第23話 クレハ様は教育をする

〈レオン〉


 クレハに教えてもらったことを守って本名は名乗らずにジュダと適当に名乗って町を歩いて得た情報などを北の道程で先に待ってると。ターバンを巻いた二人組が来たので身構えるが、すぐにセナとジャルダンと分かって。しばらくすればギンも現れる。


「やっぱ分かってたけどクレハはまだ来てねえんだな」

「そうだねもう既に知ってるかもしれないけどクレハは…というよりパラシフィリア教会が城に拠点を構えてるそうだよ」

「それに加えて今の国王はまだ15になったばかりだとよ。どうしたもんかねえ」


 全員で話しをすり合わせしたかったが。これ以上の話しは他に聞けてないようで、クレハがどう対応するかで変わってきそうだ。


「てかクレハはあの服装で大丈夫だったの?私が見てきた修道女はちゃんと暑い中いつもの服を着てたけど」

「それはもちろん大丈夫だよ、あのクレハだよ?」

「あぁ、レオンは妄信しすぎよ?それにしたってグレファスって男はあまりいい噂聞かなかったし危ないんじゃないかと思ったのよ」


 それを聞いて僕は段々と思考が冷静になっていくのが分かる。体温は暑いのに心が冷えるように。


「それは…いますぐ殺しに行かないとだめかもしれないね」

「ギン、あれ止めてきて」

「おう」


 離してくれギン!僕は今すぐにいかなければクレハが大変な目に合ってしまうかもしれないんだ!


「気持ちは分かるけどあのクレハに限ってそれは大丈夫だろ。実際騒ぎになってないってことはちゃんと偽名も名乗って大人しくしてる証拠だろ?」


 言いたいことは分かるがあの可愛さだ。連れ去られていたとしても不思議ではない。

 こんな…いやこんなと言ったらクレハにすまないがクレハが一番大変な役割だと分かっていたはずなのに後何日この拷問のような日々が続くんだ。


「実際どうなのよ?なんとかできると思う?」

「サラザンドは内乱があったわけでも戦争中ってわけでもねえからなあ…はっきり言ってしまえば無理なんじゃねえか?」

「私も、グランディアに帰って作戦考えるか。教皇暗殺くらいしか想像できないけど?」

「それなら率先して僕がやろう」

「ちょっとレオンは黙っててね」


     ***


〈セナ〉


 ジャルダンも同意見のようだし。どうにかクレハに連絡が取れればいいんだけど…それともあの子はいつものようにおかしなことでも見せてくれるのかな。


 レオンのことはギンに任せてジャルダンと一緒に取った宿に泊まりながら考えるが。


 民も別に不満そうにはしてないし。クレハが前にやっていた暴動とやらが起きそうな雰囲気もない。

 次代の国王も赤ん坊のころからすでにグレファスが統治していたなら、すでに周りの人間も掌握済みだろう。


 ここにグランディア王か魔王でもいればもう少し頭が回るのかもしれないけど、私達に出来ることがあまりにもなさすぎる。


「セナ殿も考えているようであるが、ここはクレハ殿に任せようではないか。魔王様に臆することなく我らを見ても堂々たる振る舞い…傑物でありますぞあれは」

「それは私も思うけど不安…というより心配かな。最近知ったことだけどあの子が無理をしてこの国の人間でも優しくするんだろうなって思っただけよ」


 そう、きっと私達がここですることがなくてもあの子は見つけてくるのかもしれない。

 仮に見つけれないとしても、この国の人を見捨てるなんてことをしないと思ってるからこそ心配なだけなんだ。


 頼むから無茶しないでよクレハ。


     ***


〈クレハ〉


「エリアヒール!このクレハ様こそ真の神託を受けし者!絶対にして無二の存在であり貴方達がすべからく行うことは今までの圧政を虐げてきたパラシフィリア教会を騙る教皇を打ち破ることにあるのです!」

「だからあんたはなんでそんな大仰な態度を取らなきゃ気が済まないんだい!」


 お婆ちゃんが集めてくれた貴族たちとサラザンド国王の中心に立ちこのクレハの鬱憤が溜まった掛け声と回復魔法のおかげで全員が思わず拍手をするという!このクレハがたとえ他国であったとしてもこの扱い!最高過ぎる!


