ターン6-5 真実を語る彼女と恋する勇者の覚醒

『一馬よ。君はその力で何を得たい?』

「俺は……」


 一瞬、ユウマの問いかけに対して、俺は言葉を選ぶのに悩む。


『僕は、僕の世界で勇者として使命を全うした後に、天寿を迎えて生涯を終えた。そして今の僕は君の中に宿る存在として根付いている。あの時。君が諸悪の根源であるマクスウェルに殺された際。同時刻に僕は君の世界を司る神と出会い。滅びゆく世界の為に勇者として何かしてくれないかと頼まれた』

「なるほどこの世界には神様がいたのか。それで俺は本当に一度死んでしまったと……」

『そうだね。僕の持つ最上位の蘇生マジック【死者回帰(リザレクション)】で。君は文字通りに新たな力を目覚めさせ息を吹き返した』


 ユウマの突きつけてくる真実に察しがつく。


――蘇生マジック【死者回帰】


【このカードを手札に持っている場合に発動できる。】

【デッキを10枚残してその他をトラッシュゾーンに裏側で封印する事により、相手マジシャンから受けたLP0になるLDを受けた数値だけLPに加算する。】

【このカードの処理後にトラッシュゾーンに裏側で封印し。自分のアクションフェイズをはじめる事ができる。】


「俺のこの命は。ユウマがくれたものなのか?」

『そうだね。僕は君の境遇に対する同情や、昔の自分を思い出して懐かしみを感じ。神の問いかけに応じることにしたんだ』


 つまり、俺のこの胸の中。この空間はユウマが産みだした自分の身体の中にあるもう一つの世界だという事になるな。


『僕はこの身体に根付く前に過ごしてきた人生を振り返ると。とても幸せに恵まれていたと思うよ』

『改めて聞かせて欲しい。君は僕が授けた力でどうしたい?』

『俺は、この力で……。自分の大切な人を守りたい……マクスウェルに囚われたあずさを救いたいんだ……っ!!』

『それが君の答えなのかな?』

「俺は、俺自身を変えてくれたあずさを救いたい。彼女には返しきれない感謝の気持ちがあるんだ。彼女は今、マクスウェルと戦っている。彼女の為にも、一刻も早くこの力で彼女に救いの手を差し伸べたい」


 例えお互いの関係が偽りに塗れていたとしても、おたごいに恋人として過ごしてきた時間やそのひと時は何物にも代え難い真実で積み重ねられている。

 その思いを踏まえてユウマにそう語り伝えると。


『ならば、僕のこの力の全てを君に託す。勇者の剣は全ての勇者のカードが揃った時にその姿を現す。上手く活用してほしい。滅びゆく君の世界に幸が在らんことを祈るよ』


そして最後にユウマは気を利かせてくれた。


『君の手にある盾のカードは僕の力で解呪した。今から君をあずさが居る教会へと送り届けるよ。頑張れ、勇者……結城一馬よ……』


 消えゆく存在となりつつあるユウマに感謝を伝えた。

 そして今この瞬間。


「結城一馬ぁああああああっ!! 殺すっ!!」


 俺とマクスウェルは互いに譲れない思いを抱き、デッキか5枚のカードを素早く抜き取ってマジシャンズバトルを始めた。


「早撃ち勝負だマクスウェル! 俺はスピード・スペルマジック3『ファストアタック』の発動を宣言する。この効果により、マクスウェルのLPに対し3のLDを付与する! チェインは?」

「後手に回ったとてこの僕であるマクスウェル。必ずお前から先手を奪いかえせる。チェイン宣言。スピード・スペルマジック4『魔王の威圧』を発動する! この効果に対し、お前はスピード・スペルマジック以外のカードでのチェイン宣言ができなくなる。さらに、この瞬間からスピード・スペルマジック5以上のカードでなければお互いに発動の宣言ができない」

