チョコたちのちょこっと不思議な日常を。

色葉みと

真ん中さん(抹茶チョコ)は選ばれたい。

 とうとう1チョコになってしまった。

 俺以外の抹茶チョコやつらは全員旅立っていったのに、どうして俺だけ……。


「落ち込んでいるようだね」

「はっ、抹茶なんて所詮は抹茶なんだよ」


 右隣で心配そうに言ったのはミルクチョコ。

 左隣で俺のことを馬鹿にしたのはブラックチョコだ。

 相変わらずムカつくぜ。

 こいつらとは長い付き合いになる。そろそろ3日が経った頃ではないだろうか?

 3日前はにぎゅうぎゅうと入っていたこいつらとその仲間たちだが、今はもう半分以上居なくなっている。

 ミルクチョコのところが3チョコ

 ブラックチョコのところが4チョコ

 抹茶チョコのところは俺だけ。しかも1チョコになってから一晩は過ぎた。


「おい、こっちへ手が伸ばされているぞ!」


 ブラックチョコの声にふと視線を上げると手が近づいてきていた。

 これはとうとう俺が選ばれるときが来たのか?

 そんな期待は次の瞬間裏切られた。


『あった、ミルクチョコ! お母さん、2つで足りるよね?』

『うん、足りると思うよ——』


 ミルクチョコのところが残り1チョコになってしまった。

 まずい、このままだと俺よりあいつが先に旅に出てしまう……。

 俺は、俺はどうすれば良いんだ!?

 そんなことを考えていると、また別の手が伸びてきた。


『えーっと? レシピによると……、ブラックチョコが3つ要る? 結構使うなぁ』


 ブラックチョコのところも残り1チョコになってしまったではないか!?

 次は、次こそは絶対に……!

 ……はっ! 手が来た! こうなったらもうアピールするしかない!


ミルクチョコとブラックチョコあいつらよりも抹茶チョコを選べよ」


 精一杯格好つけて言ってみたが、ミルクチョコとブラックチョコから冷たい視線を浴びせられることになった。


「そんなんでお前が旅立てるわけがないぜ。それを抜きにしても今のはない」

「うん、流石に今のはないね。これでが君を取るわけがな——」


 ミルクチョコがそう言ったのは、こちらに近づいてきていた手が俺を掴んだときだった。

 2チョコは驚いた表情をしていた。

 これで俺は自信を持って旅立てる。

 あいつらより先に居た俺が最後になるなんて、絶対に嫌だからな。

 ぽかんとした表情になったあいつらがだんだんと離れていく。

 ……挨拶ぐらいしておけばよかったな。一応隣同士だったんだし。


「——抹茶! じゃあな!」

「抹茶チョコくん! じゃあねー!」


 あいつら……。


「おう! じゃあなー!」


 あいつらは、なんだかんだで1チョコだった俺を構ってくれた。


 ……ありがとな。嫌いじゃなかったぜ。

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