人を捨てた日

 俺たちは、辿り着いた青い星に降り立った。機械音声の言ったとおり、そこは俺たち地球人が暮らしていける環境の星だった。

 ただし、


「……なんだ、あれ」


 仲間の一人が頭上を仰ぎ見る。

 そこには、


「嘘だろ?」


 そこにいたのは巨大生物だった。俺たちが戦っていた巨大怪獣とはまた違う。しかし、大きさはそれと同等だ。ということは、俺たちでは歯が立たないということだ。

 スーパーグレイトマンがいなければ。

 巨大生物が咆哮する。

 どうやら新しい獲物を見つけたようだ。つまり、俺たちだ。


「逃げるぞ!」

「今はそれしか、ないか……!」

「急げ!」


 そうして、その場はなんとかやり過ごすことが出来た。しかし、この星で平和に暮らしていくのは困難だと思われた。それから数日を過ごすうちに、幾度か似たような生物に遭遇したからだ。

 ここは巨大生物たちの闊歩する惑星だった。

 俺たちに襲いかかってきたのはあの一匹ではない。複数の個体が存在する。共存できそうならまだよかった。だが、彼らは俺たちを獲物だと見なして襲いかかり、どこまでも追ってきた。


「他の星を探した方がいいんじゃないのか?」

「いや、次に住める星が見つかるまでどれくらいかかるかわからない。さすがにそれまでに食料や燃料が持つかどうかは……」

「この星には知的生命体がいません。しかも、我々が生きていける環境は素晴らしく整っています。こんなに私たち地球人に都合のいい星が他に見つかるかどうか……」


 出来るならば、この星に腰を落ち着けることを望んでいる者が多かった。再び宇宙空間で当てのない旅に出ることが得策とは思えなかったからだ。


「ああ、俺たちが同じような大きさだったら戦えるのにな」

「スーパーグレイトマンだったら対抗できそうだよな」

「ああ、せめて人造スーパーグレイトマンがあれば」

「そんな、無茶ですよ。いえ、待ってください。あれを転用すればあるいは……」


 隊員の中で一番科学に精通している男が何かに気付いたように呟いた。


「何か方法があるのか?」

「いや……、でも、しかし……」

「今は躊躇ってる時じゃないだろ。何か出来ることがあるなら聞かせてくれ」

「……」


 彼は言いにくそうに口籠もった後、説明を始めた。


「人造スーパーグレイトマンを造るにあたって、スーパーグレイトマンを研究していたことはわかりますよね?」

「ああ」

「実は、そのデータを持ち出してきたんです」

「何!? でも、そんなものがあっても出来ることなんか……。ここにある機材じゃ、人造スーパーグレイトマンなんか造れないだろ」

「違います」


 彼は言った。


「このデータを人間に転用するんです」

「!?」




 ◇ ◇ ◇




 俺は目を開けた。立ち上がる。自分の身体が借り物のようだ。

 目に見える世界は、地球にいたときに見たものとよく似ていた。目の前には見上げなければならない景色ではなく、等身大の景色が広がっていた。


「これは……」


 俺は呟く。その声が妙に響いて聞こえた。


「やりました! 成功です!」


 足元から声が聞こえた。正直、こんなに身体の大きさに差があるのだ。充分に聞き取れる方が不思議だ。だが、聞こえる。大きさだけでなく、身体の組織が他にも変わっているのだろうか。

 仲間たちの歓声が聞こえる。

 成功したのだ。

 失敗するかもしれない、命の保証はない、と聞いても俺は志願した。誰かがやらなければいけないなら、俺がやらない理由がない。

 誰かを守りたい。それが、俺が地球防衛隊に入隊した理由なのだから。

 スーパーグレイトマンの後ろで弱い兵器を使っている役に立たないヤツら。そう言われていたことは知っている。

 それでも、俺の気持ちは本物だった。

 ヒーローになりたい、そんな気持ちがどこかにあったのは認める。子どもの頃から、スーパーグレイトマンに憧れていた。

 俺もあんな風になりたいと。自分の力で人々を守りたいと。

 今、それが叶った。


「来ましたよ!」

「ああ、行くぜ!」


 俺の声には聞こえないような、俺の声が響く。

 向こうからやってくるのは、この星に住む巨大生物だ。いや、違う。今はもう、俺と大きさは変わらない。

 俺は、この星に適応する大きさへと変貌していた。変身と言うべきか。スーパーグレイトマンエンデがしていたように。

 だが……。


「危ないっ」


 巨大生物が近付いてくる。

 巨大生物がうなりを上げて俺へと向かってくる。体当たりするつもりのようだ。

 俺は機敏な動きで怪獣へと向き直る。巨大化したはずなのに、身体が軽い。

 ぶつかる寸前にひらりとかわし、巨大生物の頭を脇で挟み込む。巨大怪獣は抜け出そうとじたばたもがく。それを押さえつけていられるのは、我ながらすごい力だ。

 とはいえ、このままずっと押えていても仕方がない。俺は怪獣の身体を持ち上げ、遠心力で振り回した。

 そして、手を離す。

 怪獣は鳴き声を上げながら、飛んでいく。

 俺は、スーパーグレイトマンのようにあの構えを取った。

 出来るはずなのだ。今の俺は、スーパーグレイトマン同様の力がある。


「ハッ」


 気合いのかけ声と共に、怪獣に向かってそれを放つ。

 眩しい光が巨大生物を貫いたかと思うと、その巨体は爆散していた。

 きっと出来るはずだと言われていたが、実際にやってみるまで信じられなかった。

 俺が、この手でスーパーグレイト光線を放つことが出来るなんて。

 しげしげと自分の手を見てしまう。信じられない。

 だが、現実だ。


「やったな!」

「やりましたね!」


 気付くと巨大生物を倒した俺に、仲間たちは嬉しそうに手を振っていた。

 その姿が今の俺には遠い。

 エンデのように、とは言えない理由。

 それは、この変身が一方通行だということだ。

 俺は、二度と元のサイズには戻れない。このまま一生生きていくしか、無い。

 それでも俺は自分が選んだことを後悔などしていない。


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