第2話 零式機甲

 34人の少女は教室に押し込まれる。

 普通の学校の教室のようだが、窓は無く、扉も前に一つ。それも頑丈そうな鉄扉だ。黒板は液晶画面になっている。それ以外は監視カメラにがいくつか。

 椅子に座ると、椅子に装備された腰バンドが座った者の腰に巻き付き、動けなくする。

 これには全員が驚く。

 「なんだよこれは?」

 口々に文句が出た。

 「黙れ」と教官が告げた瞬間、全員に電流が流れる。

 「お前らは狂犬ばかりだ。こうしておかねば、我々の命だって危ない」

 拳銃を手にしながら教官は冷静に言う。

 事実、そうだろう。34対2。相手が拳銃を持っていても、勝てると考える連中は多い。それは環も同じだった。よく考えれば、離島、爆発する首輪などをしているわけで、無駄でしかないわけだが。

 誰もがそれを理解して、静かに授業が始まった。

 教官は10番教官。なかなかの色白美人だが、眼力のある目付きで損をしていると環は思った。

 「私が君たちの担当教官だ。君らの管理を全て、任されている。軍隊で言うところの小隊長だと思ってくれればいい。それではこれから、君たちがここで何を学ぶかを教える」

 黒板に画像が浮かぶ。それはロボットのような鎧のような物だった。体のラインが出るような感じの服に全体を鎧で覆っているように見える感じだ。特に顔は口元だけ見えるヘルメットを被っている感じだ。

 「これは産官共同で開発された次世代型歩兵システムです」

 環も含めた生徒達は誰もその言葉を理解が出来なかった。

 「零式機甲と呼ぶ。まずはインナースーツと呼ばれる全身を覆う服だ」

 ダイバーが着るような全身を覆う身体にピッタリとしたスーツが映し出される。

 「これは身体を守る基本的な格好だ。スーツによって、-50℃から100℃の環境でも何の問題も無く、活動が可能である。熱さは感じるが3000℃の熱にも耐える。小口径のライフル弾の貫通をさせない防弾能力を持ち、電気を通さない。身体能力を支援して、向上させる。これだけでも歩兵の個人能力を大幅に向上させることが出来る」

 聞いているだけでも凄い服だと誰もが思った。

 「だが、これはメインではない。こちらがこのシステムのメインである」

 ヘルメットに鎧のような胸当てや肩パッド、手甲、脛当てやブーツである。それらは金属製であろう質感があった。それと剣道などの防具に比べて、スタイリッシュ且つ、お腹とか見えてるところが多い。

 「これらは防御力もインナースーツを遥かに上回る。最大で30ミリ機関砲の砲弾を防ぐ。だが、それだけじゃない。ヘルメットには人工知能が搭載され、通信、索敵、火器管制などを統合するシステムとなっている。それらを脳波から操作が可能となっている。身体に装着する防具にも武器や様々な機能が搭載されており、それらは人間の能力を遥かに上回る機能を付与してくれる。更に筋力支援も行われ、3倍に近い力が発揮される」

 動画が流れ出した。そこでは空を飛び、海を潜り、車よりも速く走ったりしてた。

 「スーパーマンかよ」

 誰かが笑いながら言う。

「その通りだ。一兵士を戦車並にするのが目的で開発された」

教官の言葉に教室が静まり返る。

「ここまで説明すれば、大抵の者はわかるだろう。君達はこれを着て、戦場に出るのだ」

 戦場に出る。まぁ、簡単に銃殺されたのだから、当たり前の事じゃないかと環はおもった。だが、生徒の多くは絶望的な悲鳴をあげた。混乱が起きた。

 これまで散々、悪ぶってきただろう連中も含めて、本当の戦場に放り込まれるなんて思ってもいないのだろう。

 だが、それはあまりにも情報に疎いと言える。環は新聞も読むし、ネット情報もしっかりと得ている。世界は第三次世界大戦前夜と呼ばれる程に情勢は悪化している。専守防衛を掲げる日本でも周辺諸国と紛争中であり、武力衝突は日々、起きている。

 結果として、自衛隊の志願者は激減している有り様だ。このままではまずいと思い、このような兵器の開発を急ピッチで行っているのだろう。だが、最終的にこの兵器を実践で運用せねば、意味がない。その為の人員として、私たちみたいな不良が集められているのだ。

 ならば、少年院や刑務所の囚人でも使えば簡単な気がするが、なぜ、このようなまどろっこしいやり方なのだろうかと環は思った。

 「黙れ」

 電撃が走ったのだろう。騒いでいる連中が悲鳴と共に黙った。椅子に固定され、電撃が走るなんて酷い苦痛もあったもんだと環は呆れたようにため息をつく。

 「この兵器はまだ試作段階と言ったところだ。あとは実践でデータを収集する他無い。問題点として、脳波によってコントロールするのだが、君達のように若い脳の方が反応や慣熟が良いそうだ。その為に君らは選ばれたと言える」

 環は理解した。自衛官では最も若くて18歳。それより若い脳を得るためであり、ここに集められた者は親からも見捨てられたような連中だ。殺したとしても誰も文句を言わないって事で実験には都合が良いのだ。

 環は挙手をした。それを見た教官は発言を許す。

 「我々は実験動物になると言うことですが、戦場に出る為の教育は受けられるのですか?」

 「良い質問だ。当然、何も教えないまま、投入した所で成果は得られない。君らには一人前の戦闘員となるべく、教育を施し、そして、この零式機甲の慣熟訓練も受けて貰う。全てが揃った上で試験として、実戦に投入する」

 「それはどれぐらいの期間ですか?」

 「一ヶ月だ。期間としては短いため、かなり詰め込ませて貰う」

 「因みに実戦に投じられた我々が生きて帰った場合、解放されるのですか?」

 環の言葉に一瞬、教官は黙る。

 「悪いが、そう簡単には解放されない。幾度も試験を受けて貰う。試験の間は更なる教育を施す。より練度の高い兵士となって貰い、この零式機甲の性能を可能性を示して貰わないと困るからな」

 「それでは…死ぬことがこの学校からの卒業って事でよろしいのですか?」

 その言葉に教室の中は静まり返った。

 教官は重い口を開く。

 「あぁそうだ。君らに生きて、普通の生活に戻る道は無い。だが、生きていれば、可能性が無いとも言わない。私が言えるのはそれだけだ」

 教官の言葉を聞き終えた環は静かにお辞儀をして、座った。

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