「……思考させてもらう」

「さあ、僕を驚かせる解答札を持ち合わせているのかどうか。とても楽しみだなぁ」


――俺の手札にある4枚のカードの中であれを捲れるカードは……。


 ここで宣言が出来ないと相手に先攻を譲る事になる。

 手札のカードを手の中でシャッフルしつつ、右から2番目のカードに視線を送りつつ展開を推移していく。


――繋がったな。これでいけるだろう……。


 プランを決めてマクスウェルにチェイン宣言をする。


「チェイン宣言。俺はスピード・スペルマジック6『九死一生』の発動を宣言する!」

「ふむ。そのカードを使うということは。貴様の手の中にあるカードの内容が悪いということだな? ならば、ここはひとつ温存する形でチェイン宣言はしないでおくとしよう」


――賢明な判断だな。初動の場合はそれがセオリーだし。


「このカードの処理により、俺はデッキの上から10枚のカードを引いてドロー宣言する。そしてその中から1枚を手札に加えた後に。残りの引いたカードは裏側でトラッシュゾーンに送る。この効果によってトラッシュゾーンに送られたカードはこのマジシャンズバトルでは使用できなくなる」


 激重のコストを支払う事で得られるアドバンテージは勝利に繋がりやすく、相手も想定済みで対応を考えているだろう。


「これで俺のアクションフェイズは終了だ」


――初動は上手くいった。あずさと事前に組み上げたこの『勇者』デッキが何処までマクスウェルが持つデッキに通用するかは未知数だ。


「では僕のターンだ。ルール上、先ほどのチェインバトルにおいて使用したカードは。『九死一生』のカードを除き。他のカードで発動した効果は破棄される」

「そして今マクスウェル。お前の後攻1ターン目だ。どうする?」

「まぁ、そう焦ることなんてせず。死に急がなくてもいいじゃないか。では、続けよう。手札のこのオブジェクトマジック『魔王城』を場に展開したい。チェインはあるかな?」


――魔王? 新手のテーマか? ここは相手の展開を見て判断すべきか。


「宣言はなしだ」

「カードのテキストを読まなくても良いのかな?」

「ご親切にどうも。こちらにもお前を倒すための段取りがあるんだ」

「余裕だな」


 マクスウェルのアドバイスを聞いた所でこちらのアドバンテージなる要素は1ミリもない。


――自分を信じて直感的に対応していこう。


「では改めてこの居城を呼び出すことにしよう。いでよ、我が居城『イビルソーン・パレス』よ。この魔王マクスウェルの名において、その威光を愚民どもに示せ!」

「きゃっ!?」「おっとっ!?」


《ズガガガガガガガガガガ!!!!》


「こ、これは……」


 マクスウェルが詠唱し、地面を大きく揺らして出現させたオブジェクトマジック『イビルソーン・パレス』に圧倒される。


「この禍々しくも雄々しいこの姿。実にいい……」

「ゴテゴテの装飾に悪趣味な建築デザインだなーって思う……」


――まさに魔王が住むのにふさわしい佇まい……か……。


 細かな突っ込みは辞めておく。


「この魔王城の効果により。このアクションフェイズからお互いにドロー宣言をする場合には使用コストとしてLPを1支払ってドロー宣言なければならない」

「メタビートか……」


 ドロー行為を制限する事で戦略的な展開速度のコントロールをしたいと話しかけてきている。


――もしもの時に備えてドロー宣言した場合に……いや、ここはひとまず放置しかない……。


 あいにく手元には魔王城を崩せるような返し札がなかった。


「さあ、次は貴様のターンだ」

「貴様じゃなくて俺は結城一馬だ」

「僕はその名を呼ぶことに心の奥底から虫唾が走る……。我が愛しのハニーに手を掛けようとした男の名を呼ぶことに対し。僕は心の奥底から拒絶……」


 なにやら目の焦点があっておらず、ブツブツと言い出したので。


「悪いがこのまま俺のアクションフェイズに入らせて貰う。俺のターン、俺は手札のこのサーチマジック『始まりの運命(スタートオブデスティニィ)』を発動する」

「チェイン宣言はなしだ」


――よし!