「しかし、我々をお集まりになられたということはベルド様はついに動かれるのですか?」

「オレが?ばあちゃんそうなの?」

「やれないことはないってだけの話しさね。そこの聖女がいるなら回復魔法は教会だけの特権ってわけじゃないんだ。あとは戦力だけ必要ってことかね」

「それは…中立を保ってる伯爵や男爵を味方に付けろということですか…」


 一体何人いるのか知らんがここにいるだけじゃ足りないのか?


「おばばステイです。クレハにも分かるように言ってください」

「誰がおばばだい!ここにいる侯爵たちがいても主要な幹部たちは寝返ってるしなにより今集めてる各地の貴族たちはグランディアと魔王国へ攻めるために軍備を整えてるけど、それを一斉に教会へと集めるってだけさね…説得が成功出来ればの話しだけどね」

「それならばその伯爵たちも集まれば良いではないですか?」

「グレファスがそれを許すならそうしたいけど、貴族同士の集まりには必ずあいつは来るからね…」


 つまり全員を集めようにもせこせこと裏でやらなければならないということなのだろうけど、そしたら多分二か月とか過ぎてヴォルグハイエンがまたやってくるか。

 もしくは戦争でもう向かっちゃうんじゃないのかな?


「対魔王軍の侵攻はいつですか?」

「何の問題も無ければ一か月だろうね。冬になる前に戦力を消耗してる魔王軍に対して西と北も一斉攻撃をかける予定さ」

「それは困ります。魔王軍は多分死なないでしょうけどグランディアが滅ぼされるのは一応生まれ故郷なので守りたい気持ちはありますよ」


 西も北も大事なものがある。このクレハのためだけの信者に、霊峰予定地があるのだから。


「だとしたらどうするんだい?今ここにいるのは反対の意思が疑われて戦力らしい戦力はそんなにいないよ」

「もし貴族たちのお茶会でもなんでもいいですけど集めれるならいつ頃招集できそうですか?」

「今から動けば二週間後には全員…いや辺境は無理でも二週間後にはそれなりに集めることはできるだろうね」

「では、戦争を行う準備を。大量の負傷兵を二週間後こちらに向けて集めることは出来ませんか?」

「なに考えてるんだい?」


 いっそコンサートでも開きたいけど、それじゃなんの意味もなさそうだし。それなら負傷兵を助けた恩義とか言って確実に味方に付けやすい方が良いと思ったんだけど難しいかな?


 もちろんそれだけが狙いではないが。


「負傷兵なら教皇もこちらに連れてくるのに不信感が薄まるんじゃないかと思いました。全てこのクレハが癒します」

「それは…どこまで治せるんだい?」

「生きていれば元の状態には出来るでしょう。生まれた時から身体の欠損でもない限りは治せます」

「うぅむ…」

「失礼ですが聖女様、病気なども治せるのでしょうか?」

「持病を患ってるタイプは治せないですが後天的に菌や毒、病気も治せますね。戦争を止めてくれたらこのクレハが町も浄化してあげることもできるでしょう」


 このクレハの魔法がまだ扱いきれてないのか、見習いと比べて治せるものが変に偏りがある。

 やってる魔法は同じはずなんだけど除菌は出来るし、腕の再生も人間ならそれくらい本来の機能がずっと維持できてればと回復魔法をぶっかけてやれば治せるには治せる。


 デメリットがあるとしたら再生した腕とか足は生まれたてだからしばらく脆いということくらいだ。


「それじゃあんたは教皇の目の前で反乱宣言をするつもりなのかい?」

「おばばは失礼な言い方をしますね。反乱ではないです。このクレハも人のことを言えませんが本来はパラシフィリア教会の物なので一旦パラシフィリアにお返ししてこのクレハ協会にも入信してもらおうと思ってるだけです」


