第2話
もう頭痛はほぼなくなり、執事たちも解散していった。
今からやるべきことは沢山ある。まずは魔剣を持つための魔術トレと筋トレだ。
魔術を習得すれば固く施錠されている封印などを解くことができるし、戦いに応用も効く。そして筋トレは、魔剣を持つためや動きを軽くするために必要なことだ。
「この世界の歴史とか魔術の知識は全部知ってっから、この本どもはもういらねぇな!」
あとで保管庫にでも持って行って詰め込んどこう。悪いな、ウシュティア。
することが決まった俺は部屋を飛び出し、廊下を走る。道中メイドや執事と出会う度に挨拶をしたのだが……。
「よぉお前たち! お仕事お疲れ様!」
「う、ウシュティア様!?」
「ほ、ほ、褒められた……!!?」
「いつもの罵詈雑言がない……」
「噂は本当だったのですね!」
……と、驚かれた。流石は悪役令嬢ウシュティア、出会うたびに罵詈雑言や毒を吐くのが日常茶飯事だったのは本当らしいな。
確か『この程度の仕事すらまともにできないの?』とか『これ以上給料減らされたいのかしら』や『愚図ね。恥は無いの?』などなどだったかな。
まぁ俺の性格はコイツとは真反対なので、最初は驚かれるだろう。
出会うたびに挨拶しながら屋敷を走り回ること数分、ようやく目的の人物を見つけた。
「ジジイ〜〜!」
「オグゥッ!!! も、もう動いても大丈夫なのですかお嬢様!!?」
さっき俺を心配していた老執事の一人――アルトだ。コイツはラスボス戦で老剣士として主人公らを苦しめる強敵ゆえに、良い筋トレ相手になるとみた。
前世では理不尽な攻撃などで随分俺を可愛がってくれたことから、愛称は「ジジイ」だ。
「ジジイ暇か?」
「えぇ、まぁ……。お嬢様のためならばいくらでも時間を空けますぞ」
「よし! 剣術を鍛えたい! だからまず筋トレするから手伝ってくれ!」
「な、なんですとぉおおおーーッ!?!?」
耳がキーンとなるほどの大声で叫ふジジイ。
まぁ今の今まで引きこもってたお嬢様がそんなこと言い出したんだから無理もないか。
「爺やは大変嬉しゅうございます。ですが、無理はしないで欲しいのです。お嬢様が健康でいることこそ、爺やの幸せです」
「別に無理してないぞ? 俺がしたいから頼んでるんだ。それにこんなことジジイにしか頼めねぇしさ」
「…………。爺やは、爺やは感激しております……ッ! 外へ出て、人に対しての慈しみを知り、共に信頼し合うということができているお嬢様に!!!」
「お、おう……?」
突然目頭を押さえたかと思えば、次には滝のように涙を流し始めるではないか。
そこまで感動するかと思い、若干引いた。
「承知いたしましたぞ。お嬢様をこの国一の……いいや、世界一の剣豪にしてみせますそッ!!!」
「おー。サンキューな!」
こうして、ジジイ直々に剣を鍛えてくれることになった。
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「ぜぇ……ぜぇ……!」
「お嬢様ー! ファイトですぞー!!」
案の定と言うべきか、この体は全く運動に適していない。軽く屋敷周りを走っただけでも息が上がるし、今にも吐きそうだ。
どんだけ引きこもりしてんだよこのお嬢様……。
「フム……。ではこの辺りでジョギングはやめにしましょうか」
「うぅ……みずぅ……」
「お持ちいたしましたぞ」
ぐびぐびと水を飲み干した後、少し休憩したら木剣を渡された。力量を測るために、適当に打ち込んで来いとのこと。
「ジジイ、怪我しても知んないぞ〜?」
「これでも中々名を馳せた騎士でしたのでご安心を。全力で来てください」
剣を構えるジジイの佇まいから、百戦錬磨の猛者であることが伝わってくる。流石はラストバトル前の強敵だな。
俺も剣を構えると、ジジイの余裕そうな笑みがフェイドアウトして行き、汗がツーっと頰を流れていた。
「〝縮地〟」
「なッ!!?」
俺の姿は一瞬で消え、ジジイの背後を取っていた。
前世では弟らと妹らを守るために色々と極めていたからなぁ。肉体はまだ知らずとも、魂が〝型〟を覚えている。
ジジイの背中に剣を振り下ろす。
――ビキッ!!!
「ヴッ!!!」
剣がジジイに当たると思った直前、体が固まり激痛が走り出した。
「痛ッッ……たぁあァァ〜〜ッ!!!!」
「だ、大丈夫ですかお嬢様!!?」
「か、体を無理に動かしすぎた……!!!」
前世の全力を出すにはまだまだ肉体が追いついていないようだ。
地面にぶっ倒れて微動だにできなくなった俺は、ジジイにおんぶされて再びベッドで寝かされるのであった。
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