第8話-1

追憶の焦点

第3章 皇女の守護者


2.皇女の母


 モナクライナ皇女のミーシャは、偶然出会った新室にむろから実母のことを聞いた。彼女の母親、澄垣優美すみがきゆうみは新室と交際していた。


「あなたと母が…こうして、あなたに会えたことは奇跡だわ」

「そうだな、昔話はまだ続きがあるが、聞きたいか?」

「ぜひ!お願いします」

 新室は過去の記憶を辿り、ミーシャに全てを話そうとした。


 今から約二十年前、若き新室とホステス嬢の優美は、ひょんなことから恋に落ちて、男女の深い仲となっていた。


 二人の出会いの場は、優美の職場や商業施設、ホテルだったが、新室は自宅に彼女を招待した。

 新室は下町の木造アパートに住んでおり、二十年後も引っ越しをしていなかった。

「…幻滅した?仕事の関係で、最近はただ寝る場所になっている」

「私の住居いえも似たようなものだわ、下町育ちだし…」

「まあ上がってくれ…!」

 その時、新室はアパート一階のことが気になっていた。一階スペースは大家の許可を得て、改築されており、喫茶店の看板やテーブル・椅子など備品を運ぶ作業が行われており…


「どうも、こんにちは…ここの住人の方ですか?」

「ああ、二階に住んでいる者だ、おたくは?」

「本日引っ越してきた○○未希みきです、喫茶店を始めるので良かったら来てて下さい、美味しいコーヒーとサンドイッチをご馳走するわ」

「へえ…よろしく…!」

 新室は喫茶店の店主マスター、未希の旦那と目が合うが、強面の彼と遭遇したことで驚きのあまり絶句していた。

 当時、未希たちは新婚で、新室と知り合うこととなった。


「…そちらは奥さん?」

「え?ああ…違うよ、だ」

 新室は優美との関係を夫婦と思われて、珍しく照れる素振りを見せた。

「ふふ」

 優美はそんな新室を見て、思わず笑った。


「今夜は僕がをするよ」

 新室は自分の気に入った洋酒を優美に勧めた。

「さすが、美味しいお酒を知っているわね」

 新室たちは酒の好みが合い、お互いくっついて落ち着くのだが…


「…あと数日でモナクライナ皇帝が帰国する、に協力感謝するよ」

「あなたもね…警護が終わると休めるの?」

「いや、立て込んでいてね、今度開催されるサミットの警護を任された」

「お忙しいのね…大事な話があるんだけど…」

「え?」

 優美は新室に告げることがあるようで、次第に硬い表情を浮かべた。


「実は…私、店を辞めようと思うの」

「この前、その話に触れたけど、本気か?」

「ええ、店の関係者にもちゃんと話してあるわ」

「何か考えがあっての決断か?」

「………」

 新室が問い詰めると、優美は押し黙ってしまうが、彼女は勇気を出して口を開いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る