 そこまで説明すれば納得もし始めてるのか考えてるっぽいけど他の貴族っぽい人達はわりと目つきが真剣だしやる気だと思うんだけどな。


「あたしがあんたに言ってやりたいのは、集まった集会でそんなことをすれば援軍が来る前にあんたが殺されてしまうということなんだよ」

「戦争事態を遅らせることが出来ればドラゴンが二か月後にこのクレハ達を運びに来てくれるんですが…」

「…それならあんたが言う聖女に、いや二か月後に迎えが来るならあんたが北と西にも説得しなきゃいかんね」


 パラシフィリア教会の聖女の発言で戦争を遅らせる考えだろう。通話とか出来ればいいんだろうけどそういうの国王代理と魔王がやってたしこのクレハも貰えば良かったと思うが今更だ。


 結局一か月で各国が動けるようにしてるらしいならそれまでにパラシフィリア教会からちゃんと通達した停戦を持ち込まなければいけないだろう。


「ちなみに聞くんですけど、戦争を仕掛けるにしては早くないですか?」

「元々グランディアの援軍という名目でグレファスが言ってたことなんだよ。援軍を遅らせていたのはあんたの存在を知ってから確信したけど、ただ魔王軍が弱体化するのを待ってたんだろうね」


 いやらしい作戦だことで。どうせなら最初から全員で魔王軍に戦いを挑めばわりと人数差で勝てたんじゃないか?


 いや…わりと魔王軍に詳しくないからあれだけど馬騎士の部隊だけでグランディアという一国を相手にしてたなら四天王一人。それ以外が来て結局互角にはなるのかな。


「てことは魔王軍と言うより、今回の作戦がメインでしたか」

「どういうことだい?」

「魔王軍はこのクレハが言うのもなんですが強いです。四天王と言う存在もいますし、グランディアはその一人にボコボコにされてました。その四天王一人を確実に倒すためにグランディアを生贄に一度滅んだグランディアに駐屯してる四天王を倒す…とかですかね」

「それが本当ならそうなんだろうね。じゃあ魔王軍を襲う理由が何だいって話だよ」

「時間稼ぎじゃないですか?グランディアに庇護下に入れと通達もありました。一度取り返して正当な庇護下に入るという連絡も貰えば形だけのサラザンドより中央の国の方が便利だったとか?」


 まぁ、推測は自由だ。実際にグランディアに庇護下に入れと言ってきてたわけだし、中央からパラシフィリア教会を自分の物にしたいと考えていたならあながち間違いでもない気はする。


 今はこの国でやれることを考えた方がいいとしても、このクレハが出来るのは味方を作ることとして回復魔法をかけるくらいしかできない。


「あんたの作戦を決行しようじゃないか、他の連中も今すぐに周辺のやつらに連絡をとりなベルド様が立ち上がったと言えば伝わるだろうさ」

「あ、あとおばばと他の皆さんも。この徽章を持ったクレハの仲間がいます。神聖グランディアの住民票としてのサンプルですけど、そこに魔族…魔王国の援軍もいますから集会にこっそりと連れてきても驚かないように言っておいてください」


 念のため全員に再度浄化をかけてそれらしく振舞って見せれば過去一番かもしれない待遇を受けた。


「「「はっ!聖女様!圧政を打ち破りください!」」」

「このクレハに任せなさい!おばばとサラザンドの国王ももっとこのクレハに感謝なさい!」

「オレはあまり…」

「坊ちゃんももうこれが最後のチャンスかもしれないんだ。腹をくくりな」


 その前にレオン達に連絡を取りたいと思っておばばに相談してみれば。貴族の一人に伝言を頼ませてやればいいとのこと。


「勇者様の伝言役確かに承りました」


 グランディアの貴族もこんなんなのかな?それとも比較的まともな人だけがここにいるのかは分からないが…いや教皇が人選して嫌いなやつをいじめて心底待遇が悪かったからこのクレハとおばばたちに従順なのかもしれないし細かいことはいいか。


