第7話
―シュシュ視点―
来週に行われる剣舞闘技祭に出場するべく、はるばる隣国からやってきた私ことシュネー・シュヴェールト。
魔の森と呼ばれている場所で祭まで時間を潰そうと思っていたのだが、突然やってきた〝圧倒的な強者の気配〟によってやむなく中断させられる。
――もしかしたら私より強いかもしれない。
そんなことを胸に秘めながら、状態を確認すべくそれに近づいた。だがその正体はなんと、まだ幼い少女だったのだ。
赤髪で奇麗な青の瞳が特徴的だが、服の隙間から見えた鍛え上げられた筋肉で確信が持てた。
「あんた〝シュネー・シュヴェールト〟か!」
どうやら相手は私のことを知っているらしい。たしかに元の国では剣豪だとか讃えられていたが、この国では私はそこまで伝わっていなかったはず。
なぜこの少女が知っているのか疑問に思ったが、とりあえずこの森から出て行ってもらうことを優先させ、即刻立ち去るように言い放った。
だが彼女も引かず、睨んでくる。
この時の私は、あわよくば手合わせをしたいなどと考えていた。しかし次の瞬間、
『グォオオオオオオオーーッッ!!!!』
森に魔物の咆哮が轟く。
並大抵の魔物ではないと察知したが、この一瞬で少女は駆け出す。遅れをとって背中を追いかけると、そこにいたのはレッドドラゴンだった。
ドラゴン種の中では最弱だが、硬い鱗や炎のブレスが厄介で討伐がしづらい。強いオーラを発するこの少女でさて、さすがに怖気付くだろうと思っていたのだが、またもや私は驚かされる。
「肩慣らしには、ちょうどいいな……」
「っ!? な、なんだこの威圧感は……!?」
体が動かなくなった。せいぜい今さっき溢れてていた気配が全力かと思ったのだが、それは氷山の一角に過ぎなかったらしい。
炎のブレスをいともたやすく防御し、さらにそれを利用してドラゴンの体の自由を奪う。しまいには目で追うのがやっとなほどのスピードで剣を抜き、三枚におろしてみせたのだ。
「(動きを追うのもやっとだった……。私にはただ剣を抜いて斬ったよに見えたのに三枚におろすだと!? 剣術は私を超えているのではないか!!?)」
世界にはこんなにも恐ろしく強い化け物がまだいたとは……。私はどうやら井の中の蛙だったみたいだ。
未知の剣技に魅せられた私は、久しく忘れていた高揚感がこみ上げてきて、抑えられずにこの少女にこんなお願いをしてしまった。
「君の剣技に一目惚れをしてしまった! 頼むっ、私を弟子にしてくれっ!!!」
このウシュティア・フラムという名前の少女に一度は断られて逃げられてしまったのだが、諦めきれずに自慢の嗅覚で跡を辿り、家までついていく。
なんやかんやで家に置いてくれる流れになり、思わず抱きついてしまった。
「(この子……いいや、このお方はきっと運命の人なのだろう! 私の直感がそう告げているのだから……っ!!)」
我流で剣を極めて早数年、弟子を取ろうとこの街にやってきたのだが、まさかここまでのお方がこの世界にいたとはな。
幼い頃、私より強い剣士は多々いたが、誰も彼もしっくりくる剣術を使う人はおらず、誰かの元につくことはなかった。だがこのお方は違う。
一目見ただけでもわかる。私が追い求めるものを全て持っており、さらにその先まで到達していると見た。
「(師匠……。追いつくことはできないかもしれないが、それでも良い気がしてきた。このお方にならば、この先の人生全てを託していいかもと思えているからな……♡)」
――こうして、少々重い感情を抱いたシュシュがウシュティアの弟子になったのであった……。
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