第20話

 そしていよいよ食事会は終わりの時を迎え、最後にオレフィスが全員の前に立って挨拶を行うこととなった。


「いやいや、皆様本日はありがとうございました。本当は皆様で和気あいあいと食事を楽しもうとして企画したのですが、気づけば僕とイーリスの関係を見せびらかす、惚気会のようになってしまいましたね(笑)これは申し訳ない(笑)」

「「はっはっは(笑)」」


 オレフィスの言葉を聞き、会場の人々はつられて愛想笑いを浮かべる。オレフィスの隣に立つイーリスは彼の腕に強く抱き着いており、自身の溺愛されぶりをアピールする。そしてそんな彼女が見つめる視線の先には、カタリナの姿があった。


「(あらあら、悔しそうな顔をしているわね♪これでよくわかったでしょう?誰が一番オレフィス様に愛されているのかがね♪)」

「(…その勝ち誇った表情、ほんとむかつく。…まぁいいわ。お兄様の中であなたの価値は少しずつ下がっていっていることは間違いないのだから、いずれ立場は逆転するんですもの。今だけのいい気分を楽しんでおきなさいな)」


「本当は我がお兄様であるレイブン第一王子にも挨拶をいただきたいところですが…。まぁ、誰からも求められてはいないでしょうし、飛ばしてしまいましょう(笑)」

「はっはっは(笑)」

 

 いずれは第一王子レイブンを追放し、名実ともに自分のみが王となるという野望を持つオレフィス。彼にとっては兄であるレイブンにこのような挑発を行うことに、なんのためらいもなかった。


「(オ、オレフィスめ…。どこまで好き勝手をすれば気が住むのか…。お前の持つその権力は、自分の欲望を叶えるためにあるものではないというのに、なぜそれがわからない…!)」


 レイブンとて、この場で反論を始めたい気持ちはやまやまだった。しかし王国王子である二人が公衆の面前で口喧嘩など始めてしまっては、それこそ王宮の権威や信頼を自ら捨てるにも等しいこと。ただでさえエレーナを失って不安定な状況にあるというのに、これ以上の混乱が巻き起こされることだけは防がなければならかった…。

 …が、彼の妻の方は我慢できなかった様子…。


「ちょっとあなた!!実の弟からあんなに馬鹿にされて、どうして何にも言い返さないのよ!!第一王子は軟弱だなて周りから見られたら、私まで同じ目で見られるじゃない!」

「わ、わかってくれユーフェリス!この場で私たちがけんかを始めるわけにはいかないんだ!起こりたくなる気持ちはすごくわかるけれど、今は我慢することこそがなにより私たちのために」

「はーーーーぁ。…こんなことなら、あなたでなくオレフィス様と婚約するんだったわ…。前々からうすうす思ってはいたけれど、第一王子ともあろう人間がここまで情けないなんて…」

「ユ、ユーフェリス…」


 ユーフェリスはレイブンの隣から離れると、彼への当てつけのように周囲の貴族男性と話をし始めた。そんな姿を見せられ、レイブンの心の中にはさらなる怒りの感情が沸き上がる………ものの、彼は再びそれをコントロールし、深く深呼吸をしてなんとかその気持ちを押しとどめた。


「ああ!!今みなさん、自分もイーリスと結婚したいと思ったでしょう~??だめですよ!もうすでに彼女の心は僕のもとにあるのですからね~!」


 いまだに自慢を繰り返す兄オレフィスにはかまわず、レイブンは別の人間のもとを目指した。ほかでもない自分の実の妹、カタリナのもとへと。


「カタリナ、ちょっといいかい」

「あら、レイブンお兄様。オレフィスお兄様にあんな好き勝手なことを言われて、何も言い返されなくていいのですか?」

「……まるでそれを望んでいるようだね、カタリナ…」

「さぁ、なんのことでしょう?♪私はただ、思っていることは我慢せずに口にされた方がいいのではないかと、アドバイスをして差し上げているだけですわ♪」


 オレフィスとレイブンが言い争いを始めたなら、間違いなくイーリスにもその火の粉がとびかかる。カタリナの狙いはそんなところだろうかと、レイブンは冷静に分析した。


「…そんな話をしに来たんじゃない。オレフィスは最近、自分勝手にやりすぎだとは思わないかい?彼の持つ権力は、決して自分勝手に国を自由にするためにあるものじゃない。このまま彼を自由にさせたら、それこそ取り返しがつかなくなるかもしれない…。それではいけない、僕と一緒にオレフィスを説得してはくれないか?彼を愛する君の言うことならば、きっとオレフィスも」

「あの……。そんなことをして、私に一体何のメリットが?」

「メ、メリットだって…?」

「私は別に、オレフィスお兄様が好きだから愛しているわけではありません。私の言うことを何でも聞いてくれる、理想のお兄様だから愛しているのです。…むしろレイブンお兄様の方こそ、オレフィスお兄様を見習っていただきたいですね。国のためだの人のためだのとよくおっしゃっていますが、正直そんなの堅苦しくてやっていれらせんもの」

「か、カタリナ…」


 同じ二人の兄でありながら、カタリナがオレフィスにばかりすり寄るのにはこういう理由があったのだった。


「さて…。本当はもっともっと皆様に僕たちの愛し合う姿を見ていただきたいのですが、残念ながらお時間が訪れてしまったようです…。それでは最後に、とびっきりの僕たちの愛をご覧に入れ、フィナーレとしましょう!!」

「っ!!」


 オレフィスはその言葉と同時に、イーリスを自身の胸の中に抱き寄せその口を重ねた。熱く情熱的なそのキスを見せられた人々の感想はさまざまだった。


「す、すっごいエロいなぁ…」

「い、いいなぁ…。第一王子にもなると、生きているだけであんな思いができるのか…」

「何言ってるの…。人のキス見ても、気持ち悪いだけでしょう…。早く終わってくれないかしら…」


 オレフィスは瞳を閉じ、イーリスとのキスの味を堪能していたが、イーリスの方は時折その瞳を解放し、カタリナの方へ視線を送っていた。視線だけで伝わる、勝ち誇った思いを伴わせて。


「(…ほんっと、どこまでもうざい女…)」

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