第29話 √水杷楓②
エスカレーターで2階へと向かうと、当然のごとく水杷と出会った。
「やぁ、やぁ。久しぶりだね〜。春一く〜ん」
久しぶりでもなんでもないのだが、地雷系ファッションに身を包んだ水杷は、シナリオ通りの反応で現れた。
「水杷……」
「あれ〜? 久しぶりに同窓生に再会したってのに、反応薄いね〜」
反応が薄いも何も、お前の本性を知ってるから警戒してるだけだ。
高校の同級生で、天文部副部長、現在は大学生、そして――地雷系ヤンデレ少女。
僕が知っている情報を合わせてみると、明らかに「最後」のが浮いてるのが分かる。
「お〜い。春一く〜ん?」
「あ、悪い、悪い。考え事してたよ」
「だと思ったよ〜。高校生の時から、その癖治ってないんだね〜。変わらないなぁ」
高校生の時から変わっていない。
ゲーム内のキャラクターがそういうのは、どこか小賢しい気もする。
ただ、天文部として一緒に活動していた「記憶」はあるのだから不思議だ。
――困ったもんだ。
作り込まれた仮想は現実と区別がつかないなんて。
「副部長にそう言われるんだとしたら、本当のことなんだろうな」
「なにそれ〜。高校の時の呼び方なんてしてさ〜。懐かしいね〜」
「ところで、水杷はなんでこんなところにいるんだよ? 東京に引っ越したんじゃないのか?」
「引っ越してないんてないよ〜。ずっと実家暮らしだよ〜。今日は春服を見にきたんだよ〜」
「そっか。春服ね」
もう春服が前シーズンにでることなど既習済みだ。
「春一くんこそ何してるの〜?」
「あ〜、僕ね……」
さて、どうしたものか。
これまでの行動なら、「服屋に来た」というのが大筋のところだ。しかし、それは「明日のデート」を前提にしたことだ。
それを取っ払って考えると、ここは服屋以外の店を選択するのが無難だろう。
だとすると――本屋あたりか。
「ちょっと本を買いにな。ここの本屋がこのあたりじゃ一番大きいから」
「なるほどね〜。さすが、医大生。高尚ですな〜」
「高尚ってほどじゃないよ。ちょっと、漫画とそれから……」
と、そこで頭の中に突如、三つの選択肢が浮かんだ。
――――――――――――――――――――
※選択肢を選んでください
▶天文学の本
生物学の本
医学の本
――あー、なるほどな。
――これが、「ゲーム」たる所以か。
――ピコピコ明滅する「黒三角」を操作すりゃ良いのか。
――あ? でも、どうすんだ? 考えるだけでいいのか? 試しに、生物学のを……。
天文学の本
▶生物学の本
医学の本
――おー、なんだいけんじゃん。
――本当、昔のギャルゲー的なのな。
――ま、ここで選ぶべきはは流石に「天文学」の本だろう。こういうのは、女の子に合わせるのが筋だ。
※天文学の本を選択しました。
※自動セーブ中です。
――――――――――――――――――――
脳内から選択肢がたち消えると、水杷がパァっと顔を輝かせた。
「いいねぇ〜! いっしょについていかせてもらおうかな〜」
食いつきが違う。
というか、「ゲーム」の進行が変わった。
――つまり、ここからは未知の世界というわけか。
仮定として、天津さんの言う通り、彼女を「攻略」できるのであれば、「トゥルーエンド」があるはずだ。
そして、真のエンディングを迎えるためには、正しい「選択肢」を選び続ける必要がある……ってか。しかも、それを「3セット」しないといけないと。
――前回のシナリオは、明らかに「バッドエンド」っぽいしな……。
難易度の高さに辟易しつつ、心根で「ともかく、今後は地雷を踏まないように気をつけよう」と決意する。
「いいよ。一緒に行こうか」
選択肢を選び終えた僕は、水杷に対し、そう答えた――
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