「おばばとサラザンド国王はどうするんですか?」

「あたしと坊ちゃんが表で動けば反乱の企みもばれるだろう?それなら大人しく時が来るまでいつもどおりさ」

「オレは…わかんね。ばあちゃんが無事ならそれがいい」

「ではこのクレハが回復魔法を教えてあげましょう!」


 さすがに腕を切らせるなんてことはしないが、クレハ的にポイントを押さえればある程度分かるはずだ。


 あ。ロザリーとして動いてたのどうしよ?まぁ今更一人いなくなっても気にされないよな?


     ***


〈ベルド〉


「まずは簡単なものとして人間が筋力を使う際に消費しているアデノシン三リン酸こと通称ATPがありますが、これを消費して無くなればアデノシン二リン酸というものになってクレアチンリン酸というものが通称ADPを結合して再度アデノシン三リン酸になって疲労なども回復できます」

「ばあちゃん分かるか?」

「人間が魔力以外にも色々持っててそれを魔法で治せってことじゃないかい?」

「まぁそうですね。傷なんかもぶっちゃけて言えば細胞分裂して皮下組織が盛り上がってくるものと思ってもらえたらいいです」


 言ってる意味が分からないが、教会の連中が話してた内容は祈りとか修練であって。こんな言葉を使って説明されるなんて思わなかった。


「オレでも使えるのか?それ」

「意味は理解したほうが効き目が多分違うと思いますけど。思いっきり動いて疲れた後にADPを増やせと思い結合しろと思えば疲れがなくなっていきますよ」


 そう言われて手渡されたのは部屋に置いてあった本を5冊。これを持ち上げろってことなのだろうか。

 片手で持ち上げてみれば、聖女も腕をぶんぶん振ってるので同じように何度も本を持った腕を上下すれば多少なりとも疲れてきたか?


「あとは体内に循環してる魔力をそこの部位に集中して呪文を詠唱してさっき言ったとおりにしてみてください。やり方は攻撃魔法を使う感覚で良いと思います」

「ヒ、ヒール?」


 疲労が心なしか和らいだ気がしないでもない?だけど実際そんなに疲れていた訳じゃないが魔力が多少減った感覚がしたから多分魔法行使自体は出来たんだと思う。


「坊ちゃんどうだね?」」

「多分魔法は発現したと思うけど…回復魔法ってそんなものなのか?」

「傷を治したりは実際に傷を負わなければいけないので試しませんけど、人間は基本的に説明ができる生物ですからどう治せばいいのかを分かっていれば大丈夫だと思いますよ」


 目の前にいる人が教会の胡散臭さというよりは最初は頭のいかれた奴なのかと思ったら、教えるという言葉の通りそれを説明してる様はばあちゃんや剣の稽古をつけてくれた教官のようで見た目とは違うのは年齢詐欺でもしてるのかと思う。


「おばばは腰が痛いとか最近ないですか?」

「そりゃ…多少はあるよ」

「さすがにこれを説明するのは面倒くさいんで同じ呪文ですけど違う効果のものをかけてあげましょうヒール」


 するとばあちゃんの肌も綺麗になって…若返った?なんで?


「あんた…こりゃ一体なんだい?」

「本当は浄化だけでもいいんですけど、回復したい細胞の活性化場所を変えました。人間は寿命というものがありますけどそれは細胞分裂に限界があるからです。なので新たに元々おばばの持ってる細胞の一番新鮮な部分を全体に移植した形になりますね」

「もう言ってる意味がわからないけど…これは回復魔法とは言わないんじゃないかい」

「このクレハも修練というやつをやってきましたけど、見て覚えろの一点張りだった分かりづらい回復魔法よりこっちの方が分かりやすくないですか?」


 聖女とは全員そう言うものなのか。それとも本物の聖女だからできることなのだろうか。すげえ。

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