第3話 2度目のクリスマス・イヴ②

 今日の日程は、1週間前から決めていた。


 まず、銀行で金を卸す。


 ショッピングモールで服と靴を買いたいからだ。


 服屋で買うものも決めている。清潔に見える白いシャツとジーンズだ。ネットの知識だが、まず大事なのは清潔感らしい。ノームコア? とかいう格好が、受けがいいとか書いていた。


 靴は白いスニーカーが無難でいいはず……だ。

 

 それから、本屋をちょこっと覗く。これは単に僕の趣味だ。新刊のマンガをチェックするのが、ショッピングモールへ行った際のルーティンだ。


 それでもって、午後から予約していた美容院で髪を切り、その後、喫茶店で休憩――


 我ながら、充実した計画なんじゃないか?


 これだけ完璧だと、鼻歌も出るってもんだ。


「ふん、ふんふ、ふーん♪」


 我ながら浮かれてるよなぁ。


 とはいえ、ふわふわ系癒し巨乳の天津さんも、明日、僕とのデートを待ってるのだ。


 もしかしたら、明日初めて――おっといかん。邪な気持ちなぞ持って、うまいこといくわけがない。


 性への道は、聖なる心から始まる。


 邪心を振り払って、僕はスキップしながら「ジャコモモール」へ向かった。


 ジャコモモールは、銀行、日用品、アパレル、食料品、ペット、飲食店――なんでもござれの、大型複合商業施設だ。


 到着後すぐ、銀行で金を卸し(5万円)、服屋に向かう。


 そこでバッタリ、知り合いと出会った。


「あ、春一くんだ~。やっほ~、ひさしぶり~」

「あれ? もしかして、水杷みずは……か?」

「そうだよ~。高校以来だね~。元気してた~?」

「おー。やっぱり水杷か! 僕は変わりなくやってるよ。水杷こそ、元気だったか?」


 ショッピングモールの2階で、高校の同級生、水杷楓と会った。


 水杷は、僕の質問に「元気でやってるよ」と答えた。


「そっか。てか、こんなとこで会うなんて奇遇だな。水杷は、県外の良い大学に入ったから、てっきり一人暮らししてるもんだと思ってた」

「いやいや~。大学自体は、そこそこだけどね~。それに、一人暮らしはしてないよ~。うち、あんまりお金ないし~」


 水杷は、ほわほわしたしゃべり方をするのが特徴だ。


「そっか。今日は、なんか買いにきたのか?」

「ん~。まぁ、春服とか見に来たんだよね~」

「春服? まだ冬だろ?」

「あはは。新作は大体、早めに売り出すもんだよ~。相変わらず、ファッションには疎そうだね~」


 そうなのか。新作って、早めに出るのか……。


 水杷の言うとおり、僕はファッションに疎い。正直言って、流行とかにあまり興味をもてない性質たちなのだ。


 とはいえ、だ。


「ファッションには興味ないけど、こう見えて僕も服を買いにきたんだぜ」

「え~。ほんと~?」

「本当だよ」


 僕の言葉に、水杷は「信じられな~い」と口を覆った。


「おいおい」

「春一く~ん。少し会わない間に、色気付いたのか~?」


 このこの。と、肘で僕をつつく水杷。


 高校時代は、お互い天文部として活動した間柄だ。


 自分たちが「モテない」側にいることは、百も承知だった。


 だからこそ、僕は水杷の非礼を許した。


「明日はクリスマスだからな。一応、僕にも相手がいるんだよ」

「うわ~。なんだかショックだな~」

「なんだよ。もしかして、水杷はひとりなのか?」


 意地悪されたお返しに煽ると、彼女は冗談まじりに怒った。


「うるさいな~。独り身だよ~」


 からから笑う彼女は、高校の時とまったく変わっていない。その姿を見て、僕は少しばかり安堵した。


 互いに笑っていると、水杷が何か閃いたような顔で言葉を接ぐ。


「あ、だったらさ~。私が服を見繕ってあげようか?」

「なんだよ急に」


 水杷って、そんなこと言う奴だったか?


 訝しんでいると、彼女はまたからからと笑った。


のサポートをするのが、副部長の役目でしょ」


 懐かしい言葉だ。


 高校時代、水杷は天文部の副部長として、僕のサポートをしてくれてたっけ。


 裏方に回るのが、水杷の得意分野だったっけか。


 そう思い、僕は「悪いな」とだけ彼女に告げた。


 そうして、ショッピングモールを二人で回ることにした。

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