「このカードの効果処理で、俺はサイドデッキからアーマードマジック『勇者の心』を手札に加える」

「そうか……そういうことか……!」

「バレたなら仕方が無い。俺が使うのは勇者デッキ。サイドデッキに収められた封印されし勇者のカードを全て手札にそろえて勝利するデッキだ」


 マクスウェルが焦りの表情を浮かべるのを前に、俺は指をさして宣言する。


「つまり、俺の手元に勇者のカードが全て揃った瞬間。マクスウェル。お前の敗北が確定する!」

「斬新な戦い方だが。僕のLPが0にならなければお前に勝ち目などない」

「それはどうかな?」


 マクスウェルに豆鉄砲を喰らわせることに成功する。


「悪いが、俺の頭の中にはお前のLPを0にさせるような戦い方はしないと決めているんだ」

「わからん……だが、貴様の言葉には真実味がある……」

「そして俺のサイドデッキにはあと数枚の勇者のカードが眠っている」


――バカ正直に残りの枚数を教えるような事はしない。


「……うむ」


 マクスウェルが冷静に思考しているのを見つつ、カードの処理でサイドデッキから『勇者の心』を手札に加えた。


「さあ、マクスウェル。次はお前のターンだ!」

「……僕のターンだ」


 マクスウェルは自分の手札を見つつ思考を巡らせ策略を練っているようだ。


――悪いが魔王デッキの構築内容が分からない以上は下手な動きをするわけにはいかない。ここはマクスウェル。お前の動きに合わせて妨害させてもらう。


 今回、サーチマジック以外にも誘発カウンター型のマジックをいくつか組み込んでおり。


――手札にあるこのカウンターマジック『ガード・ポジションチェンジ』があれば、このターンから3度だけ相手はアタック宣言が出来なくなる。


 要するに俺に対してマクスウェルは本命の一撃をあたえるのに無駄な攻撃を3度しなければならない。


「さて、そろそろこのカードの発動を宣言しよう」

「それは……?」


 指先でつまむように取りカードを見せてくる。


「僕はこのカードの効果の発動を宣言する。オブジェクトマジック『魔王城の石像(ガーゴイル)』を展開したい。チェイン宣言はあるか?」


「効果は?」


 俺の問いかけに対してイリアスが『魔王城の石像』の効果を読み上げる。


――オブジェクトマジック『魔王城の石像(ガーゴイル)』


【・このカードの発動宣言成功時より、相手マジシャンはこのカードを発動したマジシャンのターン終了宣言時に手札を1枚選んでトラッシュゾーンに送らなければならない。】

【相手マジシャンの手札が無い場合。このカードは裏側でトラッシュゾーンに封印する。】

【ここのカードは場に1枚しか展開できない。】


 マクスウェルがカードの効果を読み上げた後によくない事を思う。


「ハンデスによる遅延行為に加えて、ドロー宣言をした場合。LPが0になる可能性がある……。長期戦になれば成る程にその効果の目に見えていて、そして見えない怖さを思い知る事になる……」


 初めて見るタイプのメタビートデッキに悩まされる。


――メタビートに対してあまり良い印象はないんだよなぁ……。


「そうさ。僕が創造したこの魔王デッキは。相手マジシャンをオブジェクトマジックのデバフ効果で追い詰めた後に。カードの効果で勝負を決めるタイプのデッキだ。貴様、いや。結城一馬はこの僕、魔王マクスウェルの操るデッキで本当の死を迎えることになるのさ!」


――次に展開するオブジェクトマジック次第では手詰まりになりそうか……。

 マクスウェルのその勝利宣言にも聞き取れる言葉に考えを巡らせる。


「チェイン宣言。手札の『勇者の心』の効果により、相手がこの場に発動して展開しているオブジェクトマジックの効果を無力化する事ができる」

「……なんだそのふざけた効果は……」


――お前もこのカードに不満を感じるのか。


「俺も勝つために全力を尽くしている……お前がふざけてるだけだろ……?」

 ギロリとマクスウェルに視線を送り返すと。

「くっ、宣言なしだ……!」

「なお、この勇者の心の効果で無力化されているが。トラッシュ処理の効力がないので場に残り続ける。さらにこの発動宣言をした後に、マクスウェル。お前の手札を確認してデッキに1枚戻させてもらうぞ」

