Act.10 亀裂と入門 2

 面会の為、アタシは『暗魔』のいる個室の病室に向かう。病室の引き戸を開け中に入ると『暗魔おじいちゃん』が病院のベットに横たわりスヤスヤ眠っている。

 でかなり身体が酷使されてるのもそうだが、今日は天気も良く、開けた窓から入る心地よい春風のせいでもあろう。

 の彼を起こすのは、まるで老体に鞭を打つようで非常に申し訳ないとは思うが、アタシも『彼』に用があってここに来ているので、今すぐ起こす事に決めた。


 …アタシは寝ている『暗魔おじいちゃん』の肩を優しく叩いて起こそうとした…。その瞬間!!

 寝ているはずの『暗魔』が、アタシが肩を叩くために伸ばした手を逆に握り返す!


「!?…起きてたんですか!」


「へへっまだまだ、お嬢ちゃん。使『証拠』だ」


「…話は『』から大体聞いてるさ。お嬢ちゃん…おいらに『稽古』つけて欲しいんだろ?」


 アタシの手を放しながら言う彼の問に対して、アタシは出来るだけ誠実に答える為に、一回背筋を伸ばしてから一息入れてから、彼に弟子入りを志願した。


「はい!アタ…ゴホン。の、『百鬼葬死流』の真のわざを授けて下さい!!どんな試練も受け入れて、乗り越えて見せますから!!!」


「…あぁ、『稽古』つけてあげるよ。との約束だからね。…ただ」


「…ただ?」


 弟子に取ることは了承してくれたのだが、何だか煮え切らない態度の彼にアタシは疑問に感じる。


「おいらが果たせなかった…。…『カミラ』をおいらの代わりに切ってやってくれないか?」


「昨日が、アイツの身体はああ見えて、もうずいぶんとボロボロになってる…。…だから、何でも無いように振舞ってはいるが、今この瞬間だって『痛み』と『渇き』で苦しんでいるだろうさ…」


「…!」


 『アタシ』や『暗魔』対してあれだけの立ち回りをしておきながら、まだ本領の全力じゃなかった事も驚くが。なにより、彼女らもう、アタシの様に『浄血』の摂取をしていないのか。…考えてみたらそれもそうか。『血蒼』にしたってわざわざ敵に塩を送る事は無いし。でもいくら何でもそんな事あるのか?市場の何処かに在庫だってきっとある筈だし、『黒市場ブラックマーケット』で探せば簡単に見つかるとは思うのだが…。アタシの疑問に答えるかの様に『暗魔』が答えてくれた。


カミラアイツは自分の意思で『浄血』の摂取を辞めたんだろうよ。理由は多分…死に場所を探してるからだろうな」


「…けどわざわざ化け物なる必要なんて無いってのに…。あのバカ娘が…」


「…カミラもかつて貴方に師事したんですよね?『暗魔師匠あんまししょう』?」


「あぁ、そうだよ。アイツに教えた事は、全部お嬢ちゃんにも教えるつもりだよ。…それ以上の『業』もね」


「!!なら『暗魔師匠』!!退院した来週にでもすぐ!!」


「まぁまぁそう慌てなさんな…って言いたいところだけど、どうにも時間が無いみてぇだ。…お嬢ちゃん…いや、『血穢』。…


「!?」


「『』まではここから遠い。…血穢。今すぐ家に帰って荷物を纏めたら。すぐお前さんの『仕事場灯月の家』に向かいな。『送迎』の準備がしてあるはずだ。…お前さんがここに来るちょっと前に『』が


「まぁ…詳しい事は送迎中や現地で訊きな。おいらも一休みしたら、直接『現地』に向かう」


「ありがとうございます!!すぐに準備してきます!!!」


 逸る気持ちが抑えきれず、アタシはいそいそと帰る準備を始める。あわただしく焦るアタシに対して『暗魔師匠』が一言だけ釘を刺した。


「血穢、は悪いけど、お前さんが思ってる以上に。…『覚悟』だけはしっかりしときな」


「大丈夫です!!自慢じゃないけど、こう見えても扱かれてるのは慣れてるんで!!」


「…若いねぇ。本当に。」


 帰り支度が終わったアタシは『暗魔師匠』に入門と稽古の約束してくれた事に対して深くお礼のお辞儀をしてから、「では現地で!!」と彼に言い放ち、病室を飛び出すように家に帰った。
























 アタシ自身、ここまでスムーズに事が運ぶとは思って無かったからなのか、気持ちだけが高ぶって心がふわふわしていた。…今夜から始まる『』の辛さを知る由も無く…。

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