっし! 俺もたくさん釣るぞー」


「お兄ちゃん頑張れー」


俺はルキナに応援してもらいながら気合いを入れ直して釣竿を持つ。やはり兄として良いところを見せねば格好がつかない。



「さて、そろそろお昼ご飯にしましょうか」


「ウン。ソウダナ」


「だってお兄ちゃん。私たちも行こう?」


「ウン。いくか」


明らかに俺と父さんが落ち込んでいる理由。それは女性陣は魚を沢山釣っているのに対して男性陣は成果0であるためだ。

 おかしいだろ。魚どもめ、明らかに人を選んでるだろあいつら。


「父さん。釣れた?」


「0だ。グレンは?」


「0だよ」


「「………はぁ〜」」


俺と父さんは顔を見合わせた後に大きくため息をついた。しょうがないから飯を食って切り替えよう。


「クウー。クエー。ご飯食べるから戻っておいでー!」


父さんが大きな声で遠くにいるクウたちに声をかける。こちらを見たクウとクエが小さな声で返事をして泳いで戻ってきた。


「さて、じゃあ食べましょうか」


「お、今日はサンドウィッチか。美味しそうだ」


父さんが言ったように中には様々なサンドウィッチが入っていた。ハムが入っているもの、いちごのジャムが塗られているものがあり、よりどりみどりである。


「うん! 美味しいよ! 母さん」


「あら、良かったわぁ。お父さんはその苺のジャム入りがお気に入りよね」


「まぁな。この甘酸っぱさがたまらないんだ。クウとクエも美味しいか?」


「クゥ! クゥ!」


「クェ! クェ!」


2匹も美味そうに食べている。2匹とも何故か俺たちと同じ物を食べても平気なのだ。そして俺とルキナも食べ始める。


ルキナはハムが入っている物、俺はカツサンドを食べる。……うん、濃厚なソースがパンに絡んで最高だ。


「あー、こうやって外で食べるのも良いなぁ」


「そうだねぇ。…そう言えばお兄ちゃんっていつまで居られるの?」


「んー。あと1日か2日くらいは居ようと思ってるな」


「なぁ。やっぱりもっと泊まっていかないか?せめて1週間、いや、1ヶ月くらい」


「お父さん。あんまりしつこいとグレンに嫌われるわよ?」


「ぐっ。分かった。でも早めに帰って来るんだぞ?」


「分かってるよ。次はちゃんと早めに帰るさ」


そんな話をしながら俺たちは昼飯を食べていく。やっぱり家族と食べる飯は美味いな。



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