「なんだと!?」

「そして俺は1枚デッキからドローする」

「くそっ!」


 絶対的な勇者の心のアドバンテージを前にして、マクスウェルは為す術がないだようだ。

 その後、俺は宣言通りにピーピングハンデスを行いカードのドローをした。

 それから数ターンが経過し、俺は着実にサーチマジックのカード効果によって、サイドデッキに眠る勇者のカードを手札に集めていった。


――まるで冒険で得てきたかのような展開だな。


 メインデッキに構築しているカード全てが勇者の旅の物語を描いた構成となっており。


――この物語(デッキ)はユウマが辿ってきた旅路を表現しているような気がするな。


「俺のターンだ。俺は手札から『運命の対決』の発動を宣言する。この効果に対して相手マジシャンは全ての宣言ができない」


 カードの効果により、俺はサイドデッキから最後の勇者のカード『勇者の盾』を手にしようとした瞬間。


「そうはさせんぞ結城一馬ぁああっ!!」


 咄嗟の事で俺を睨み付けてくるマクスウェルは。


「僕は手札を含む全てのカードを裏側でトラッシュゾーンに送り封印する。そしてサイドデッキからこのカードをピックアップ宣言。カウンターマジック『覚醒する大魔王』の発動を宣言!」


 俺の発動を宣言したカードの効果を無視して無理矢理に介入してきた。


「無駄だ。不正行為をしたとしてお前のリアクション宣言は通らない」

「だと思うだろぉ?」


 マクスウェルは発動を宣言したカードの効果を読み上げた後に嬉々として舌なめずりをする。


――カウンターマジック『覚醒する大魔王』


【・このカードはサイドデッキに構築する】

【・このカードは手札と場にあるカード全てを裏側でトラッシュゾーンに送ることで優先して最初に効果処理を行う】

【・相手マジシャンはこのターンから数えて3回のアクションフェイズの始めにLPを半分支払わなければ動く事ができない。また、この効果処理が行う事が出来ない場合、発動したマジシャンの残りのLP分のLDを受けることになる】

【このカードの効果を発動したマジシャンは処理後に覚醒する】


「貴様が勇者のカードを操るならば。僕、いや。我はこの魔王のカードの力で世界を手中に収めようと野望を抱く者として。この世界に恩寵をもたらそうじゃないか……! 長年の研究成果で開発に成功したこのカードの力で。我は魔人を統べる王として君臨する。臆するが良い。この姿を見て生きて帰れると思うなよ結城一馬ぁああっ!!」


 マクスウェルは自身が研究開発した魔道具技術を使い、異形の姿となった後にファンタジーで見るような大悪魔の姿をした魔人となった。


――すごい威圧感だ……。 


『……大魔王マクスウェル……ここに降臨だ……。勇者よ、貴様を血祭りに上げてやる……!』


 口調の変化と共に、その異形な姿はまさしく相手が名乗るのにふさわしかった。


「そんなの御免被りたいな。仕方が無い。ここは一旦仕切り直しでカードの発動宣言を」


 と言い切ろうとした瞬間。


『言っただろ。このターンから数えて3回。お前はLPを半分にしなければ動く事ができない』


「…………」


――そう……だった……。


 直前の出来事で頭から抜け落ちていた。


『さあ選べ勇者よ。己でLPを削るか。あるいは我の手でその身に癒えぬ傷を与えてやろう。さあ、どうする?』


――どうするも何も、どちらにせよコストが重すぎる……!


「……自身でLPを半分にする……」


 直後、耐えがたい激痛が体全体に走り。


「ああああああああああああああああああああああああああっ!?」


 その余りにもの痛さに叫びながら悶え苦しんだ。


「ダーリンっ!!」

「……はぁ、はぁ……だっ、大丈夫だ……あずさ……俺はまだ生きてる……っ!!」

「……うん」


 心配するあずさの前でふらつき倒れそうになりながらも、俺は残された気力でもって踏ん張った。

 俺のLPが20から10に半減する。


――ここで巻き返さなければ次でやられる……死ぬわけには行かないんだ……っ!!


