第3話 趣味に打ち込む、幸太〜こうた〜

ビルに新人秘書が入ったらしい。

男だらけのうちの会社では、女はレアな存在だから、そんな話は一瞬にしてひろまる。


話したことはないが、なんだかクールでツンケンしてそうな女だ。

フロアも違うから、関わる機会もあまりないだろう。



2年前、俺は同僚の美波にふられた。告白したのは俺だが、美波はいわゆるメンヘラで、守ってやろうといろいろ頑張ったが、深夜残業が続きなかなか会ってやることもできず、美波の苛立ちはつのるばかりで、お互いに疲れてしまった。


美波とは相変わらず社内で会うこともあるが、ほったらかされて別れたと向こうは思っているので、いまでは社交辞令の挨拶をかわすのみだ。


そんなこんなで、もう恋愛はしばらくこりごりだ。


今は、プロジェクトも少し落ちついてきたので、趣味を見つけようと、前から気になっていた絵を描くことをはじめた。

中でも、人物画を描くのにハマっており、定期的にサークルで集まり、モデルさんを呼んでデッサンをしている。


恋愛はこりごりだが、目の保養はしたい。

俺だって寂しくないわけじゃない。

33歳独身、ワンルームの暮らし。ペットもいない。小さい時から俺たちきょうだいを1人で育ててくれた母ももう60代。老後も心配だ。

姉貴も独身だし、俺も身を固めないとと思わなくもないが、モデルさんを見てしまいすぎたせいか、そのへんの女にはなかなかなびかなくなってしまった。


月に1度は実家に帰っているが、その度に、結婚はまだかまだかと母に催促され、正直しんどい。

仮に美波と続いていたとしても、母とうまくやっていけずにきっと別れただろう。


優しくて、仕事に理解もあって、俺の趣味にも理解がある、そんな彼女だったら欲しいものだが、他の女の絵を書くのが趣味の男なんて、言ってもなかなか理解してもらえないだろう。


まあ、母も今は元気だし、もうしばらくは自由に自分の生活を満喫しよう。








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