月は墜ちる、少女のために

藤原くう

第1話

「わかりましたよ、火口へ突き落とそうっていうんですね?」


「いや別に、そういうわけじゃないんだけども」


「ではどうして富士山まで来たのです? それも、厳冬期の富士山に」


「まあ確かに疑問に思うのもわかる。でも、火口から斜面へと突き落とそうってわけじゃあない。

 そんなことをするなら、助手である君にアイゼンとピッケルを用意したりはしないよ」


「なんだか説明口調なのが妙に気になりますが」


「そりゃあ探偵として、助手には聞いてもらわないと」


「それに、説明しないと何が何だかわかりませんしね」


「説明する通りに世界はつくられていく――私は、ぼんきゅっぼんのないすばでぃの探偵」


「事実は真逆ですが」


「……君がいるんじゃ、全部打ち消されてしまうな」


「だからこそ、アナタはワタシを殺すつもりなのでしょう?」


「しかしだね助手くん。君がそのような発言をするからこそ、私は犯人というロールを獲得しているのだと考えたことはないのかな」


「と、言われましても。ワタシは『アイロニックな助手』という役目に準じているわけで」


「しっ! 役目とか言わないの!」


「先に言ったのはアナタの方ですよ」


「そうだっけ。とにかく、私は助手を殺すつもりはない。だいたい探偵が犯人だなんて、今どき流行らないよ」


「流行るとか流行らないは関係ないと思いますが」


「大事さ、人気があれば読んでもらえる。たくさんの人に読んでもらえば、私たちもまた有名になっていくって寸法さ」


「はあ……」


「聞いちゃいないな、この助手!?」


「面白いからこそ人気は出ると、ワタシは考えていますので」


「あーあー言いよったな。それはつまり、この物語がくそつまんねえってことだぞ」


「つまらない会話ばかりが続きますからね。そう言われても仕方ありません」


「言葉のナイフ鋭くない? 神様、心臓貫かれて死んじゃうよ」


「こんなので死ぬ神様だったらそれまでです。あと、神様なんて信じているのですか、あなたは」


「いや別に……」


「なら言わないでください。そういうところありますよね、アナタって」


「うるさいうるさいっ」

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