第11話:夜襲

天文16年1月19日:三河吉良寺津:前田慶次15歳視点


 昨日は甲賀衆を使って敵の様子を探らせた。

 敵に一艘でも船が残っていないか調べた。


 前日の戦いで拿捕した、戦にも使える小舟と同程度の舟が6艘と、更に小さく動きの悪い漁船が13艘も残っていた。


 動きが悪くても小さくても舟は舟だ。

 沖に出て網を投げ入れる事ができれば、地引網で多くの魚が獲れる。

 定置網を仕掛ける事ができれば、小舟で魚を追い込む事もできる。


 この辺りにイルカや小型の鯨がいるなら、追い込み漁に使う事ができる。

 鯨を1頭狩ることができたら、小型でも4000貫文になる。

 年に4000貫文も手に入るなら、有力な国人に成り上がれる!


 俺の手の動きに応じて、甲賀衆と選抜した足軽達が素早く動く。

 敵に見つからないように、寺津にある全ての船を奪うのだ!


 普通なら火を放って敵を苦しめるのだろうが、そんな事はしない。

 いずれは城を落として領地を奪うつもりだ。

 領民にする者の家を焼き払ってしまったら、棟別銭が集められなくなる。


 19艘の小舟を全て奪って大浜城に戻った!

 これで総数29艘の小舟が手に入った!


天文16年1月21日:三河吉良大浜:前田慶次15歳視点


「若、凄い量ですよ、これだけあれば良い銭になります」


 金岩与次が満面の笑みを浮かべて言う、この男は銭金に興味あるようだ。

 小舟がたくさん手に入ったので、舟で浜を離れた素潜り漁ができるようになった。

 いちいち浜に戻る事もなく、疲れたら小舟の上で休める。


 アワビやナマコ、イカや昆布は、干して日持ちするようにすれば、遠く唐にまで売れる高級品になる。


 売り物にならないような貝は俺達の口に入る。

 主食の米は信長が十分送ってくれるし、那古野城にいた頃のように塩を買う必要もなく、海水を加えれば塩味の濃い汁になる。


 今になって反省するのは、真珠の養殖方法を覚えていない事だ。

 鳥羽のミキモトを訪れた時に見学したはずなのだが、覚えていない。

 覚えていたらとんでもない金持ちになれていただろう!


 他にも石鹸の造り方や椎茸の人工栽培を覚えていなかった。

 テレビで見た事も本で読んだ事もあるはずだが、全く覚えていない!

 戦国時代に逆行転生すると分かっていたら、もっと勉強していたのに!


「そうだな、少しでも銭に変えて、もっと多くの兵を集めないとな」


 信長が足軽を集めては送ってくれるが、いずれ限界が来る。

 まだ家督を継いでいない信長では、使える銭に限りがある。


 それに、少し評判が良くなったが、信長を大うつけと罵る声が無くならない。

 悪い噂は、信長と敵対した林秀貞が流しているようだ。

 織田家を割って下剋上の機会を伺う気だろう。


「若、少し離れていますが、鳥羽川の湊には大きくて丈夫な網があるそうです」


 甲賀衆や荒子前田譜代衆に、漁に使える網を探させていた。

 奥村次右衛門が誰よりも早く見つけてくれた。


 敵対している奴、奪える奴に限定したから、見つからないかもしれないと思っていたが、もの凄く早くを調べてくれた。


「良く場所が分からないのだが、どの辺りになるのだ?」


「陸から襲うのならこの道筋になりますが、そうなると吉良や松平の城を数多く抜いて行かなければなりません」


 奥村次右衛門が、棒で地面に図を書いて教えてくれた。

 敵対する連中の城も書いてくれたのでとても分かりやすい。


「ですが、若が奪ってくださった舟を使ったら、誰にも見つからずに鳥羽川の漁村を襲う事ができます」


「鳥羽八貫城と鳥羽川坂城に守られているのか?」


「はい、ですが兵の数は総勢合わせても50もいないはずです。

 何かあったら領民を城に入れて守る弱小国人領主です」


「海の上を行くといっても、陽のあるうちは陸の者に見つかるな」


「はい、夜の間に近づき、夜明けとともに襲うのが宜しいでしょう」


「朝駆けは望むところだが、もっと十分に調べたい。

 網が何所にどれだけ保管されているのか、正確に調べおきたい」


「若の申される通りです、一兵も死傷させる事なく奪うのが理想です」


「甲賀衆に前もって調べさせた方が良いな」


「はい、甲賀の方々が調べてくれるのなら、これほど心強い事はありませんが、敵に悟られてしまう危険もあります」


「俺が直接調べるから何の心配もない」


「なりません、絶対になりません、城代を務める若がそのような危険を冒すのは、総大将として失格でございます!」


「分かった、分かった、分かったから、そんなに怒るな。

 だったら兄上と信頼のおける甲賀衆にやらせる。

 兄上の腕前は俺が保証するから大丈夫だ」


「若がそこまで言われるのでしたら信じましょう」


「どうせ調べるのなら、舟があるのか調べさせよう。

 舟がどれだけあるのか、夜の間はどこに置かれているのか、夜討ち朝駆けのどちらを行えば舟を奪う事ができるのか、詳細に調べさせよう」


「それは良い事です、大賛成でございます。

 今の舟の数でも近隣の領主に勝る舟数ですが、更に増えれば近隣で1番の水軍大将になれますぞ」


 近隣最強の船大将は悪くない、何事も最強が1番だ。

 今は少し多くの漁船を持っているだけの城代だが、いずれは佐治水軍を越える織田弾正忠家1番の海賊になって見せる!


「前田水軍」

優良小舟:16艘

鈍重小舟:13艘

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る