『あぁ、良い声だ……。憎き勇者が痛みで叫ぶその姿は美しい……!!』

「黙れ……このストーカー野郎っ……!」

『そのような言葉さえも聞き心地がよいな』


――そんなに聞きたければ、望み通りに聞かせてやるよ……!


「俺のアクションフェイズ……俺は、このカードを発動する。サーチマジック『逆転の一手』の発動を宣言。俺はこのターンに受けたダメージの数値分、デッキからカードをドローする事ができる!」

『貴様がこのターンに受けたダメージは10。ドロー宣言で引ける数は同じ数字となる……』


「マジシャンズバトルでは手数の多いマジシャンの方が有利なんだよ」


 さっそく10枚のカードをドローする。


「そしてこのドローしたカードの中から1枚を手札に残したまま発動の宣言ができる」


 俺が選んだ逆転の勝利に繋がる1枚のカードは。


「スピード・スペルマジック4『集いし勇気の生命(ブレイブ・ライフストリーム)』の発動を宣言し。効果の発動処理として。ライフコスト5を支払って発動を宣言……っ!」


 チクリとした痛みを感じるが、先ほど受けたダメージよりはマシだ。


「この効果により、このターンに俺が受けたダメージの分だけLPを回復する。さらに追加効果により、このターンに受けたダメージ分のLPを追加で得ることができる」

『つまり、貴様のLPはコストで支払ったLPを除くと30になる。たかが上限突破の回復効果で何ができるのだ?』

「この効果が通ったこの瞬間。俺は手札のこのカードで勝負を決める!!」

『なに?』

「俺はサーチマジック『覚醒する勇気の力』の発動を宣言する!! マクスウェル、お前に引導を渡すぞ!!」


――頼む。これが通れば手札の『勇者』のカードが全て揃うんだ……!


 運命の分かれ道。目の前で思考する仕草をとる大魔王マクスウェルにチェイン宣言の確認を取る。


『ふむ、どのみち我の勝利が見えている。いいだろう。ここは勇者の悪あがきとやらで我をこのターンで倒してみるがいい』


――その甘えが命取りになった事をあの世で後悔するんだな……っ!!


「このカードの効果により、俺はサイドデッキから『勇者』と名のついたカードを指名して手札に加える。俺が手札に加えるは『勇者の盾(ブレイブシールド』だ!」


 そして更なるカードの発動宣言を行う。


「そしてこの瞬間。俺の手には剣のカードを除き全ての勇者のカードが揃った事で『覚醒する勇気の力』のボーナス効果の発動を宣言する!!」

『…………』

「この瞬間。俺はこのカードの処理により。全てのデッキには存在しない。新たな勇者のカードを手札に加わえる事ができる!!」

『なんだその効果は!? 我が開発したシステムとは別の挙動をしているではないかっ!?』

「カードだからな。そう、このカードは。お前が殺したイリアスが残してくれた封印されし勇者のカード。全てはこの瞬間のために用意されていた」

『どういうことだ?!』


 マクスウェルは理解に苦しんでいる。


「お前が悪の道に堕ちた事を悟ったイリアスは。マクスウェルを打ち倒せる宇宙最強のカードを創造したんだ。マクスウェル、お前はやり過ぎたんだよ」


 その言葉が何を意味するのか、マクスウェルに理解させる時が来た。


「この効果により、俺は天より舞い降りる『勇者の剣』を手札に加える」


 この瞬間に俺は口上を詠唱する。


「天より舞い降りし聖なる邪を払い墜とす宇宙より授かりし最強の剣。こい、勇者の剣!! 天星破滅の聖剣。ネビュラスカリバー・ガンダル、降臨!!」


――ユウマ。お前の力を借りるぞ!!


 最後の勇者のカードは俺自身の中で宿るユウマが持っていた。

 俺は天高く腕を伸ばし、差し伸べられた光と共に舞い降りてくる1枚のカードを指先で受け取る。


「感じる……このカードからとてつもない聖なる力を感じる……!」


 そしてカードが俺に語りかけてくる。


――さぁ、これで悪しき魔王を打ち倒せ!


