颶風院姫燐はヤリサーの姫であるッ!

小野山由高

第1部「邂逅! 伝説のヤリサー!!」

1本目「登場! ヤリサーの姫!!(前編)」

「あの大学には、伝説の『ヤリサー』があるらしい」




 その噂を友人から聞かされた瞬間、僕の志望校は決まった。







◆  ◆  ◆  ◆  ◆







 僕――童妙寺どうみょうじ貞雄さだおには『夢』がある!

 その『夢』を叶えるために、必死に勉強し、試験を突破し、憧れの大学――私立槍持学院大学……通称『ヤリ学』へと入学したのだ!

 全ては『夢』のため。




 ――そう、僕の『夢』……女の子とエッチして童貞を卒業するために……!!!




 ……そんなのが夢なのかよ!?

 と突っ込まれそうだけど、僕にとってはかなり本気の夢だ。

 何しろ、僕はモテない……悲しいことに、全くもって、これっぽっちもモテないのだ!

 当然女の子と付き合ったこともないし、それどころか口すらまともにきいたことがない……。

 おかしいなー。なぜこんなにもモテないんだろうなー……?

 見た目は特別良くもないけど極端に悪くもないはず。

 身体は毎日洗って、服も綺麗なものをいつも着ていて清潔感がないというわけでもないと思う。

 トーク力は……まぁ口下手ってわけではない程度、一般的な男子なんてこんなもんじゃないかなレベルだとも思うし……。


 でも、とにかくモテないのだ。

 なぜだろうと友人たちに聞いたこともあるけど――なぜか揃って目線を逸らしながら『まぁそのうち彼女ができるんじゃないかな……』とだけ言ってくる。


 そんな僕の夢を叶えるために、僕はいわゆる『大学デビュー』を狙うこととした。

 そして、おあつらえ向きに『伝説のヤリサー』があるというヤリ学を志望校としたのだった。


 このヤリ学、レベル自体は物凄く高い。

 比較的新しい大学であるが、受験生の偏差値ランキングではぶっちぎりのトップとなっている超難関校だ。

 高校の先生たちも『流石にもう少しランク落とさないか?』と口を揃えて言っていたけど、僕は夢のために諦めなかった。

 その努力も実って、ヤリ学に合格。

 僕はヤリ学生となることが出来た。


 後は、目的である『伝説のヤリサー』を探し出し入会するだけだ!







◆  ◆  ◆  ◆  ◆







「ようやく見つけた……!」




 早くも4月の終わりが近づいてきた頃、僕はようやく『伝説のヤリサー』の部室を発見することができた。

 『伝説』と言われるだけのことはある。

 このヤリサー、とにかく情報が表に出てこないのだ。

 入学式後、数多のサークルや部活が勧誘をしていたのに、ヤリサーは全く勧誘をしない方針なのか姿かたちも見えなかった……ま、そりゃヤリサーなんて表立って活動できるわけないか、とそこは納得だけど。

 上級生に伝手が全くないので話を聞くこともできず、かといって同級生の持つ情報は僕と同レベルだ。

 だから僕は数々のサークルに体験入会し、巧みなトークで情報を引き出したり噂を集めたりして、ようやく『伝説のヤリサー』の部室を割り出すことに成功したのだった。


 部室棟の隅っこ――目立たないところに『伝説のヤリサー』の部室はあった。

 ドアには特にヤリサーであることを示すものはない。

 『ご自由にお入りください』『いつでも入会歓迎!』と書いた貼り紙があるだけだ。




「……噂通りだけど、本当にここなのかな……?」




 仕入れた噂通り、一見すると何のサークルなのかわからないようになっている。

 そこが不安と言えば不安だけど……他の部屋のドアを見ると、サークル名とかが書かれた札が掛かってるし間違いはない、と思う。多分。

 ここで躊躇っていては僕の『夢』は叶うことはない。

 これもまた大学デビューの第一歩だ。

 そう決意し、僕は部室の扉へと手をかけ、




「失礼します!!」




 勢いよく扉を開けた。




 細長い、あまり広くない部室。

 中央にギリギリの狭さになっているが机と椅子が並べられており、部屋の奥には窓。

 うん、まぁ僕の何となくイメージしていたサークルの部室って感じだ。活動内容によって、スポーツの道具が並べられていたり本があったりとレイアウトは変わるだろう。

 ……が、僕の目により強く映ったのはそういうところではなく。




「おう?」


「…………」




 入口から向かって真正面に、男が座っていた。

 角刈りのいかつい顔をした筋骨隆々の大男だ。

 ……しかも、




「……………………すんません、間違えました」




 バタン。

 見なかったことにしよう。




「……見間違いだ。きっとそうに違いない、うん」




 ヤリサーだし男がいるのはおかしくない。

 でも裸の男がいるのは……流石におかしくないか? いやある意味合ってるのか?

 僕の見間違いに決まっている。うん、そうに違いない。




「し、失礼します!!」




 気を取り直して再度ドアを開けると――




「おう?」


「うぇい?」


「…………」




 

 裸の角刈り巨漢マッチョに加えて、売れないホストっぽい感じのチャラ男が増えている。こっちは服を着ている、一応。

 反射的にまたバタンしようとしたけど、このままでは一向に話が進まない。

 僕の『夢』のためにも、こんなことで挫けてはいられないのだ!




「あ、あの~……ここって、『ヤリサー』で合ってます、かね?」




 そういや『ヤリサー』の本来の名前知らないや、と今更ながらに気付く。

 まぁ合ってるならこれで通じるだろう。ドストレートすぎるけど。




「うむ、『ヤリサー』だが?」


「うぇい? もしかして入会希望者?」




 合ってるのか……。

 合っちゃってるのかぁ……。

 ……この角刈りマッチョとウェーイ系ホスト崩れが会員なのかー……。

 しかも見渡すまでもなく女子会員もいない……。

 ここにいないだけか? それとも、あんまり想像したくないけど、、とか……? それなら確かにある意味『伝説』かもだけど……。




「いやー、えっと……その……」




 どうしよう……?

 『ヤリサー』なのは多分間違いないみたいなんだけど……ここに入会して本当にいいものかどうか超悩ましい。

 いや、入会していいというより、『大丈夫』なんだろうか……主に僕の貞操的な意味で。

 どうする……? ここが分岐点だというのは直感でわかっている。

 ここで逃げてしまったら、僕は一生童貞でいる――そんな気もしている。根拠はないけど。

 『ヤリサー』なのは間違いないし……でも女子の姿は見えないし……いる男は滅茶苦茶怪しいし……。

 うーん……。




 そんな風に迷う僕へと、男たちは立ち上がり向かって来ようとする。

 ……角刈りマッチョは完全に裸というわけではなく、パンツは履いていた。何の救いにもなりゃしない。

 …………うん、やっぱ『なし』だ。

 こんな見るからにヤベーやつらが屯してるサークル、絶対まともじゃない。


「いや、僕は――」


 『ヤリサー』入会は諦めよう。

 なーに、大学なんだ。サークルなんて幾らでもある。

 別のサークルでもきっと出会いはあるさ。

 そんな風に考えてきっぱりと入会希望者ではないことを告げようとした時だった。




「あの、もし――入会希望者の方でしょうか?」




 ――僕の後ろから、天使がやってきた。

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