第8話 エルフの学食にはラーメンがある
「ではザックリ案内しましょう。ここは売店。魔法の教本とか、薬の材料とか売ってます。雑貨も豊富なので、日常の買い物をここで済ませる生徒も多いです。靴下やタイツは穴が空きにくいと評判ですよ。お土産にどうですか?」
「いいわね! お母様にも買っていこうっと」
「それから最近、ミスリル装備を扱うようになったんですよ。私のオススメはミスリルの胸当てです。大型モンスターに踏まれてもヘコまないし、軽いし、弱い魔法なら反射してくれます。剣はオススメしません。魔力を弾くので、魔法で強化できないんです。いずれ改良する予定だそうですが」
「待って! ここに並んでるのみんなミスリル製!? 本当なら、一つ一つが国宝級じゃないの!」
「あ。天然ミスリルじゃなくて人工ミスリルなので。そんな貴重じゃないですよ」
「じ、人工ミスリルってなに……? そんなの人工的に作れるものなの? 多分、私の国では無理だけど……」
「鉄と銀を混ぜた合金を作ってですね。その分子構造に術式を刻むんですよ。これで天然ミスリルとほぼ同じになります。ちなみに、ここで売ってる装備は、学校の工作部が作ったものです」
「生徒が作ったの!? うぅ……やっぱりエルフって怖い種族かも……それはそれとして、この胸当て、買うわ」
リリアンヌはこの村の通貨を持っていない。が、外のお金が珍しいからと、売店のオバチャンはそれで決済してくれた。
なおオバチャンといってもエルフなので見た目は若い。口調がそれっぽいので生徒たちから「オバチャーン」と慕われている。実年齢は誰も知らない。まこといい加減な種族である。
「ここは実習室です。全面がミスリルでコーティングされてるので、魔法をぶっ放しても外に被害が出ないという素晴らしい場所です。では手本をお見せしましょう。あちょ!」
「魔力を練る時間をかけずに火の玉を出した! 壁に命中! 爆発! 風があっつい! でも壁は無傷……焦げ目すらない……凄い!」
「リリアンヌさんはリアクションが激しいので一緒にいて楽しいです。では今のをやってみてください」
「え!? 無理!」
「全く同じ威力は無理でしょうけど、せめて火を出すくらいは覚えてから帰ってください。それまではご飯抜きです」
「突然のスパルタ!」
飯抜きが効いたのか、リリアンヌは指先から小さな火を出すのに成功した。
ご褒美に学食でラーメンを奢ってあげる。
「美味しい! なにこれ、スープパスタみたいなものかと思ったら全然違う! 王都で出したら大ヒット間違いなしよ! この箸ってのは使いにくいけど」
「箸で食べるのが一番美味しいので、頑張って慣れてください」
「頑張る! ちゅるるるる……」
満腹になったところで、お次は図書室だ。
かつて村の図書館でホコリを被っていた本をここに移動させたのだ。ロザリアやほかのエルフが書いた新しい本も続々追加されている。
「これは攻撃魔法の入門に最適な一冊なのでオススメです。こっちは恋愛小説ですが挿絵がえっちなのでオススメです」
「え、えっちだからオススメってどういうことよ……わっ、本当にえっち……」
リリアンヌは魔法の入門書には目もくれず、えっちな本を熱心に読み始めた。
えっちな内容だと村のエルフなら誰でも知っているので、人前で広げる者は滅多にいない。
図書室の椅子に座って目を血走らせる姿は、ある意味、猛者である。
「ロザリアが人間を連れてきたって聞いたけど、あれがそうか。あの本をここで読むなんて、やるじゃねぇか」
「へへ、人間に負けちゃいられねぇ。俺たちも読もうぜ!」
なぜかえっちな本の読書会が始まった。
ロザリアも混ざらないといけない空気になったので、久しぶりに一巻から読み直す。
相変わらずえっちなラブコメだ。
みんなと一緒に読むのは気恥ずかしい。なぜこんなことになったのか。それはロザリアがリリアンヌに勧めたからである。
「あれ? 気がついたら周りにエルフが沢山……みんなえっちな本を読んでる……エルフってえっちな種族なのね……!」
リリアンヌが小声で耳打ちしてきた。
「頭に血を上らせて熱中していたリリアンヌさんに言われたくありませんね」
「血を上らせたりしてないしっ!」
リリアンヌが現実を否定するが、その瞬間、鼻血が流れてきたので、ロザリアはハンカチで拭いてやった。
「ありがと……でも、この鼻血はえっちなこと考えたせいじゃないから……持病的なアレだから……!」
「大変ですね。王都に帰ったらお医者さんに見てもらってください」
鼻血が止まると、リリアンヌはまた続きを読み始めた。
よほど先の展開が気になるらしい。
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