俺の異世界イモ無双 ~手からイモを出す能力って、そんなのアリですか?~

樋川カイト

第1話

荒木あらき修治しゅうじさん。あなたに与える能力は『手からイモを生み出す能力』です」

「……え? なんて?」

 いきなり意味不明なことを言われて、俺は思わず呆然としながら聞き返していた。

 事の発端は、目の前に居るこの自称女神の女性が起こした凡ミスから始まる。

 この女神、あろうことか同僚と間違えて俺のことを殺しやがったのである。

 高校卒業と同時に18歳でブラック企業に就職して10年、昼も夜もなく労働に汗を流していた俺。

 毎日のように始発で出社して終電間際まで残業、休日は休みの日なので出社はせずにリモートワークで次から次へと送られてくる仕事を片付けていく。

 そんな生活を10年も続けてこれたのは、ひとえに丈夫な身体に産んでくれた両親のおかげだろう。

 そんなこんなで過労死ギリギリのラインを行ったり来たりしながら、俺はその日も死んだ目をしながら残業に励んでいた。

 結果、目の前に現れたのはマンガみたいに大きな鎌を持った黒フードの死神である。

 その冗談みたいにテンプレな姿に、最初は質の悪い幻覚かと疑った。

 しかしその死神は冗談でもなんでもなく、振り上げた鎌を一閃して俺の命をサクッと刈り取ってしまったのだ。

 結果として俺はなす術もなく命を落とし、そして目の前に立つ女神から人違いだったと謝罪を受けたというわけだ。

 なんでも本来なら同僚を殺しに行ったはずなのに、俺があまりにも死んだ目をしているから勘違いをしたんだとか。

 死神が勘違いするくらいだから、その時の俺は相当ヤバい目をしていたのだろう。

 それはともかく、勘違いとはいえ無関係の人間を殺してしまった以上は何らかの補填をする必要があるらしい。

「で、お詫びとして異世界に転生させてくれるんですよね?」

「いかにも」

「転生するにあたって、チート能力もくれるって言いましたよね?」

「言いました」

「……それでもらえる能力が『手からイモを生み出す能力』って、ふざけてるんですか?」

「ふざけていません。勇者でもなんでもない一般ピープルなあなたの魂のキャパシティーでは、この能力が限界なだけです」

 ほんのり苛立ちを混ぜながら女神を問い詰めても、彼女は面倒くさそうにそう答えるだけ。

 それどころか、納得していない俺を眺めてこれ見よがしにため息まで吐きやがった。

 こちとらお前のうっかりミスで殺されてるってのに、その態度はどうなのよ?

 もしこれが取引先への謝罪の場だったら、すでに相手はキレ散らかしてるところだぞ。

 上司のミスの責任を取って謝罪に行った時のことを思い出して、なんとも憂鬱な気分になってしまう。

 そんな俺の憂鬱な気持ちを無視するように、女神はめんどくさそうな雰囲気を隠すことなく口を開く。

「はぁ……。では、他の能力を与えましょうか? 他の候補としては『水中で三日間くらい息を止め続けられる能力』か『地面からだいたい10㎝浮遊する能力』のふたつしかありませんよ?」

 なんだ、そのクソ選択肢は……。

 そんな能力を貰ったところで、使い道なんてほとんど思い浮かばないぞ。

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