6 回復薬と酒の蒸留

第43話 ドワーフ 酒の販売1

「(ドレイン、これ以上車の詮索するなら、酒の話はなしやで)」


「わ、わかった」


「(えーか、マジやで。車のこと一言でも口に出したら、その瞬間に酒の話はご破算や)」


 ここはドワーフ村。

 村に入るときの最初の会話がこれだ。

 

 ドワーフのドレインに話を持ち込んで数カ月後。

 いろいろと実験を繰り返し、

 製品化の目処がたったところで、

 みんなしてドワーフ村にむかったんだ。

 

 村はシエル街から100kmほど西にある。

 ちなみに、湖畔村は街の東だ。


 ドワーフ村の近くには森が迫ってきており、

 湖畔村と魔素濃度が同じぐらいに感じた。

 ということは、ドワーフも半魔人かもしれない。


 村に至る道路は比較的しっかりしていた。

 時々は時速100km以上出しつつ、

 全体としては時速20km程度で進んだ。


 だから4時間ほどでついたんだけど、

 車の中ではドレインが質問攻めでうるさい。

 もちろん、車についてだ。

 ついにはラグが睡眠魔法をかけてしまった。

 

 車は村から少し離れた場所に止め、

 しっかりとステルスをかけた。

 他のドワーフに見られないようにだ。

 そして、ドレインにはしっかりと口止めをする。

 


 ドレインが驚いたのはキャンプカーだけではない。

 昼食として出したデニ◯ズのメニューもだ。


 『おろしハンバーグと牡蠣フライ』

 『ベーコンとほうれん草』

 『オニオンスープ』

 これが注文した内容だ。


「なんや、このハンバーグっていうのは。肉の細切れを焼いたんか。ナイフ入れると肉汁が凄いな。口に入れると臭みもなく、濃厚な味わい。でもこのおろし大根とかいうので口がさっぱりするんやな」


「(牡蠣フライもええやろ)」


「うむ。これは海の貝か。初めて食べるが、カリっと揚がったフライを噛むと、超熱い汁が口の中に広がり、潮の香りと、ミルクの様な芳醇な味が口いっぱいに広がってまことに美味じゃ」


「このタルタルソースとかいうのも美味いぞ。頭ん中で幸せの鐘がなっとるぞ」


 ドレイン、まるでグルメレポーターだった。

 これだけでは足りないので、


 『鶏の照り焼き丼&ミニラーメン』

 を追加した。


 ◇


「(ドレックス、ひさしぶりやな)」


「これはこれは、森の守護様。ご無沙汰しとりますわい」

 

 先触れ後、ドレインに連れられて、

 ドワーフ村の村長宅へ向かった。

 ラグとドレックス村長は旧知の間柄である。


「で、ドレイン。いい話を持ってきたそうじゃが」


「へへへ、まずはこれを飲んで見てください」


「ふむむ?酒か?やけに強そうじゃの……ふぉー!なんじゃ、この酒精の強さは!」


「村長、酒精だけを抽出した酒じゃ。蒸留酒っていうんだと」


「(ドレックス、この酒をなワテらと共同で作ろうと話をもってきたんや)」


「なんと!むむむ、これは一大事じゃ」


 その後、村の幹部たちを迎え入れ、絶叫が続いた。



 話は即決まった。

 機材はラグがマジックバッグに入れて持ってきた。

 そして実演してみる。


「おおお、本当に強い酒ができたぞ!」


 村の特産品であるエール。

 これを蒸留してみたのだ。

 蒸留を何度も繰り返してその都度味わってもらう。


「(蒸留を何度も繰り返すと、純粋なアルコールになっていく。作って欲しいのは、まず消毒用アルコールや)」


「消毒用アルコール?」


「(70%程度にまで蒸留した酒はな、傷の消毒ができるようになるんや)」


「消毒用?それも凄い話じゃが、飲めんのか」


「(そっからは、おまえらが決めーや。消毒用とゆーたが、飲用も可能や。でもな、現状ではストレート過ぎて美味い酒とはいえんし、用法を間違えると危険でもある)」


「確かにそうじゃの。蒸留をすればするほど、尖った味がしよる」


「(美味い酒にするには工夫が必要や。40%程度でやめて素材の風味を残すのもえーし、70%のアルコールを薄めてもええ。これ、飲んでみ?)」


「うお!味がまろやかになっとる!」


「(数ヶ月寝かせた品や。小さい樽に入れて熟成させたんや。こんなものもあるで)」


「これは苦味がきいておるの」


「(焦がした樽で熟成させたんや。材料はとうもろこしや。バーボンって名前をつけとる)」


「ほう。すると、いろいろな素材を楽しめるし、寝かす樽のフレーバーも関係するってか」


「(せやな。樽だけやのうて、薬草とかを漬け込んでもええしな)」


「うむ、これは創造力が試されるってわけか。ぞくぞくしやがる」


「(製品化はおまんらにまかせる。でな、もうひとつ驚くもんをもってきたんや)」


「まだあんのか」


「(せや。これ飲んでみ?)」


「なんや、これ。薬みたいやな」


「(上級回復薬や)」


「は?ワシ、一気飲みしてまったぞ。これって一本100万pとかするやつじゃろ?金は払えんぞ」


「(ふふ、ワテらはな。回復薬の自作ができるようになったんや。その上級回復薬な、材料費なんて微々たるもんや)」


「はあ?薬師ギルドが独占しとる薬をか?」


「(せや。ところで、この薬、売れると思うか?)」


「うーん、難しいな。薬師ギルドやら薬利権で儲けとる奴らがオットロシイ顔で攻めてくるわ」


「(ほやからな、これを酒に混ぜ込んで新しい薬にするつもりなんや。それがこれや)」


「ゲホンゲホン、凄い酒精やな」


「(酒精は70%以上はある)」


「流石にそれだけ強いと飲用にはならんな」


「(急性アルコール中毒になるしな、気化したりして火がつきやすいから保存にも注意が必要になる。せやけど、そこまで蒸留すると消毒用になんねん)」


「なるほど。これが消毒用アルコールってわけか」


「(傷にふりかけるだけで化膿どめになる。これだけでも新しい薬や)」


「冒険者ギルドとかにバカ売れしそうやな」


「(せや。用途は無限や。そこにこの回復薬をまぜるんや)」


「なるほど!消毒用アルコールと銘打って、本当は回復薬というわけか」


「(実際は薄めて使うことが多いやろけどな。消毒用アルコールなんて新しい薬や。まあ、それでも発売すると薬師ギルドがうるさいやろ。ほんでもな、製造元がここドワーフ村で販売もここで行ったら?)」


「そりゃ、文句を言いにくいな。てか、文句は出させんぞ」


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