第19話 【奏多】ダーツバー

歓迎会が終わり、各々が店の外に出た。あちこちで「次どこいく〜?」の声が上がり始める。


俺は先に出た陽奈のもとに駆け寄った。

「陽奈!みんなを待ってたら二次会に連れてかれるから、今のうちに抜けちゃおう!」

「えっ、はい、、、」


角を曲がる前、後ろを歩く陽奈の方を見た。


陽奈はなにか困ったような顔をして、名残惜しそうに店のほうを見ている。せっかくの歓迎会だから、みんなで二次会にいきたかったのかもしれない。

でも、俺もこの絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。


角を曲がった先の横断歩道を2つ渡り、少し奥まった建物が見えてきた。


「ほら、あそこにネオンサインが見えるでしょ?あそこがさっき話したダーツバーなんだ。」

「え、もうついたんですか?ほんとに近いですね!」


階段を上がり、ネオンサインの看板の下のドアを開けると、大きなコカ・コーラのプレートと、アメリカンナイズな装飾が目の前に広がった。

店内はアメリカ好きな叔父がよく聞いていたエルヴィス・プレスリーの音楽が大音量でかかっていて、非日常感たっぷりの空間だ。

奥の方に3席、小さな丸テーブルとダーツがある。


「うわぁ!オシャレなお店ですね!!!」

陽奈は目を輝かせて店内を見渡している。


「喜んでもらえてよかった。他にも、候補の店は2件あったんだけどさ、さっき、オシャレなバーより居酒屋派って聞いたから、ムーディーな場所よりこういう楽しそうな場所のほうがいいかなって。」


「奏多さん、色んなお店知ってるんですね!」


「ふふん、まあね!さっ、カクテル頼んでダーツやろうよ!」


ついつい口元が緩む。ひなと俺は、お揃いでクーニャンを注文し、真ん中のダーツ席のハイチェアに腰掛けた。


「もう、仕事は慣れた?」


「仕事自体はそんなに難しいこと言われたりはしないんですけど、神山部長との接し方がいまいちわからなくて‥難しいです。」


来た!!お悩み相談!!!!


「神山部長ね。確かに、無口で何考えてるかわかんないよね。俺もちょっと苦手。まあでもひなのとこはさ、稲田副部長もいるわけだし、困ったら稲田さんに聞いたらいいじゃん。」


「稲田さんは話しやすいので助かってます。めぐや、奏多さんも本当に気さくに接して頂けて、ありがたいです。」

そういうとひなはにっこり笑った。


「まあ、困ったら俺になんでも相談してよ!いつでも時間つくるから!!」


「ありがとうございます!」


よしよし、いい雰囲気だ。

あとはカッコいい俺を見せるだけだ。

俺は得意のダーツを始めた。

1本目から、ズキューン!と気持ちの良い音が鳴り響く。

つづけて2本目。

「よっしゃー!ダブルブル〜!!」


「え!!!奏多さん、すごすぎっ!!!!」


「ふふーん♪」


この前の大失態があるから、歓迎会ではあまり飲まなかった。ダーツが命中するということは、まだまだ理性が保たれている。くれぐれも飲み過ぎには気をつけないと。


「さあ、次はひなの番だよ」

刺さった矢を抜きながら、グラスを手にした陽奈のほうを見た。


「奏多さんのあとに投げるの嫌ですよ〜!!私、ホントにしょぼいので。。」

陽奈は笑いながら矢を手に取った。


「大丈夫!!俺がコツを教えてあげるから。」


投げ方を教えるのを口実に、さりげなくひなの右手をつかもうとしたその時



カラカラ〜ン



玄関のドアを開ける音がした。





「えっ!!!!神山部長!!!!????」

俺と陽奈は顔を見合わせた。




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