即興の歌を書くまで

マコ

第1話:ある有名アーテイストのバンド活動

 「みんなぁー、今日はノッているかーい!」


 屋外の舞台上を叫ぶ一人の歌手の問いかけで、彼の熱狂したファンたちは威勢の良い声で応えてくる。


「「「うわぁー!!」」」 


「私の愛するひとし様―!!」


「あなたのバンド活動を毎回追っていますー! 今日も存分に歌ってくださーい!!」


「今日の新曲を披露してくださーい! 素敵な即興歌手様―!!」


 それまで学生時代頃の安藤仁あんどうひとしには、自分が人気になる望みは描けていなかった。その理由として、歌作りが好きなだけだった仁には、人気者や有名になることであまり執着を多く抱かなかったためだ。また、彼の生い立ちが清貧だったことにも理由はあった。人に作った歌どころか、アコースティックギター一本の弦さえ張りかえるどころか買えないほどまで貧しい家庭だから理想は少なかったのかもしれない。その貧しさは、学校に通うお金が持てないほどの暮らしだった。しかし、彼は創作曲で歌を人々へ届けたいと思う気持ちが、今の晴れ舞台活躍に行き付いているのだろう。


「仁様―、素敵です!!」


「これから先もずっと活躍していてくださーい!!」


 彼の曲が作りたくて人へ聞かせたい夢を諦めない強い信念や、それで招いた運の巡り合わせこそ、コンサートホールを歌える運命へ導き出せた結果なのだ。


「ファンの皆さん、あなたたち一人一人の応援が、この舞台へ俺を立たせてくれています。本当に、ありがとう! ありがとう!!」


「「「うわぁー!!」」」


 仁の投げキッスに、大勢のファンから熱狂は伝わってきた。彼はただ人に創作した歌が届けたいのだった。その自作自演で音作りの実力者の創作者として彼の想いは、心に一時も揺るがなかった確かなものになった。


「今日は遅くまで歌うからちゃんと付いてきてくれよ! よろしく!」


「「「うわぁー!!」」」


 そう言って、安藤仁はドラムの有田、ベースギターの二宮、エレキギターの三島の音に支えられて歌い出した。


 

 俺は気付いたんだ

 自分にやれることは無限大だと

 聞いた君は信じるかい?

 この空で一人駆ける俺の叫びを

 一人きりの魂なんていないのさ

 この歌心を聞けばいいのさ

 迷わずに歌い出せ

 君のためで愛を叫ぶよ

 その心に偽りや間違いなんて

 何もないから叫ぶのさ

 届け、この遥かなる想い

 耳を揃えてくれ

 迷える子羊たち!


 

 ここで赤いアコースティックギターをタコのできた指先で握り締めながら歌い続ける安藤仁の直向きな気持ちや想いの原点は、どこにあるのだろうか。それは彼の生い立ちの話まで遡るのだった……。

 

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