 ユウマの思いに応えようと心に思い、張り詰めた表情を向けてくる大魔王マクスウェルにこのカードを見せつけてやった。


『それは、お前が持っているその剣は……まさか……!?』


 その言葉には何も返さず、大魔王マクスウェルが喋ろうとする言葉に耳を傾ける。


『……お前はまさか、数多のレプリカとなる天星破滅の聖剣のカードを世に送り出してきたが……お前は本物の勇者。この世界を護る者なのか?』


 その問いかけに対して。


「このカードはもうひとりのの自分。異世界の勇者ユウマが俺に託してくれた」

『ユ、ユウマ……! 我の元いた世界の勇者がどうしてお前に力を託した!?』

「それは俺達の間で約束を交わしたからだ。それに、天星破滅の聖剣をあやつる本物の勇者? この世界を護る者だって? んなもん、俺は只のカードゲーム好きのガチ勢なだけでいいだろ?」

『何を言いたいかは理解できないが……いま我なりに判ることは……』

「ない」


――お前が動いて出来る事なんて何も無いんだ。


 そう、発動と同時に俺の勝利が確定しているからだ。


「いくぞ、マクスウェル! 俺は手札に加えた天星破滅の剣の効果の発動を宣言する!」


――真・天星破滅の聖剣・ガンダル


【全ての『勇者』のカードが揃った時に発動宣言ができる】

【このカードの発動宣言に対して相手は全ての宣言ができない】

【このカード発動宣言後。この戦いは勇者の勝利となる】


『……我は……今まで我が積み重ねてきた努力が全て……お前の手の指先にあるカードの力で水の泡になるなどと……』

「これがお前の野望を打ち砕く宇宙最強のカード。天星破滅の聖剣(ネビュラスカリバー)・ガンダル。天を貫きその一振りで星を破滅に導く伝説の勇者が持つ聖剣の効果だ!」

「やっ、止めろ!? やめるんだあぁああああああああああっ!!」

「もう、命乞いフェイズは終わったか?」


 相手が逃げ出すスキを与えずにチェックメイトを告げる。


「俺の手の中には奇跡も魔法もあるんだよ!! 天星破滅の聖剣・ガンダルの効果を宣言する! このカードの発動に対し相手は全ての宣言ができない!」

『ひぃっ!?』

「天翔る超新星の煌めきと共に両断する。必殺、ネビュラスブレイド!」


 天より降り立つ流星群が織りなす剣の一閃が大魔王マクスウェルに降りかかる。


『うぎゃぁあああああああああああああっ!?』


 この瞬間、大魔王マクスウェルのLPは自動的に0となり。


『し……死にたく……ない……』


 マクスウェルは砂の像と成り果て風に流されていく。

 そして彼の立つ姿が消え去った後に、俺はこの場にはもういなくなった対戦相手に一言を送ろうと思い。


「お前の敗因は、俺の事を甘く見ていたこと」


――そして何よりも。


「お前はあずさに夢中になりすぎて。後ろにある自分の歩んできた人生を見返そうとはしなかった。だからお前が望んだハッピーエンドは訪れなかったんだ」


――最後に対戦相手となったマクスウェルに対して気持ちを込めて伝える。


「良い試合だったよ。またどこかでお前が生まれ変わって、こうしてマジシャンズバトルをしてくれるなら。その時は……全力で楽しもうぜ……ありがとう」


 その言葉を言い終えて、胸の内に溜まっていたフラストレーションが、全身を伝い

発散していくのを感じて。


「……勝った……」


 戦いの終わりの余韻に浸っている。


「だぁあありぃいいんっ!!」


 あずさが駆けつけてくると共に飛び込んで抱きしめてくれた。


「やったね……やっと、私達の間にあった呪縛が解かれた……うれしい……ダーリンがうちの勇者様であった事……本当によかった……っ!」


 彼女の身体の感触を確かに感じながら、俺は今までの事を思い起こしていき。


「あのさ。今から話す事は全て本当にあった出来事なんだ。聞いてほしい」

「うん」

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