第19話 もうひとつの脱出行
◇◆◇
二つの月に照らされた静かな海の上を、
その船は屋根のない一本マストの
「夜が完全に明ける前に河に入りたい、急げ」
「……わかっている。というか、おまえたちを拾ってから、夜の間ずっと力を使っているんだからな、少しくらい
黒髪の少年はぶつくさ呟きながら、海面へかざした手を動かす。と、同時に鈍い音を立てて船体の向きが変わり、速度を上げた。
「さすがは《
シリルの言葉に不満げな表情を浮かべる黒髪の少年──《水》の加護を持つ《
船は
《ロゼ・ポルトゥーム》は
彼らは、その河口から河に入り、内陸の奥地にある隠れ里へと向かうつもりだった。
ツァーシュがシリルの顔を見上げて文句をつける。
「何を
「……オレの力は目くらましに残しておきたいんだけどな」
シリルはぶつくさ言いながらも、ツァーシュの横にしゃがみ込んで、海面に手をかざした。
すると、しばらくして船に押されるような力がかかり、さらに速度が上がる。
「なんとか明るくなる前には河に入れそうだ。さすがに、夜に船を動かしているヤツはいないっぽいな」
その声に、ウトウトしていた子供たちのうち、何人かが目を覚ましたようだった。
アルバートの近くに居る、トビアとビアンカという
「起こしちまったな、わりぃ」
片手を挙げて謝る赤毛の少年に、笑いかける兄妹。
この兄妹は、今現在、別行動でキョウヤを逃がしてくれているピアージオの子供たちだ。キョウヤを
「大丈夫か、疲れていないか?」
二人の頭を
「うお、そんなところに鳥が──」
声を上げかけて、慌てて口を押さえるアルバート。
そんな彼にフルヴィオが小さく
「子供の頃からずっと一緒で……どこにいても、ぼくのことを見つけてついてくるんです。兵士に捕まったあとも……あぶないのに」
「そっか、いいな。家族みたいに思われてるんだな、大事にしてやれよ」
小鳥を刺激しないように、そっとフルヴィオの頭を撫でる赤毛の少年。
そんなアルバートと子供たちのやり取りを横目に、ツァーシュがシリルに声をかける。
「ところで、おまえは新しい《
シリルは肩をすくめた。
「たぶん、年はオレらの中で一番上っぽかったけど、なんつーか、お気楽というかお坊ちゃんというか、世間知らずってカンジだったかな」
そう言いながら、ツァーシュの横に並ぶようにして腰を下ろす。
たぶん、アイツは平和なところに住んでいたんだろうな、と、シリルは呟いた。
キョウヤ本人から境遇を聞き出したわけではないが、短い時間に会話しただけでも、なんとなくわかった気がしている。
「まあ、この先で合流することになってるから、楽しみにしてればいいんじゃね?」
ツァーシュは返事をしなかった。
◇◆◇
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