ガチャ中毒者は低レアリティの推しキャラを最強にしたい〜現代ダンジョンで推し活をしていたら、いつの間にか成り上がってました〜

門崎タッタ

ガチャ大好き男子高校生 佐原トオル


 俺はガチャが好きだ。

 ガチャマシンの取手を捻る時のワクワクや、ソシャゲのガチャを回す時のドキドキ。

 それらには、他の物には変え難い魅力があって、俺の心を掴んで離さない。

 欲しかった物やキャラが出て来た喜びも、ハズレとされる物やキャラが出て来た悲しみも、プライスレスで。

 どちらも、忘れられない思い出だ。


 しかし、ここ数年、俺はまともにガチャを回していない。

 ガチャポンには見向きせず、ソシャゲに課金する事も無くなり。

 中々ガチャを回すことができないから、禁断症状に苦しめられて。

 眠る度にガチャを回す夢を見たり、幻覚でガチャポンが出てきたりしたけれども。

 ……それも、全てはガチャのため。

 幼い頃からずっと回してみたいと願っていた一回150万円の「キャラカードガチャ」を回すためなのだ。


「ついに……ついに、150万貯まったぞ!」


 スマホで口座の残高を確認した俺は荷物をまとめて、バイト先の店を飛び出す。


 ここまでの道のりは長かった。

 先述した他にも、服や靴などは兄貴のお下がりをもらって、漫画などの娯楽は一切楽しまずに、小遣いやお年玉は全て貯めた。

 その上、高校に入学した途端にバイトを始めて、放課後の時間は全て労働に捧げた。


 友人と遊ぶ事もなく、彼女を作る事もなく、クリスマスもお正月も、夏休みや冬休みもバイトバイトバイト……。

 大人数でやってくる幸せそうな家族や、イチャイチャするカップルを他所に、俺はひたすらに接客をしていたのだ。

 いらっしゃいませ、またお越しください、と繰り返す姿はロボットのようで。

 人間性を捨て去った、地獄のような日々と表現しても過言ではない生活だった。

 ……けれど、それも今日で終わりだ。


「ここが、冒険者ギルド兼ガチャセンターか……俺は今日この場所で人生を変える!」


 歩みを止めた俺の眼前にあるのは、些か派手な外装のドーム型の建物。

 ダンジョンに挑む人々が集う冒険者ギルドとガチャセンターが併設されている、現実離れした夢のような場所だ。


「セントラルシティ冒険者ギルド本部へようこそ……佐原トオル様ですね。必要とされる手続きは完了してますので、ガチャセンターの方へどうぞ」


「ありがとうございます!」


 受付の人に礼を伝えた俺は、意気揚々とガチャセンターへ向かう。

 一攫千金を夢見て、冒険者になる事を望む人は決して少なくない。

 そのため、冒険者になるための手続きはネット上で行うことが出来る。

 俺は少しでも早くガチャが回したいため、そのような面倒事は事前に終わらせており、準備は万端で。

 ……俺の人生を賭けた大勝負が今、始まろうとしているのだ。


「おっ、新顔が来たぞ。それも、随分と若い……高校生かな?」


「見るからにソワソワしてて、初々しいな」


「良いカード引ける事を祈ってるぜ、少年!」


「あざっす、皆さん!」


 年齢や性別問わず、色んな人々から声をかけられる。

 当然ながら、彼らは皆、冒険者。

 多種多様なカードを手にして、ダンジョンへ潜り、生計を立てている先輩達だ。

 そんな彼らに会釈しながら先に進むと、数台のガチャマシンが設置してある広場にたどり着いた。

 ガチャマシンの上部には結構な大きさのモニターが備え付けられており、その映像を見るための観客席すらあって。

 冒険者がガチャを回す様子を見物する人々は、複数のモニターに代わる代わる表示されるガチャ結果を見て、一喜一憂している。

 因みに、観客席に座る人々の中には冒険者のみならず、入場料を支払った一般人もいて。

 冒険者がガチャを回す様子は、一種のエンターテイメントと化していた。


「……やっぱり、来てたんですね〜。トオル先輩」


 不意に名前を呼ばれて振り返る。

 すると、そこには、同じ高校に通う後輩である少女、髙橋リンの姿があった。

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