◇Phase 7◇

【高山】


ドライアンとカルミアが山道を歩いている。


カルミア:まだ着かんのか……?

ドライアン:もう少しだ、我慢しろ。

カルミア:貴様、なんという面倒なところに住んでおるのだ。

ドライアン:ベルを地上で飼おうと思ったらこんなところに住むしか無いんだよ。

カルミア:それならいっそ地獄で暮らせば良いものを、わざわざ。

ドライアン:ベルは体が弱くてあっちじゃ生きていけないんだよ。

カルミア:ふむ?

ドライアン:けど、普通の生き物なんかよりはよっぽど強いから、まぁ、目立たねぇように人里離れたこんな山奥になるんだよ。

カルミア:なるほど、そういうことか。

ドライアン:というかお前だって似たようなところ住んでるだろ。

カルミア:まぁ、そうだな。

ドライアン:おかげでウルのことは助かったが。

カルミア:気にするな。

カルミア:……それにしてもこれ、飛んでいくわけにはいかんのか?

ドライアン:まぁ、飛んでいっても良いけどよ。

カルミア:じゃあ、飛ぼう。

ドライアン:いや、この辺意外と悪魔が居んだよ。

カルミア:何?

ドライアン:見つかったらヤバいだろ? 特に一緒にいるところなんて見られたら……。

カルミア:それは、マズいな。

ドライアン:な。だから……、よっと!


ドライアン、崖を乗り越える。


ドライアン:こうして足で登るしかねぇ。

カルミア:そういうことならやむをえまいが。

ドライアン:それに結構似合ってるぜ?

カルミア:何がだ?

ドライアン:その登山服。

カルミア:ほ、ほんとか?

ドライアン:おう。

カルミア:……! い、いや、あ、悪魔の感覚で褒められても嬉しくないわ。だって貴様らのセンス基本クソださいし。

ドライアン:そんなことねぇよ! まぁ、ぶっちゃけセンスは否定しねぇけど、少なくともお前に似合うものくらい分かるぜ。

カルミア:な、なんだ急に!

ドライアン:いや、前に見たあの部屋着もそういえば良い感じだったなって。

カルミア:な! わ、忘れろ!

ドライアン:初めて見たときは、こいつにピンク色なんてって思ったけどよ。

カルミア:余計なお世話だ!

ドライアン:なんか、思い出してみると、うん。結構似合うんだよな。これが。

カルミア:思い出すな! こ、この!

ドライアン:痛い痛い! 叩くなよ……。

カルミア:うるさい! というかどういう意味だ! この悪魔め!

ドライアン:いやお前ってさ、結構可愛いよなって話――

カルミア:ほ、ほぁ!?


間。


ドライアン:あ。いや、い、今の無し! 一般論一般論! あくまで悪魔の一般論!

カルミア:は、はは、そうだな! 私天使だし? 天使は一般的に美しいと言われておるからな! ははは!

ドライアン:そうそう、天使ってそうだよな、さらっさらのプラチナブロンドとか透き通るようにつややかな肌とか、俺は深い空のような瞳がいいなって思うけど……、

カルミア:な……!?

ドライアン:い、いやそうじゃなくて! そういう意味じゃ無くて! 可愛いのはそうなんだけど、それは内面的にも……う、ああああああああ! もういい。

カルミア:ドライアン?

ドライアン:ぶっちゃけ、俺は、カルミアを可愛いと思う。

カルミア:……え? それって――

ドライアン:――もう終わり! この話終わり! 先急ぐぞ!

カルミア:ちょっと、待ってくれ! ドライアン!

ドライアン:待たねぇ! 俺は、行くぞ!

カルミア:いや、それもなんだけど、実はもう疲れて。普段こんなに歩かないから、ちょっと休みたいのだ。

ドライアン:え、あ、ああ! そうだったか! すまねぇ、天使はどちらかというと飛ぶ種族だったもんな。悪かった。

カルミア:いや、良いんだ。私が不甲斐ないだけだ。少し休んだらすぐに――

ドライアン:――おら、乗れよ。

カルミア:乗れよ、とは?

ドライアン:おぶってやる。

カルミア:……いや、え? 本気で言っておるのか?

ドライアン:当たり前だろ? こんなとこで休むより、うちに早く着いた方が良いだろ? 俺はこういうの慣れてるからよ、平気だ。

カルミア:いや、そういうことでは無くて、悪魔が天使を背負うなど……。

ドライアン:あ、ああ、そうだよな。悪ぃ、変なこと言って。俺みたいな悪魔に背負われたく、ねぇよな。

カルミア:そ、そんなつもりじゃ……ええい、ドライアン!

ドライアン:な、なんだ、カルミア。

カルミア:背中を出せ。

ドライアン:え?

カルミア:大人しく背中を出せと言っておる。

ドライアン:な、何だよ。

カルミア:乗ってやる。

ドライアン:いや、無理しなくても――。

カルミア:無理などしておらん、乗りたいから貴様に乗せられてやると言ってるんだ、早く背中を出せ馬鹿者!

ドライアン:カルミア……。

カルミア:早くしろ。それとも私に無理して歩けというのか? この悪魔め。

ドライアン:……ははは、オーケー、麗しの天使さま! この悪魔ドライアン・ダラスめにお乗り下さいませ?

カルミア:うむ。


ドライアン、カルミアを背負う。


ドライアン:おう、意外と軽いのな。

カルミア:貴様ぶっ殺すぞ。

ドライアン:冗談冗談!

カルミア:ふん、あまり調子に乗っておるようならこのちょっと邪魔な背中の翼をもぎ取るぞ。

ドライアン:やめろやめろ!

カルミア:冗談だ。

ドライアン:そうかよ。じゃ、行くぜ、しっかり掴まってろよ?

カルミア:ああ、行くが良い。


ドライアン、カルミアを背負ったまま姿勢を低く構える。


ドライアン:うおおおおおおおおおおおおおおーーーー!!


と、一気に駆け出す。


カルミア:うぁ! ははははははは! はやいはやい! ははははは!

ドライアン:乗り心地はどうだ。カルミア!

カルミア:うむ、悪くない!

ドライアン:そいつぁよかった!

カルミア:たのしいな!

ドライアン:俺も楽しいぜ!

カルミア:私達は一体何をやっているのだろうな!

ドライアン:しらん! でも、生きてるって感じだろ!

カルミア:うむ! そうかも知れぬな! 貴様とならどこへでも行ける気がする!

ドライアン:どこへでも?

カルミア:そうだな例えば、地獄でも。

ドライアン:なら、もちろん天国でもな!

カルミア:ははは、それはいいな。

ドライアン:おう! どこへなりともお連れ致しますよ天使さま!


間。


カルミア:なぁ、ドライアン。これが、自由なのだな――。

ドライアン:なんか言ったか!

カルミア:いや何も!

ドライアン:そうか! さて、もう一息だ。しっかり掴まってろよ!

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