チョコ狩りの大村

佐々井 サイジ

第1話

 私の高校には大村という先生がいる。大村は通称“チョコ狩りの大村”。大村はバレンタインデーにチョコレートを隠し持っている生徒たちを一人漏らさず暴き出し、チョコレートを没収し、反省文を書かせることで有名だからだ。私が入学前にはすでにその名前は浸透していて、先輩から聞いたという友達に教えてもらった。


 実際に私は去年、鵜飼くんにチョコ―レートを渡そうとした。もちろんその頃にはチョコ狩りの大村のことは知っていた。なぜそんな暴挙をしたのかというと、チョコ狩りの大村から出し抜いて好きな人にチョコレートを渡すことができたら、その恋が成就することは間違いないという話を聞いたからだ。


 噂レベルと言われたらそれまでなんだけど、私は信じた。だって、そこまでの覚悟を持ってチョコレートを渡してくれたことが嬉しくて、渡された男子はたとえそれほど好きじゃなかったとしても、その子のことが気になってしまうのが普通じゃないって思うから。


 私は挑戦した。結論から言うとすぐにばれて反省文を書かされることになった。朝礼が始まる前に大村がやってきた。


「今から荷物検査するから、全員起立して両手を頭の後ろに組め。妙な動きしたら、わかってるな?」


 担任の吉川先生は教壇に立ってどこに向けているかわからない視線を飛ばしていた。生徒に味方することはないことだけわかった。


 あんなに鼓動が暴れたのは今までになかった。とはいえそのとき私はチョコレートを廊下のロッカーに移動させていたから、身体検査や机、鞄を調査されても出てこないのだ。正直、勝ったと思った。でも私の見積もりはあのとき作ったチョコレートよりも甘かった。


 まず、詰めの甘い同級生は机や鞄に隠していたチョコレートが次々とバレて没収されていった。私は大村の不気味な鼻息に鳥肌が立ちながらも、うろたえる様子を見せることなく耐えきった。


「よし、次はロッカー検査するから全員開けろ」


 頬が持ち上がるのを我慢していたはずが、これ以上にないくらいに垂れ下がった。もう逃げ場がなかった。大村はロッカーの真後ろに立ち、腕を組んで中身を凝視していた。私は大村が見えないように体を壁にしてチョコレートをニットの服の中に移そうとしたとき、大村に腕を掴まれた。


「その、手に持っているものは、なんだ?」


 大村の力はすさまじく、手首の骨が粉末になりそうだった。こうして高一の私はあえなくチョコレートを没収された。あのチョコレートの行方は今もわからない。

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