26. パン屋からの依頼

 また料理ギルドに呼び出された。

 今度は私のお店で昼食を買う人が増えた結果、パン屋が悲鳴を上げているらしい。

 それくらいどうにかしてもらいたいと思いつつ、私のせいでもあるので相談に乗ることにした。

 もちろん、無料じゃないけど。


 料理ギルドに呼び出された翌日、私はまた料理ギルドへとやってきた。

 今度こそパン料理を教えるためである。

 今回指導を受けるのは街のパン屋が30名以上、結構本気だな。

 教えると言ってもそんなに難しい料理を教えるわけじゃないんだけど。


 今回の材料もメインはオーク肉。

 最近ずっとオーク肉を使ってばかりである。

 オークから恨まれていないといいけど。


 サイドは旬の野菜。

 葉物野菜の鮮度がよく安かったのでチョイスしてみた。

 あと、トマトも。


 作り方だけど、オーク肉はまた薄切りにして、今度はこの時点でカレー粉をまぶす。

 オーク肉は大量だけどカレー粉は少量でも平気。

 全体に適切な量がまぶせるくらいでちょうどいいのだ。


 カレー粉をまぶし終わったオーク肉はフライパンで炒めていく。

 十分に火が通ったらお皿に移し、オーク肉の準備は完了だ。

 葉物野菜は適当なサイズにちぎっておき、トマトは縦に半分にしてからうす切りである。

 これで材料の準備は整った。


 あとはパンの下準備と最後の工程だけ。

 パンの横にナイフを入れ、貫通しないように注意を入れながら半分程度の裂け目を入れる。

 その裂け目に先ほど作った葉物野菜やトマト、焼いた肉を挟んで完成だ。

 名付けて『オーク肉のカレー風味サンドパン』である。

 いや、『サンドパン』というのはレシピ集の名前そのままなんだけど。


「できたのですかな?」


「はい、できました。これで完了です」


「なんとも簡単な。味は大丈夫なんですか?」


 おじさんは不安そうに聞いてくるけど、味は大丈夫!

 私は昨日試食してるから!


「任せてください! ちょっとピリッとしますが、美味しいですよ」


 おじさんたちに私が作ったサンドパンを手渡していく。

 おじさんたちは全員の手にサンドパンが行き渡ったところで、勢いよくサンドパンに噛みついた。


「ほっ!? これは!」


「確かにピリッとする! だが、それが癖になる!」


「葉物野菜とトマトのみずみずしさもたまらない! これだけでも商売になりそうだ!」


 あー、そこに行き着くか。

 私も葉物野菜とトマトだけっていうサンドパンを試したからね。

 ちょっと味気なかったけど。


「挟む物の種類を変えればいくらでも応用が利きますよ。今回はカレー粉をまぶしたオーク肉でしたが、腸詰めソーセージとか炙った塩漬け肉とか」


「なるほど。では、野菜の方も応用が利くと」


「そうですね。基本的にみずみずしい野菜でしたらいろいろと使えます。季節に応じて変えてみてください」


「そうだな。これなら、片手で食えるし、弁当にも持って来いだ!」


 あー、お弁当か。

 私のお店の弱点なんだよね。

 お弁当にすることができないっていうことが。

 要望は出てるんだけど、器がなぁ。


「よし、このレシピを買うぞ! 嬢ちゃん、このレシピはいくらだ!」


「レシピを……買う?」


「そうだぞ。料理ギルドから新しくレシピを教わるときには、『レシピを買う』必要があるんだ。もちろん、買わなくてもなんとかなるだろうが、それは信用にもとる。で、いくらだい?」


 どうしよう、レシピの値段とかまったく考えていなかった。

 カレー粉が金貨1枚って聞いてるから、もっと安くてもいいよね。

 このレシピを買った人は、自分たちの創意工夫でその先を広げていくんだから。


「それじゃあ、大銀貨2枚で……」


「おいおい、そんな額でいいのかよ! もっとふっかけられるかと思ったぜ」


「いや、これはあくまで原形を教えるだけですから。この先どう発展させるかは皆さん次第ですので」


「なるほどなあ。そういうことなら、その金額でいいか。それじゃあ、受付に金は支払っておくぜ」


「あ、よろしくお願いします」


 パン屋の主人たちは意気揚々と帰っていった。

 それぞれこれからどんなサンドパンを作るか想像しているんだろうな。


 あ、レシピのことを受付に伝えなくちゃ。


 案の定、受付ではレシピ代として渡されていった大銀貨の扱いについて困っていた。

 私が事情を説明すると、事務所に通されて担当者から説明を受ける。

 レシピを料理ギルドで公開する場合、料理ギルドにレシピを公開する必要が事前にあったそうだ。

 前回のカレー粉みたいにね。


 だけど、今回は私が勝手に決めてしまった。

 いまさらそれを曲げることはできないから、ギルドが買い取るレシピの代金も安くなると念を押されたよ。


 サンドパンのレシピは私にとってそこまで大切じゃないから気にしないけど。

 一度見れば誰だってその可能性に気付く物だからね。


 結局、サンドパンのレシピは金貨50枚で登録されることになった。

 ちなみに、この料理ギルドに対するレシピ登録はほかの街にも伝わるらしい。

 どのお店が考案したかも一緒に伝わるけど、別の街でもいまごろカレーは売られているのだ。

 そこまで頭が回っていなかった。

 というか、説明を受けた記憶がないな。


 してやられた気はするけど、うかつだったのは私なので大人しく諦めよう。

 次があったら確実に息の根を止めてやるんだから!


 そして、数日後、街の中ではサンドパンの噂を聞くようになった。

 どの店のどのサンドパンが美味しいという話代になっているようなので、各店主がいろいろと工夫しているのだろう。

 私もワリブディスでの営業は残り数日だし、気合いを入れてがんばりますか!

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