第22話 託された想い〈過去〉

 グラヴィスからほど近い森の中。

 あまり人目につかず、不便でも便利でもない場所に暮らしていた。


 レイオさん、ミレイさん、リクトさん、ルアノさん、そして、カンネとの2年間の旅を終え、私はエルフの街に、送り届けられ1年を過ごし、カンネは第一王女イミリアの保護下で、貧困地区〈ルアーザ〉の孤児院に戻っていた。

 

 エルフ種は10歳を迎えると成人とされる。

これは長寿の影響で、より早く独り立ちをさせることで、自立を促す意味がある。

 私はひとりで暮らす様になり4年が経ち、14歳となっていた。


 私はいつもの様に、能力の鍛錬をし、生活のための狩を行い、採れた獲物の売買などをしていた。

 

 ひとり暮らしにももう慣れ、鼻歌まじりに楽しく生活を送っていた。


今日ーきょうはぁ、何食べようかなぁ〜! お肉も売りに行かないとね〜」


 などと相も変わらず独り言を言っていた。

 そこに、グラヴィスからだと思われる騎士たちが入ってきた。


「な、なんですかぁー!? あなたたちは!?」


「突然申し訳ありません! ですが、イミリア王女殿下の指示により、お知らせに参りました!」


 イミリアからの急な知らせに嫌な予感しかしなかった。

 そんな嫌な予感は当然の様に当たり、レイオさんとミレイさん、リクトさんが重体だと聞かされた。

 王城の治癒室にいると──。

 私はすぐに向かうことを告げ、騎士の人達に王城まで連れて来てもらった。

 治癒室に入ると、そこは怪我を負った騎士達の中に、レイオさん達の姿を確認した。


「──レイオさん! ミレイさん! リクトさん!」


 私は大声で叫んだ。

 しかし、リクトさんはもう息をしていなかった。

 レイオさんとミレイさんは、辛うじて反応してくれた。


「──ルシアか……。お前は襲われ……なかった、か?」

 自分より私を案じてくれた。

 私が頷くのを確認すると、ミレイさんは続けた。


「──よ、かっ……た……。無事だっんだね……」


 2人とも苦しそうに口を開いている。


「レイオさん……ミレイさん……。もう、喋ったらいけないよ……」


 私は目に涙を溜めて言っていた。

 だけど、2人は続けた。


「──ルシア……お願いがあるの……。私のね……大切なね……ハヤセを頼みたいの……」

 

 何を言っているのかと思った。

 それは2人がやらなければならないことだと……。

 でも、レイオさんも続けて言っていた。


 ──恐らく自分達の死を確信していたのだと思う。


「……うん、分かったよ。必ず元気に育てるよ……。だから、レイオさんもミレイさんも死なないで!」

 

 ミレイさんは私の頭を撫でる様に頬に手を当てた。


「──ルシア、お願いね……。私達はあなたも大好きよ……それと……ルアノ……の……」

「──わ、るいな……。あと頼むわ……」


 2人はそう言うと、息を引き取った。

 ミレイさんの手は、私から滑り落ちる様に離れ落ちた。 

 泣き崩れる私に、イミリアは大粒の涙を溜めながら言った。


「──ル、シア! ルアノの娘を……助けないと……」

「でも! ミレイさん達の子供も!」


 そう言うと、イミリアは言った。

 

「レイオ……とミレイの子は……すでに、この城に転送されて、保護してる……。多分……ルアノの空間転移でここまで飛ばしてる……でも……まだ、ルアノの娘が……飛ばされてない! きっと、ルアノに何かあったんだ……。親友の息子を先に転送させてる……」


 その言葉は、さらに嫌な予感を呼んでいた。

 転送出来ない事情が生じていると告げている。


「天世から4人を……狙わせないために、地底域アンダーグランドに……生活圏を移す様に、言った。多分、そこで……何かが起こってる……! この場から、敵が姿を消したのも、それが原因だと思う……。秘密を知ったことも、そうだけど、それよりも、悪夢の一族ナイトメアンの生き残りを……消そうとしてるわ……!」


 その言葉に、私の体がすぐに動いていた。

 イミリアは『無茶はしてはいけない』と言ったが、考えている余裕はなかった。

 私は急いで地底域アンダーグラウンドに向かった。だけど、そこには複数の死体と、ルアノさんの亡骸があった。〈キキノ〉という娘の姿はなく、すでに手遅れだと語っていた。


「──ああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーー!」


 私は大声で泣いた──


 大切な人を奪われた──


 家族たり得る存在を失った──


 ────でも、忘形見は託された。


 私は、何があろうとハヤセを守ると誓った。





 



 

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