転生 前田慶次:養父を隠居させた信長を見返して、利家を家臣にしてやる!

克全

第1話:出会い

天文14年2月22日:尾張海東郡荒子城:前田慶次13歳視点


 何が哀しくて、小さく非力で生意気な餓鬼に土下座しなければならない!

 それでなくても毎日毎晩成長痛で苦しんでいるのだ!

 オスグッド・シュラッター病の子供を正座させるのは虐待だぞ!


「おお、本当に鬼のようにでかいな、何尺だ?!」


 急に屋敷に現れた糞生意気な餓鬼が偉そうに言う。

 これが歴史の授業で習った織田信長だと思うと感慨はある。

 だが同時に、義父を強制隠居させて前田利家を当主にする敵でもある!


 無視してやりたいのだが、義父と義祖父の顔を潰すからできない。

 何故なら、本家当主の前田種利と寄親の林新五郎秀貞が同席しているからだ。


 俺の義祖父は前田家の荒子城城代で、200貫を知行しているだけの分家だ。

 血の繋がった分家とはいえ、この時代では前田本家の家臣に過ぎない。


 俺自身も、昨年元服しただけの若造だ。

 初陣で大手柄を立てたが、陪臣の孫婿に過ぎないとても弱い立場だ。

 末端の陪臣らしく丁寧な話し方をするしかない。


「昨年末に測った時には6尺1寸(184cm)でしたが、まだ伸びています」


「誰か測りは無いか、測り紐を持って参れ!

 立て、立って見よ」


「若君、陪臣を立たせて、見下ろされるような事があってはなりません!」


 林新五郎がキイキイと文句を言いやがる!

 思いっきり叩いて殺してしまいたいが、そうもいかない。

 頭の良い義祖父殿に我慢しろと言われていなければ、殺している。


「愚か者、直臣であろうと陪臣であろうと、戦場では関係ない!

 それに、この者が見掛け倒しでないのなら、余の直臣にする。

 直臣にするか決めるのに、立った時の大きさを見るのは当然であろう!」


 陪臣の孫婿が、主家の若君を上から見下ろすのは無礼なのか!

 それを若君の公認でできるのなら、少しは義父の恨みが晴らせる。

 急いで立ち上がって上から見下ろしてやった。

 

「おお、でかい、本当にでかい、話に聞いていた黒鬼そのものだ!」


 昨年の美濃遠征で初陣を飾り、雑兵首ながら5つも討ち取った。

 参加していた武将や足軽の中で、身体が1番大きかったからとても目立った。

 身体に合う鎧がなかったので、小さな鎧を無理矢理つけていたのも目立っていた。


「余を肩車してみせよ」


「若!」


「黙れ新五郎!

 戦場では少しでも遠くを見る事が大切だ。

 この者に肩車をさせれば、戦場で敵の様子が手に取るようにわかる。

 それを試して何が悪い!?」


「……若がそう言われるのでしたら仕方ありません。

 ですがここでは、黒鬼が立っただけで頭がつかえております。

 どうしても肩車させると申されるのでしたら、外でやられよ」


「聞いたか黒鬼、外でやる、案内せよ」


 いつの間にか俺の綽名が黒鬼になっている。

 ろくに躾のされていない糞餓鬼は身勝手極まりない。

 本当はこんな奴を肩車したくないのだが……


 義祖父が目配せするので、しかたなく外に案内した。

 義祖父が城代を務める荒子城は、昨年築かれたばかりの新しい城だ。


 そして俺は、城が築かれて直ぐに婿入りが決まって、甲賀から来たばかり。

 城内も城外も良く分からないのだが、分かっている振りをする。


 造ったばかりの荒子城は、毎日壕を深くして土塁も高くしている。

 柵も塀も毎日少しずつ増やしている。

 日々変わる城内も曲輪も良く分かっていないので、上手く案内できない。


「おお、ここか、ここでやるぞ、早く肩車しろ!」


 偶然だが、上手く曲輪にでられたとたん、織田信長が偉そうに言いやがる!

 まだ元服前だから吉法師と紹介されただけだが、間違いなく信長だ。

 俺がここで信長を殺したら、歴史が思いっきり変わるのだろうな。


「肩車だけで良いのですか?」


「どういう事だ?」


「戦場で遠くを見る為なら、肩の上で立つ方がいいでしょう。

 それとも、肩の上に立つのは怖いですか?」


 立った時に足を滑らせて頭から落ちてくれないかな?


「おのれ、余を舐めるなよ、肩の上であろうと立って見せてやる。

 それくらいの事ができなくて、馬を操れるか!」


 信長は怒った声でそう言うと、見事に肩の上で立った。

 汚れた草鞋で肩の上に立たれるのは嫌だったが、挑発したのは俺だから仕方ない。

 結構運動神経が良いようだ。


「馬ですか、羨ましいです。

 この身体ですから、乗って潰れない馬が見つかりません」


「ふん、身体がでかければ良いと言う訳ではないのだな!」


 本当に腹の立つ性格をしている!


「体に合う馬さえいれば、敵の布陣など一撃で崩せるのですが」


「ほう、そんな大口を叩いて良いのか?

 そんな事を言うなら、余が黒鬼を乗せられる馬を与えるぞ」


「私を乗せて駆け足ができる馬ですよ?

 私を乗せたまま全速で駆けて敵陣に突っ込めるような馬ですよ?

 そんな名馬を、家督も継いでいない若君が手に入れられるのですか?」


「おのれ、余の力を侮るか?!

 許さん、絶対に許さん、馬を与えてからできませんと言っても許さんぞ!」


「本当に私を乗せて全力で駆けられる馬を下賜して頂けるのなら、やって見せます。

 敵陣に突っ込んで粉砕してみせましょう。

 ああ、ただ、私の身体と馬の身体を覆う鎧も用意してください。

 雨霰と矢が降り注ぐ中を突っ込んで、全身射られては無理です」


「ふん、その巨体でも矢は怖いのか?」


「それは怖いですよ、敵に近づく前に大軍から矢を射かけられては勝てません」


「よかろう、馬と鎧は用意してやる、余の初陣では先駆けを務めよ。

 武器は良いのか、前の戦では大長巻を使っていたのだったな?」


 何故俺が使っている武器を知っている?


「はい、乗れる馬がないので、長巻で馬の脚を斬るのです。

 大薙刀や金砕棒でも戦えますが、なかなか良い物がなくて」


「余が造ってやる、黒鬼が大長巻など持ってどうする?

 黒鬼なら金棒を持つのだ!」


 いや、俺は鬼じゃない!

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