第3章:高校受験を終えて

高校受験の季節になると、私はすっかり例の日記の件は頭になく、勉強に明け暮れていました。ただ、運命というのか、宿命というのか、私はまた日記のことについて、考えざるを得ない状況に追い込まれるのでした。


ようやく高校が決まり、その旨を祖父母に報告するために母と祖父母宅を訪ねた時のことです。高校が決まって良かった、勉強を頑張りなさいというありふれた会話をした後に、普段は無口な祖父が私に声をかけてきました。


『ご先祖さんにも報告しろ。仏壇に線香をあげていけ。あ、それが終わったら和室に来い。』


私は特に何も疑問に思わず、言われた通りに仏壇へ向かいました。母と祖母はお祝いの夕飯を作るということで、弟を連れて台所で支度を始めています。昼間でも少し暗い仏間なので、夕方になると、電気をつけないとつまづいてしまいそうな雰囲気でしたが、私は祖父に呼ばれていたこともあって、足元に注意しながら仏壇に手を合わせて線香をあげました。蝋燭が溶けたニオイと、線香の独特の匂いが混じりあって、仏間は独特の雰囲気に包まれていました。すると突然、


『おーい』


祖父の声でした。『今行くよ』と僕は応答して久々の正座に痺れた足を引き摺りながら、祖父が待つ和室へ向かいました。『もしかしたら高校合格の小遣いでももらえるのかな』と淡い期待をしていた私は和室の襖を両手を添えて開けました。


『えっ』


声にならないような声でそう呟いた私でしたが、咄嗟に体が固まりました。なぜなら、そこには両手をまるで縛られたようにガッチリと合わせて、天井につきそうなほど高く伸ばし、体はあの押入れに向いているにもかかわらず、頭は天井を見つめている祖父の姿がありました。


しかも不気味なのは、和室の電気がついていませんでした。何が起きているのか分からなかった私は、多少の動揺と大きな恐怖に包まれ、急いで襖を閉めました。


10秒ほど『見てはいけないものを見てしまった』と身動きが取れないでいると『京二』と私の名前を呼ぶ祖父の声がしました。少しビクッとしながらも恐る恐る襖を開けると、そこにはいつも通り座布団に胡座をかいた祖父がいました。

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