修学旅行1日目。〜やばい〜


(・・そういうことかぁーー)


先に入っててーと言われ、言われるがままに服を着脱し体を洗っている最中、彼の言ってたことを反芻的に思い返してみると、それが一緒に入ろうという意味にようやく気づいた。

 

(..いや、男同士だし、別におかしくはないよな?)


(...ん、でも白木は本当に男なのか?...白木は白木だよな?...ん?..どういうことだ...)


自分で考えていながら思考が迷子になっていると、ドアが開いた。


「...檜のいい香りがするねー」


「っ?!」


 見てはいけないものだと、白木の透き通った綺麗な声が聞こえても向かないように覚悟していたが、それは叶わなかった。


「?」


白木は胸とアレがタオルで丁度隠れるようにしており、無警戒で純粋な顔で、思わず顔を逸らしていた彼を不思議そうに見ていた。


「...あ..へへ、恥ずかしいね..」


彼のそれに気づいたのか、白木は頬を紅く染めながら気恥ずかしそうにしていた。


(...持ってくれ、俺の理性...)


 着々と彼の理性は削られており、これから二回は夜を越さなくてはならないことから先が思いやられた。


そうして、なるべく白木の綺麗な...って、とにかくあまり見ないようにして体を洗っていると、視界の端から白木がチラチラと此方を見ているのに気が付いた。


「・・あー、顔になんかついてるか?」


「え、ぁっ...いや違っ...ごめん、その...すごいなぁって...」


申し訳なさそうにしながら、湯気に温められ頬が少し紅く発色している顔を覆いながらも、指の間から、白木の綺麗な赫い瞳がチラチラと垣間見えていた。


 白木は見まいとしようとしているものの、有名な彫刻にも劣らぬ彼の鍛え抜かれた芸術的な肉体に目を奪われていた。


「あー...そうか。」


確かに、夏の間、日に日に体が引き締まっていくのを感じていた時は自分でも感心していたが、すでに最適化された体になってしまった今では、浴室の鏡越しでも何か思うことはなかった。


「ふう...先いいか?」


 先に体を洗い終わった彼は一応、白木に一番風呂の断りを入れた。


「え、あ..うん。」


 そもそも男同士であるから、特に咎められるわけでもなく済み白木は安堵していた。


「?...サンキュ」


「...ふぅ。」


 一番風呂を先にもらい、源泉掛け流しの湯に浸かると、脊髄反射のようにおっさんみたいに声が漏れた。


程よく熱く、地下深くから地熱で温められた湯は、普段の湯とはまた違った心地良さだった。


しばらく、最高の湯と夕焼けに溶ける京都の街並みを眺め、そして、時折丁度泡で絶妙に、大事なところが隠れている白木を見ながら、最高の時を堪能していた。


すると、泡を洗い流し体を洗い終え、今一度タオルで前を隠した白木が、京都の夕焼けに照らされ白く輝いた美しい髪を、小さく可愛いらしい耳にかけながら、天使の福音を滴らした。


「..僕も、入っていい?」


「....ん、あ、あぁ。」


一瞬、頭がくらっとしたが、露天風呂のせいもあってか考えるよりも先に了承してしまった。


「ふふ、ありがと。」


 そういった白木はどこか余裕さというか、まさに天使のような全てを受け入れてくれる包容力さえ感じられた。


「...く、んぅ..気持ち良いね」


そんな彼の気も知らずに、白木はタオルを前にかけながらゆっくりと湯に入り、彼の隣に浸かった。そして、おおよそ同性のものとは思えないほどの、艶かしく、色っぽい息を吐いていた。


「...あぁ」


白木さんはサラッとすぐ隣に寄ってきており、近くないかっ?!っと言いそうになったが、男友達などいなかった俺は、こういうものなのかと、無理やり流すことした。


「ふぅ...」


白木の温かい吐息が、間近に聞こえる。


 湯に温められ、白木の透明感のある白い頬が、ほのかに火照り、左目の涙ほくろが彼の色っぽさを更に際立たせる。


ピキッ


 何かにヒビが入ったような音がして、無防備に見せつけられた彼の清く純白の首筋に吸い込まれる。


「...白木..」


「..?」


 思わず彼の名を呟くと、俺が本当にこのまま白木を喰らっても、全てを許し、受け入れてくれる女神のような微笑みを此方に向けてきた。


と、その時居室のドアの向こうからよく通る声が通った。


「・・失礼します。そろそろお食事の用意が整いましたので、入ってもよろしいでしょうか?」


「っ?!...あぁ、今行くっ!」


 白木の純白の首筋に噛みつく寸前で、正気に戻った彼は急いで風呂から出て、素早く水気を取って急いで着替えて応対しに行った。


「ぁ..っ...」


 一人にしては広い露天風呂に一人とり残された白木は、ほんのさっきまで彼がいた湯に顔を伏せて、息を吐きながら、か細く綺麗な手で顔を覆っていた。


「ぶくぶくぶく...うぅ...もたないなぁ...」


もし、あのまま...などと考えてしまい、どうしても胸の中で渦巻く行き場のないモヤモヤが取り止めもなかった。




「ーー・・美味しいねっ!」


「あぁ、うまいな。」


 先までの動乱は一旦は一過され、彼らは旅館の夕食を楽しんでいた。


目の前には、浴衣を着たド真ん中ストライクの人が此方に笑いかけてくれており、お焦げのついた炊き立てのご飯に、澄み切った吸い物、煮付けや焼き直しができるサイコロステーキなどを一緒に食べ、まさに最高の時間を共有していた。


「...二人で温泉旅行に来たみたいだな。」


 そして、思わずそういった感想を呟いてしまった。


「っぅ...はは、そう...かもね...」


彼のそれを聞いて初めは鼻でも摘まれた様に、目を見開いていたが、程なくして表情豊かに、どこか気恥ずかしくとも、彼と過ごす時間を慈しむような表情が漏れていた。


あぁ...そう素直な反応を見てしまうと、勘違いしてしまう。


 抑えようのない劣情に駆られそうになり、それを誤魔化すかのように少し残っていた白米とオカズを素早くかき込んだ。


「....ふぅ、ごっそさん。」


「ふふ、いい食べっぷりだね」


 幸いにも彼のそれは伝わってはいなさそうで、白木の目に映る彼はいつも好く見えていた。


「..ふっ、俺は少し体動かしてくる。ゆっくりでいいからな。」


 白木はゆっくりと味わって食べていたので、彼が先に食事を終えた事で変に焦らせたくなかった。


「あ...う、うんっ。」


(...優しいなぁ。海道くんは..)


 さらりと思っていた事を気遣われ、白木は彼の優しさがとにかく嬉しく、花開くような笑顔で彼を見送った。


バタンっ


「....ふぅ。」


 ドアを閉めると同時に、張っていた理性の緒が弛み、彼はドアに寄っかかりながら床に腰をついた。


「...やばい、持たない。」


 目元を抑えながら、何とか前頭葉が持った事へ労いつつも、明日まで持つかは定かではなかった。






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