曜日が擬人化したヨウです。

空松蓮司

第一話 ウィーク・エンジェルズ

「ようこそ! クリエイション総合学院へ!」


 そう言って俺を学院の玄関で出迎えたのは学院の職員――ではない。高校の同級生の土門だ。


「去年一緒に入れば良かったのによ。ここは学費すら払えば99%受かるってのに……ヒラってホント馬鹿だよな」


 ヒラ、というのは俺のこと。平良比ひらび修松しゅうまつ。ゆえにヒラと呼ばれている。


「仕方ないだろ、学費が高いんだから。金貯めるのに一年必要だったんだよ」

「嘘つけ。学費のせいじゃないだろ。お前言ってたじゃん。『漫画は人に教わって書くもんじゃない』ってよ。スカして一人で頑張った挙句、ダメだったからここに来たんだろ」


 相変わらず、ひょうきんな面して図星をつきやがる野郎だよ。


「うっせ。いいから施設を案内してくれよ、先輩」

「あいあい」


 クリエイション総合学院。専門学校だが、珍しい四年制の専門学校だ。

 まだできて五年の新しい学校で、主に創作関連の学部がある。

 俺はこのクリエイション総合学院のコミック学科に入学した。目的はもちろん、漫画の技術を上げるためだ。


「そんじゃ、まずはウチの名物を紹介しよう!」

「名物?」

「そう。通称“七曜のウィーク天使たちエンジェルズ”だ」


 嫌な予感を節々に感じつつも、アタッシュケースをコロコロと転がしながら俺は土門の後ろをついていく。

 しかし綺麗な学校だ。壁も天井も真っ白。

 配信ルームとか、ゲームルーム、鑑賞ルーム、ダンスルームとか、普通の学校にはないような特別教室がいっぱいある。

 パンフレットと土門の話からある程度の設備はあらかじめ知っていたが、改めて見ると凄いな。ワクワクする。高い学費を払うだけの価値はありそうだ。


「まずはからだな」

「月曜日って、なんのことだ?」

「あちらをご覧ください」


 土門が手差ししたのはシナリオ学科の教室だ。

 透明ガラスの向こうにいる、こりゃまた可愛らしい銀髪ロングの麗人に視線を送り、土門は意気揚々と口を開く。


芥屋あくたや月歌げっか。シナリオ学科二年! あの不機嫌オーラ、まさしく月曜日だ!」

「さっきからお前がなにを言ってるかまったくわからないんだが」

「“七曜のウィーク天使たちエンジェルズ”ってのは、ウチの二年生でまるで曜日を擬人化したような美少女たちを示す言葉だ。芥屋月歌は月曜担当。月曜日ってさ、週の初まりでみんな不機嫌だろ?」

「だから不機嫌そうなあの子が月曜日担当ってか。無理やりだろ」

「それだけじゃない。名前も要素の一つだ。げっか、っていうのは月に歌うと書く。ほれ、名前に月が入ってるだろ?」

「……なるほど」


 って、なにを納得してるんだ俺は。


「極めつけはあの友達の少なさだ! 芥屋月歌には友達がいない! まさに月曜日だ!」

「……言いたいことはわかるけど失礼だろ」


 月曜は平日の始まりであり、悪夢の日。つまり嫌われ者だ。休日の後ということで、その不人気振りは七曜で一番だろう。


「言っとくが、俺は月曜日は好きだぞ」

「なんで?」

「少年ジャ○プの発売日だからだ」

「相変わらず漫画っ子だな。次行くぞ次! 次は火曜日だ!」

「……施設を紹介してほしいんだがなぁ」


 最後にチラッと芥屋を見ると、目が合ってしまった。しかもめっちゃ睨んでた。地獄耳のようだ……おっかない。早く離れよう。


「次は火曜の天使! 紅蓮姫の飛花ひか火恋かれんちゃんでぇす!」


 教室に掛かっているプレートには『動画クリエイター学科』と書いてある。


「火曜日と言えば、なんかどっちつかずの感じがするだろ。頑張ろうかなぁ、でもまだやる気出ないなぁ。みたいな。そんな火曜日らしく、彼女もどっちつかずのツンデレちゃんなんだ」

「こじつけがひどいな」

「名前に火が入ってるし、赤い髪だし、可愛い。もう文句なしの火曜の天使だ。しかも極めつけに……なんと彼女、サスペンスが好きなんだ」

「もう一度言う。こじつけがひでぇ。つーかそのネタわかるの俺たちの世代じゃそんないないぞ」


 火サスなんてもう二十年近く前に終わってんだぞ。放映終了日と俺たちの生年月日でいい勝負だ。


「ちなみに飛花火恋とはこういう字で書く!」


 土門は『飛花火恋』と書かれたスマホ画面を見せてくる。


「飛花火恋……こいでカレンか。カッコいい名前だな」


 赤髪の短髪で、頭の上にチョコンとベレー帽が乗っかっている。自信に溢れた気の強そうな顔をしている。可愛いけど、触れると火傷やけどしそうだ。


「それより動画クリエイター学科ってなんだ?」

「配信者向けの学科だよ。動画編集とか、配信の時に気をつけること、配信でどういう手順を踏めば収入が得られるか、それぞれの配信サイトの利点とかいろいろ教えるんだと。特に動画編集の授業が良いらしいぜ。テレビ局に採用されるレベルの編集技術が身に着くんだと」

