群青は勇者の色 —――冒険者は召喚勇者に憧れる―――

ふぁーすとべる

プロローグ

———ブルーウェル王国グレイヴ地方サミーポンド


 平生の十数倍はある人通りと騒めきは、見慣れない装飾で着飾った街並みを殊更色づかせている。

 冒険者にしては大人しい性格をしたアッシュも、蒼空へ駆け抜ける春風を一身に受け高揚感に身を震わせていた。


「しっかしまあ、この街にこんなに人がいたとはなぁ...。」


 グレイヴ地方の中枢都市ともいえるサミーポンドは、この国の中で片手に数えられるほどの大都市である。

 が、例え王都であろうと身動きをとるのも危うい人混みを見ることは滅多にない。


 今や国民の憧憬の的である勇者、その帰還を祝うパレードであるからして、これ程の賑わいでも然もありなん。


「ちょっと、邪魔よ。どいて!」


「今、俺の足踏んだだろ。」


「うるせぇなぁ。」


 精々喧嘩程度の小競り合い達は、もはや平和の象徴のようにも思えてくる。




 唐突に鳴り始めた軽やかなスネアのリズムが空気を煽り、高らかな金管の音色とともに民衆の熱は破裂した。


 アッシュは、平均より幾何か高いその身をさらに伸ばし、憧れの彼の姿を目に焼き付けんとした。




 そして、徐に振り返ったその顔かたちをやっとのことで認識して———―


———――アッシュは息を呑んだのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る