11・手紙

第42話


 コウタ。いや、この手紙の中では、ユズと呼ばせてもらってもいいかな?

 ユズ、ここへ来てくれてありがとう。

 ユズがこの手紙に気づいてくれたなら、わたしたちの選択は正しかったのだと思えるよ。

 実はね。これまでも何人か、こちらへ来てるんだ。いうて、私たちと同じように、事故的なものでね。ミントが開けたゲートにふらっと立ち入ってしまった人がいたってだけ。

 そういう時は、みんなの力を合わせて、元に戻した。

 あの三人が仲良しでよかったよ。そうじゃなかったら、もっと昔に終わってた。ただ、透明で、細かい破片になって散っていた。

 わたしたちにも、わからないことは多くてね。だから、ユズが抱いただろうすべての疑問を解決することはできない。

 この先に、晴れた世界があることを期待しないでほしい。

 さて、無理にというつもりは、今も昔も――いや、未来もない。でも、もしユズに「やってあげてもいいよ」という気持ちがあるのなら、話した仕事を、お願いしたい。

 っていってもさ、わたしとしたことが、指示が曖昧すぎたよね。

 だから、ここに、やってほしいことを書いておくよ。

 繰り返しになるけど、無理にとは言わない。ユズがそれをしなくても、誰も責めない。

 ユズが未来を、決めてほしい。


 この工作の中に、みんなからの手紙を入れておく。

 それを、その人に渡して。そして、できることなら、この世界での思い出話を、ユズが語り部となって、その人に伝えてほしい。

 三人からの手紙は、すべて伸太郎の母へ宛てたものだ。

 その場所は、伸太郎が借りていた仕事部屋。延々諸々の契約が続いていたけれど、建物自体の取り壊しが決まったらしくてね。伸太郎の母親は、片付けのために、これまでよりも頻繁に、そこに来ている。

 だから、きっといつか、そこで会えると思うよ。

 なんて、適当でごめんね。

 連絡はずっと手紙だったから、電話番号とか知らないんだ。タイムに聞いたらわかるかなって思ったけれど、「そんなもん電話帳に登録したっきり見てないから覚えてない」って言われてしまったよ。

 そりゃあそうだよね。


 みんなからの手紙は、置いておくだけでも届きはするだろう。けれど、これを受け取っただけでは、凍てついた伸太郎の母の心を解かすことはできないと思う。

 だから、できることなら、どうにかして、会う機会を作って。

 作り方は任せるよ。ユズが心地いい方法が、一番いい方法だ。


 この封筒の中に入っている便箋、なんだか多いな、って思わなかった?

 ここから先は、みんなからの手紙だよ。

 みんな、どれだけ時間かけるんだよってくらい遅くてさ。

 なかなかわたしのところに来てくれない便箋のことを考えると、ユズはみんなに愛されていたんだな、って思って。

 気づいたら洋服が濡れていた。

 その様子を見たら、ユズに濡らされたことを思い出して、震えた。

 本当に、ユズに出会えてよかったと、わたしは思っている。

 ユズキによく似ていたとか、そんな理由で厄介ごとに巻き込まれて、ユズからしたら迷惑だったよね。

 ごめんね。


 わたしは、この出会いは、運命だったと思ってる。

 できることなら、もっと前に、空を駆ける前に出会いたかった。

 いや、出会っていたら、この〝救い〟はなかったのだろうか。

 悩み出すと、沼に嵌ったように抜けられなくなってしまうね。

 ユズ。君の未来が、明るく眩しい世界でありますように。



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