「へぇ。面白そうだな」

「つーかそんなんどうでもいいだろ。次だ! ついてこい!」


 俺にとっては“七曜のウィーク天使たちエンジェルズ”とやらの方がどうでもいいんだけど。まぁ気が済むまでやらせるか。


「次は週の真ん中! 落ち着きがでてくる水曜日の如く、クールで大人しい氷姫こおりひめ! 彩海あやみ水希みずき!」


 水色の髪……黒いフードを深く被っていて髪型の全容は見えない。机に頬杖をつき、つまらなそうにその伏し目がちな瞳で授業を受けている。首に掛けているでっかいヘッドフォンが特徴的だ。ちょっと中二病な空気を感じるな。


「ゲームクリエイター学科……ゲーム制作を教える学科か」

「そう。先輩の中じゃ、在学中にゲーム作って売って億万長者になった人もいるらしいぞ」

「へぇ。ここも面白そう。ちょっと授業を見学――」

「行くぞ! 次は木曜日の天使ちゃんだ!」

「……はいはい。紹介しきるまで学校の説明はしてくれないのな」


 次に土門が足を運んだのはイラスト学科だった。

 何やら教室で等身大の美少女フィギュアのデッサンをしている。


(俺の入るコミック学科と違って、シナリオの授業や漫画的技法の授業を省き、一枚絵の研鑽に特化した学科ってわけか)

「あの子が木曜の天使、佐藤さとう木晴こはるちゃんだ」


 土門は目線で俺の視線を誘導する。

 さっきまでの三人は独特のオーラのようなものがあり、すぐにわかった。が、今回に限って俺は土門が誰を見ているかわからなかった。土門の目線の先には女子が三人ほどいる。


 まぁ、一人、多分この子のことだろうな~って可愛い子はいる。けど、他の二人もそれなりに可愛いし、確証はもてない。あの奥にいる茶髪の子だろうか。髪はちょっとクセがある感じ。せっかく目が大きいのに、長い前髪が左目を隠してしまっている。うん、見れば見るほど整っている顔立ちだが、ぱっと見ではそこまでの迫力は感じなかった。


「あの茶髪の子か?」

「そう。イラスト学科所属の木晴ちゃん。特になにもない木曜の天使らしく、地味。ひたすら地味。でも可愛い。目がクリンとしてていいんだよなぁ~。ちょっとロリっぽいけど。性格もめっちゃくちゃいい! けど地味」

「お前さっきからちょくちょく失礼だぞ。そういうの良くないって」

「へーい」


 この感じ久しぶりだな。コイツといると俺が母親みたいなポジションになる。


「最後はこっちだ!」

「はいはい」


 “七曜のウィーク天使たちエンジェルズ”とやらはともかく、どの学科も面白そうでいいな。学校としてはどうかと思うが、これぐらい普通の学校とかけ離れていると一周回っていいね。良かった……俺の好きな雰囲気だ。


「着いた着いた。ここが最後だ。金曜日のエンジェル! “七曜のウィーク天使たちエンジェルズ”の中で俺が一番推してる……」


 その相手は、土門が言わずともわかった。


「声優学科の咲良さくら亜金あかねちゃんでーす!」


 金髪のボブカット。服の上からでもわかるスタイルの良さ。話さなくても明るい性格だとわかる雰囲気。

 金曜日と言えば、『次の日から休みだから頑張るぞ~!』ってちょっと明るい印象がある。その印象に、彼女はピッタリだった。


「まさに黄金のように眩しい……! いつもクラスの中心で、明るく元気な彼女には多くの男たちが癒されてきた。お前、彼女にだけは手を出すんじゃねぇぞ」

「出さないよ。俺はここに恋愛しに来たわけじゃない。漫画の勉強をしに来たんだ」


 少し強めの口調で言うと、土門は肩を竦めた。


「息抜きは大事だぜ? そんな切羽詰まった顔した奴の作品が、読者の心に響くかよ」

「む」

「おっと、やべぇ。そろそろ二限が始まる! 悪いなヒラ! 俺はここで! あとは先生に任せるわ~!」

「え?」

「ああそうそう! まだ土曜と日曜はいないんだ! 一応、二年に『日』が名前に入る奴はいるんだが、あまりに下品でな……今年の新入生に期待だな! そんじゃ!」


 土門は手を振って廊下を走っていった。


「……施設の説明は……? 結局、“七曜のウィーク天使たちエンジェルズ”のことしかわかってないぞ。しかも全員違う学科で違う学年だから関わることないし。ったく」


 そう、この時の俺はアイツらと関わることなんてないと、そう思っていたんだ。

 まさか、全員の泣き面を拝むぐらいに深く関わることになるとは、毛頭思ってなかった。




 ――――――――――

【あとがき】

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『続きが気になる!』

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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